「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


君を誰より愛してる
一生離さないって誓って
キスを落とした錆びれた指輪


なんてベタで甘ったるい歌かと思う。こいつの歌はいつもこんなのばかりだ。
なのに売れるのはまあ、容姿端麗、眉目秀麗、歌唱力もありファンにも優しい…と、そんなもんで十分だろう。
実際はそんなもんじゃないが。

ステージで淡い光を浴びながら歌う臨也のバラードは大衆を黙らせるそれはそれは素晴らしいものなのだと俺でもわかる。いや、俺が一番わかってる。
だけど、だからこそ、俺は大きな溜息をついて、舞台袖から楽屋へと移動した。



「シズちゃんー?」
「おう、終わったのか。お疲れ」

それから二時間ほど経ったか、ジュースを持って楽屋に入ってきた臨也を見て煙草を灰皿に押し付けた。
雑誌も閉じてスケジュール帳を出す。
栞を挟んだページを開くと次の仕事まであと二時間。余裕を持って行くことを考えても現場までは一時間前に出発すれば十分間に合う距離だ。

「意外と早く終わったな。余裕あるからゆっくりしていいぞ」

臨也は「そ、」と返して缶のプルタブを開けた。ぐい、と喉に流し込んでから隣の椅子へ腰掛ける。

「あのさあ、どうせなら最後まで見ていきなよね、マネージャー」

それはどことなく不機嫌そうな声で、またかと思いながら臨也を見るが臨也は鏡の中の自分を見ているだけだった。

「…お前がヘマやるとも思えないし、お前の歌は…なんていうか、」
「…わかってるけど、」

それきり口をつぐんでしまい、なんとなく嫌な空気が辺りを漂う。
余裕あるなんて言わずにさっさと出発すればよかったな。

机に軽く頬杖をついて横目で見る臨也はテレビで見るものと変わらない、はずなのに、どことなく幼く見える。容姿ではなく内面が滲み出ているというか……今のは拗ねてるという。

「…悪かったよ。次バラエティの収録だっけ?それは最後までちゃんと見る」
「…ほんと?」

ちらり、と俺を窺いながらも嬉しそうな目を俺は知っている。
ほんとだよ、と返すと押し付けがましく「今度は歌もちゃんと聞いてね」と言われた。


臨也の歌は、簡単に言うと俺への告白である。
甘ったるい歌詞も曲も全部臨也が作っていて、その全てが俺に向けてのものだからいたたまれない。

前に雑誌のインタビューで、記者に「折原さんの曲は誰かに向けたものですか?」という質問に臨也は「僕を一番応援してくれてる人に向けてですよ」と答えた。…隣に立つ俺の手を、テーブルの下でそっと握ったことは忘れておく。その後、もちろんシズちゃんのことだよ、と微笑まれたのも、まあ、蛇足だ。

つまり俺からすると大衆の前で愛を語られているようなもんで。
最後まで聞けないことくらいわかってほしい。
…俺は嫌がらせされてる気分だ。


「…ね、ちゃんと、俺の告白聞いてね」

今度は二万人の前でね!…なんて、頭が痛くなるんだよ、バカ。




君へのリリック
(もう十分届いてるから、勘弁してくれ…)