いつからだったっけ。 いつから避けられ始めたんだっけ。 いつからみんなはおれを、あんな目で見るようになったんだっけ。 わかんないや。ああ、机を投げた時かな。 それともあんなのはただのきっかけで、本当はもっともっと前から嫌われてたのかな。 「いざや、」 公園のベンチでいつも座ってる人。 真っ黒な服を着て、真っ赤な目をして、おれを抱きしめてくれる大切な人。 「シズちゃん、今日は遅かったね。学校で何かあった?」 近付くとふわふわと頭を撫でてくれる。 おでこにいざやの唇があたって、ほっぺたにも同じようにキスされた。 「ん、」 「元気ないね」 「……ん」 小さく頷いて、ベンチに座ってるのにおれよりも目線の高いいざやに抱き着いて、首に腕を回す。 あったかい。人間の身体はこんなにもあったかいのに、おれはいざやとしか体温を分かち合えない。 「……なあ、いざや、おれはいらない子なのかな。みんなおれのこと、嫌ってる」 学校でのみんなの視線が苦しい。おれが見ると逸らされることだって悲しい。 思い出しては、少しずつ、声が出にくくなる。ひっくひっく、って喉が鳴って、上手く息が出来なかった。 「シズちゃん」 ふと、身体を離される。 なんで離すの?いざやもおれが嫌いだから?じゃあなんで優しくするの? 頭がぐちゃぐちゃになって、何も考えられない。わからないことばっかり頭に浮かんでは消えていく。 「他の誰がシズちゃんのことを嫌ってても、いらないって言ったって、俺はシズちゃんが大好きだよ」 優しい目をして、いざやは笑った。 おでことほっぺたにキスされて、初めてそれが唇にも触れた。 嫌われてない、いざやには、嫌われてない。それが嬉しくて嬉しくて。 「いざ、や、」 ぎゅう、と抱きしめられる。 いざやの腕の力はすごく強くて、苦しかった。 だけどそれがまた嬉しくて、さっきまでとは違う涙が出てくる。 「ねえ、シズちゃん。俺と一緒に来ない?」 「え……?」 「俺と一緒に、どこか遠いところに行こう。俺は君を離したりしない」 耳に直接吹き込まれた声は、頭を揺らして、何も考えられなくなる。 身体中熱くていざやの言葉にくらくらして、おれは、その言葉にただ頷くことしかできなかった。 おれのことを大切にしてくれる家族よりも、おれのことを愛してくれる赤の他人を選んでしまったこと。 その時のおれには、そんなことを考える暇もなくて。 「愛してるよ、シズちゃん」 でも、後悔なんてしないって、何故か無性に自信があった。 甘美な囁きはまるで (魔法のようにおれを惹きつけて、離してはくれなかった) 絶対聖域様に提出させていただきました。 素敵な企画に参加させていただき、ありがとうございました! |