「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


その姿を美しいと思った。
標識を振り回して、自販機を持ち上げて、ただ殴って、そして最後に立っているその姿が、揺れる金髪が、いっそ彼の全てが、美しいと感じたのだ。
そう思い始めたのがいつからだなんて、俺だって覚えちゃいない。


今日も今日とて池袋に行けば奴がくる。
毎回毎回面倒だと思いながらも本当は嗅ぎ付けてくれるのが嬉しい。……だなんて、俺も馬鹿だ。

「本当君ってしつこいよねえ……」

ナイフを出しても彼に致命傷を与えることなんてできないわけだけど、コートから出したナイフを持って、ため息をつきながら標識に手をかける彼を見る。

「しつこいのはテメエだろ…?来んなっつうのがわかんねえのか、ああ゙?」

手をかけた標識を引っこ抜いて、スイングの形に構える。
ああ、本当に嫌われてるなあ…。来るなって言われたって、ここに来なきゃ君に会えないじゃないか。

「なんで俺が君の言いなりになんなきゃならないのさ。俺はシズちゃんなんか怖くないんだからさあ」

言うこときく義務なんて、ないよねえ。
笑いながら一歩近付くと、シズちゃんは少し驚いたような顔をした。また一歩近付く。

「本当君は単細胞なくせに俺の思い通りに動いてくれないし」

「身体はナイフも刺さらないから殺すことだってできない」

「ねえ、君はいつになったら死んでくれるの?」

言いながら少しずつ近付いても、彼はキレるでも後ずさるでもなくただ驚いた顔で俺を見ていた。
何にそんなに驚いてるの?そんなに今の俺おかしい?

とうとう彼の目の前に立っても、彼は俺の顔を見つめたまま持っている標識で殴ろうともしない。
シズちゃんは若干顔を歪めて、何か口を開こうとした。俺はそれを聞きたくなくて、小さく呟く。

「いつか気付いてね、シズちゃん」

自分から伝える勇気すら、俺にはないのだ。



一方通行に消えていく
(なんでそんな泣きそうな顔してんだよ…)
(既に踵を帰して歩き出していた俺は、そんな彼の呟きに聞こえないふりをした)



主催企画一方通行に提出