何回も聞き返されると際限なくムカつく。 それこそベンチでスイングしたくなるくらいのもんだ。 だけど、だけどだぞ、ある程度の予想が出来るから次の台詞がはっきり聞こえるもんだと俺は思う。 だから、今回に限って俺は多分、5回は聞き返した。 「……は?」 「だーかーら、何回言ったら聞こえるわけ?その耳は飾りなの?シズちゃんそんなに耳悪かったっけ?」 はあ、とこれみよがしのため息をつかれても呆然とした今の俺にはキレるだけの神経が足りてない。 臨也は吐き捨てるように繰り返す。 「好きだって言ってるの。俺はシズちゃんが好きなの。わかる?」 「は……はあ!?」 やっと聞き取れたその単語は最も俺とそいつの間に似合わない、いや、それ以上に似合ってはいけないものだ。 好きだ、なんていう、好意的なものなんて。 「ば、ばかか、お前!?なんの冗談だあ!?今日は四月でも一日でもねえぞ!!」 勢い余ってさっきまで持ち上げようとしていたガードレールを握り潰してしまう。 痛くないことはないはずなのに、目の前の男にばかり気がいって自分の手の心配なんて出来なかった。 「わかってるよ。今は夏だし、エイプリルフールでもない。だからといってはなんだけど、これは冗談でも嘘でもない」 君が好きだ、愛してる、と、そいつは続けた。 ありえない。ありえないありえないありえない。殺し合いの喧嘩を続けてきた相手だぞ。お互いに憎しみ合ってたはずなのに。 「シズちゃん、俺は、君を、愛してる」 その言葉に、表情に、少しずつ近付いて来るそいつの全てに、俺の中の何かが、完全に欠落する音がした。 堕ちていく (俺だけのものになって) |