「君は自己中心的だよね。一見謙虚に構えてくるくせに実際言ってることは最低だ。そこも踏まえて俺は君が好きだけど、それを繰り返すところは嫌いだよ」 そんな言葉をいくつ投げつけられても、そんな言葉で何度刺されても、痛くも痒くもありゃしない。 だけどきっと、嫌われたら死んで地獄に落ちるくらい痛いって、わかってる。 「それでも知りたいって言ったら、怒るか」 「怒らないよ。怒らないけど教えない。それにね、知ったからって過去の俺が君のものになるわけじゃないんだよ」 ああそうか、恋って、そういうものじゃなかったんだ。 一瞬見開いた自分の目に映る臨也は俺の知っている今の臨也。俺の恋人で、俺の好きな臨也。 恋したらそいつの全てが欲しくなるものだと思ってた。だから俺は欲しかった。過去の臨也も、今の、俺の知らない臨也も、未来のこいつでさえ自分のものにしてしまいたかった。 「仮に昔の俺を知ったとして、仮に今の君の知らない俺を知ったとして、俺は俺のものでしかないしそれで簡単に俺の未来を君にあげることはできないよ」 それは正論だ。悲しくなるほど正論。臨也の全てを知ったって、臨也は俺のものにならないと。 じゃあ、俺はどうすればいい? 恋なんて知らないんだ。 ましてや愛なんて誰が教えてくれる? 誰も近付いてこなかった俺に、誰もそれを教えてくれなかった。 知ってしまったんだ。 胸が痛くなるって感情を。 どうしようもなく会いたくなるって気持ちも、どうしようもなく触れたくなるって衝動も、お前のせいで知ってしまった。 「無理だってわかってても、お前の全部が欲しいんだ、俺は…」 感情が、身体が、過去が、未来が、今が。 全部全部自分だけのものにしてしまいたくて仕方がない。 だってお前がいなくなったら、俺は誰を愛せばいい? 俺に愛を教えてくれるのはお前だけなんだろう? 「俺だって欲しいよ、シズちゃん」 ぽつりと呟かれた言葉は微かにしか耳に届かず消えていった。 聞き返そうとしたところで抱きしめられて、またぽつりと何かが聞こえる。 「君の全てが欲しいんだ、俺だって」 ああ、でももういい。 今この瞬間だけは臨也は俺のものなのだ。 これからも、俺は臨也の全てを求め続ける。どんなに無理だと突き放されたって、だって恋とはそういうものだろう? 過ち精神恋愛論 (化け物の俺を抱きしめる奴なんて、臨也以外にいないのだから) |