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「シズちゃん、」

耳に届くいつもよりも数段小さな声は、殺したい程に嫌いで嫌いで大嫌いな奴のもの。
ああでも、なんかいつもよりもマシに聞こえる気がする。声だけでイラつく奴だと思ってたけど、それほどでもない、ような。……気のせいだ。

「シズちゃん、ねえ。」

頭の上から聞こえるそいつの姿を想像してみる。
多分、前の席に後ろ向きに腰掛けて俺の机に頬杖ついて。…退屈そうに俺の頭を見てるんだろう。

「いい加減起きないの?下校時間とっくに過ぎてるよ」

じゃあ帰ればいいのに。
触らぬなんとやらに祟りなし、ってのか、寝てる俺に近付いてくるやつなんて一人もいなかった。
だからこそ俺はこいつが近付いてくるまで寝てたわけで。

「ほんっと、憎たらしいよね」

その言葉に反応しそうになったところで、さら、と俺の髪に何かが触れる。
なんだ、これ。

「ほんと、ムカつく。シズちゃん、なんでそんな不用心に寝てんのさ。殺しちゃうよ?」

さら、さら、と髪を梳くように撫でていく指先に動けなくなる。
わけがわからない。こいつからこんな優しく触れられる覚えなんてない。

「シズちゃん、」

なんだよ、わけわかんねえよ、そんな風に話し掛けてきたことあったか?
いっつもムカつくことをムカつく声でムカつく口調して、

「好きだよ」

続く台詞に目を見開いたけど、幸い机に突っ伏して腕で隠してた顔を見られることはなくて程なく足音と教室の扉の開閉音が聞こえた。

「わっけわかんねえ………」

ありえない程熱い顔に、明日からどんな顔して会わなきゃならないのか今から億劫になった。




寝たふりの代償は
(大嫌いなあいつへの明日の俺)