走って走って、たどり着いたのは公園だった。 ちょうど空いていたベンチに座り込み、息を落ち着かせる。 「バカか……俺、」 髪をくしゃりと掻き、傷んだその金髪に嫌悪した。 昨日の人は、遠目からでもわかるほど綺麗な黒髪だった。 「ふ……っく、」 ぽろ、と涙が零れる。 幸い人は少なく、いても遊具の方に集中していて人目を気にする必要はなかったけど、そんなことで泣いている自分が恥ずかしくて顔は隠した。 こんなところ誰にも見られたくない。 そのままどのくらい泣いただろう。 そろそろ泣き疲れたころ、ベンチがぎしりと揺れた。 「……?」 そっと顔を上げると、隣に座っていたのは息を切らした上司の男だった。 そういえばあの時仕事を放り出してしまっていた、と途端に申し訳なくなる。 「す、すみませ……っ、俺っ」 頭を下げようとした瞬間頬にぴたりと冷たい感触がした。 驚いて見ると、トムさんがコーヒーの缶を掲げて笑っていた。 「いきなり走ってくから驚いたぞ。ほら飲むべ」 俺に触れた方を差し出してきて、もらうともう一本買っていたらしい同じ銘柄のコーヒーのプルタブを開ける。 仕事を投げ出して来た分いたたまれなくて横目で伺うと、うすく汗をかいていた。 「あの……探しました?」 「結構なあ、公園にいるとは思わなかった」 ああ、やっぱり。 いたたまれない。 俯いてから泣き腫らした目や珍しくした化粧が涙でよれているとかに気付いて断りを入れてから公園のお手洗いに入る。 鏡に映った自分の顔はやっぱり最悪だった。 「化粧なんかするもんじゃねえな……」 もちろん化粧品なんて持ち歩いてるわけもなく化粧直しなんてできない。 もともと薄めにしかしてないからどちらかと言えば赤くなった目のほうが気になるが、それでも一応女としては化粧が気になるところで。 ぐだぐだと考えながら結局どうすることも出来ずお手洗いを出る。もうさっさと帰って化粧なんて落として寝てしまおう。 そう思い、ベンチに座ってコーヒーを飲む上司の元へ戻る。 「あの…」 今日はもう上がってもいいですか、と、そう続けるはずだった。 このままじゃろくに仕事なんて出来ないし、あの男の影がちらついて仕方ない。なのに、なのに。 「シズちゃん!!」 その男が、息を切らして、汗だくになって、走ってきて。 驚いて振り向いた瞬間、俺はその男の胸の中にいた。 「いざ……や…?」 肩が上下する感触が続き、息もはやい。それだけでずっと走っていたことが窺えた。 目の端でトムさんが肩を竦めて、お役ごめんとばかりに手を振って去っていって、余計意味がわからなくなる。 臨也はそんなことに向ける意識もないのか相変わらず肩で息を切りながらやっと口を開いた。 「なんで、あんな顔したの、」 息の合間に言葉が溢れる。 その声は真剣で。 「なんで化粧してたの、」 「いざ…」 「なんで、そんな、泣き腫らした目、してるの」 ぎゅう、と抱きしめられる力が強くなる。 苦しかったけど今までにないくらい臨也に近くて、幸せだった。だけど、昨日の光景が頭に浮かんで、やっぱり苦しい。 「なんで、そんなこと聞くんだよ…」 苦しい。期待してしまうから。特別なんじゃないかって、思ってしまう。 なのに臨也は、その考えを覆す言葉を言ってのけた。 「好きだからだよ」 「は……」 意味がわからなくて、そうしたら臨也がもう一度「君のことが好きだからだよ、シズちゃん」って言うから、信じられなくてまた涙が溢れてきた。 メイビーロスト・ガール (信じて、シズちゃん) ---------- この臨也は天然たらし。女の人とも仕事関係でとくになにかあったわけじゃないのです。静雄に向かう臨也の方が甘ったるいのに静雄は他の女の人と一緒なんじゃん…と。…わかりにくい! この後、説明してくっつきますが「え!?シズちゃんそれって嫉妬!?大丈夫だよシズちゃん!そんな嫉妬深い君のためにもう女と話したりしないからね!!」となると思います。 |