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なに、なんなの。

口の中で声にならない声を上げる。わけもわからず速足で歩き出していた自分がいつから走っているのかわからない。
わけがわからない。ぎゅ、と胸の辺りを握って足を止めれば心臓は速いし息も荒かった。
どうして俺は逃げ出した。いや、逃げ出してなんてない。ただ、あの場所から離れただけ。理由になってない。ならなぜ離れた。
自分で自分を追い詰めて頭を掻きむしれば浮かんでくるのは自分が逃げ出したあの場所の、

あいつが泣いた顔を見た。あの化け物が、肩を震わせて泣いていた。

意味わかんないよ、シズちゃん。

なんだか俺も泣いてしまいそうだ。
その場にうずくまって地面に向かって拳を握り落とすとすごく痛かった。当たり前だ、俺はあんな化け物じゃない。

「痛いんだよ……どっか、わかんないけど」

泣き言のように口をついた言葉のなんと情けないことか。くだらない。
拳が痛いけれど、多分血が滲んでいるけれど、そこじゃなくて、もっと違うところが痛いんだ。わけわかんない。

「化け物が、泣いたりするなよ…」

そんな、人間みたいな。化け物のくせに。化け物。

ぐ、と唇を噛み締める。何かが崩れてしまいそうで、怖くて。ギリ、と音がして鉄の味が口に広がって気持ちが悪かった。
だめだ、崩れる。何がなんてわからないけど、俺の中で確かに何かが崩れた音がした。

ああ、なんて末路。




殺してもらっていいですか
(俺の中に逡巡する、この感情を)