ぼんやりと目を覚まし、暗闇の中でも見える目で少しだけカーテンを開ける。 昼間だと痛いからと少し警戒したが、外はもう真っ暗だった。 臨也に起こされないとこれだから困る。昼飯を食べてないからお腹がすいた。 「…」 さてはあいつなんか危ないことしてやがるな。 いつも何か危険な仕事の時は貧血になるからと俺を起こさず昼飯も寄越さないままどこかに行ってしまうのだ。 「……腹減ったあ…」 起き上がっていた身体を反転させ、俯せでベッドに沈み込む。 まだ帰ってこないのだろうか。もし死んでしまったりしてたら困るぞ。飢え死にする。 「ううう……」 冷蔵庫にプリンあったっけ。 腹は膨れないけど多少気が紛れるかも。……あ、昨日最後の一個だった。ああもう散々だ。 「いざやああ……」 呟いた瞬間、鍵の回る音がした。 急いで起き上がり、玄関に向かう。臨也の匂いがする。臨也の、血の匂いがする。 ガチャリと開くドアの向こうには存外ピンピンしている臨也。ただ、首やら腕やら包帯が巻かれていて、そのどれもに赤が滲んでいた。 「いざや…?」 「ああ、シズちゃん。お腹すいたでしょ?ごめんね。意外にてこずっちゃって…いいって言ったんだけど、セルティがどうしても新羅に診てもらえって言うもんだから」 軽く謝りながら玄関に上がり、靴を脱ぐ。 鍵はオートロックで閉まるからいいとして、俺はお腹がすいているのだ。 …なのに、噛み付くように足が進まない。 「…シズちゃん?どうしたの?」 いつもなら真っ先に飛びついてくるのに…。 訝しげに首を傾げながら近付いてくる臨也。だんだんと血の香りが濃くなり、つい喉を上下させてしまう。だけど、 「今日は、いい」 「えっ?」 「臨也が死ぬのは困る、し、今日は誰か他の人に…」 臨也を見ると噛み付いてしまいそうだったから、視線をさ迷わせて臨也と入れ違いに玄関から出ようとする。 臨也が一番の供給源なのに、死んだら困る。我慢するのはそれだけの理由だ。きっと、それ以外の何物でもない、はずだ。 なのに臨也は強く俺の手首を掴んで、俺が出ていくのを阻止した。 「他の人?そんなの許さないよ。なんでそんなこと言うの?俺の血、好きでしょ?」 驚いて臨也を見てしまう。 そうしたら、もう限界だった。 包帯の上から歯を突き立て、ジュルリと血を啜る。 臨也の血は甘くて、暖かくて、おいしい。 「は…ふ、」 「はは、おいしい?シズちゃん、」 「ん、おい、し」 さっきまで白かった場所にも血の色が移りはじめる。もったいなくて、包帯にも吸い付いた。 「ね、もう、他の人の血吸うなんて言わないで、ね?」 「ん……、」 なんで我慢しようなんて思ったんだろう。 いいじゃないか、こんなにも固執してくれてる餌に、そんな気遣いなんていらない。 でもな、臨也。 ずっと一緒にいたら、きっと、ちょっとくらい、情が移るんだよ。 正式な感情名はわかりません。 (ただ、少しだけ、ほんの少しだけ、) (あなたのことが心配です、) |