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嘘をついてまで綺麗な赤い靴を履いた。
内緒で舞踏会に行ってしまった。
そのまま踊り続けなければならなくなった。
切り落とされた足は、踊りながら去ってしまって、


「シズちゃん、シズちゃん?」

ぱ、と閉じていた目を開ける。
暗闇からの光に一瞬目が眩んで、屋上の日差しに目を細めた。

「シズちゃん、お昼寝?」
「いや……考え事、してた」

いつの間にか恋人になっていたこの男は猫みたいに笑いながら俺の横に腰掛ける。
唐突にあげた手で俺の髪を撫でて、ふわふわだね、なんて呟いた。

ふと、さっきまで思い出していた物語が俺の脳内を通り過ぎる。
嘘をついてまで綺麗な赤い靴を履いて、内緒で舞踏会に行ってしまって、そのまま踊り続けなければならなくなった少女。
切り落とされた足は、踊りながら去ってしまう。
嘘をついた代償は、それ程重い。

「なあ、臨也」

腕を下げて、何?と首を傾げる。
その顔はムカつくほど整っていて、学校の女子に赤い顔で噂されてる理由が何となくわかった。

「もし、俺が嘘をついててさ」
「えっ、シズちゃん俺に嘘ついてるの?」

あからさまに驚いた声を出すそいつ。わざとらしいったらない。
もしって言ってるだろ、と小突くとシズちゃんは嘘ついたら顔に出るしねとせせら笑った。

「そんで、足を切り落とされたとして」
「そりゃまた飛んでんね。嘘ついたくらいで足はなくなんないよ」

俺の言葉にいちいち突っ込んでくる臨也にイラついたように口を開く。

「だから」
「はいはい、もしもの話ね」
「わかってんだったら黙って聞け!」

わがままだなあ、とわざとらしいため息。
続けようと口を開くと空気が声になる前に臨也の声が聞こえた。

「シズちゃん」
「……」

聞く気があるのかないのか、こいつは。
にこにこ笑って立ち上がり、俺に手を差し出す。

「踊りましょう?なんて」

にこ、と邪気のない笑み。
直前まで考えてた事が考えてた事なだけに手を取るのを躊躇う。……っていうか、なんでこのタイミングで踊るんだよ。

「大丈夫だよ。足が止まらないわけなんてないし、もし止まらなくなったとしたら、」

俺も君と、踊り続けるから。
口角が上がると共に、そいつの赤い目も細くなる。
その笑顔に柄にもなく頬が赤くなった気がして、差し出された臨也の手を使わず立ち上がった。

「本当だろうな」
「もちろん」

臨也の手を取る。
ぎゅ、と握り返されたその手から、暖かい体温が伝わった。

「シズちゃんが嘘をついたって、俺はそれを受け入れるよ。そしてずっと踊り続けよう。だって、愛してるからね」

こいつとなら、そうなってもいいかもしれない、なんて、柄にもなく考えてしまって、そんな俺は夏の日差しに溶けた。



永遠に踊り続けようか、君と。
(シズちゃん、ダンス下手すぎ)
(ちょ、待てって、わかんね、えっ)




ハッピーエンドで閉幕様にお題『赤い靴』で提出させていただきました。
素敵企画に参加させていただき、ありがとうございました!!