俺と他の人間との間には、何か透明の壁があった。 それは脆いようで、でも決して割れることのない硝子の壁だった。 見えるのに、届かない。 触れてはいけない、壊れてしまう。 だから、誰の手も取らない。取れない。 なのに、その壁をノックしたのは誰だった? 「好きだよ」 毎日のように繰り返される聞き飽きた台詞を今日もその男は語る。 好き、愛してる、君だけ、俺に似合わない言葉だらけで。 「君は何を恐れているんだい?」 何も、何も恐れてない。 恐れるべきは俺だろう? お前が、俺を恐れるべきだ。 「君は俺が嫌いなんだろう?なら、この手を取ればいいじゃないか。君の思う通りなら、ほら、俺が壊れるだけだ」 うるさいうるさいうるさい。 俺に近寄ったら駄目なんだ。壊したくないんだ、誰も、誰も。 「俺は、君に手を伸ばした。君が少しでも愛を求めるのなら、」 硝子にそいつの手が触れる。 いやだ、壊れるはずのない硝子越しに、壊してしまう人間が笑う。 「いつか俺がこの壁を壊してあげるから、そしたら君は俺を壊してよ」 それが俺の望みだから。 ああ、そうやって微笑むから、だから。 硝子越しに手を重ねる。そうしたらどちらともなく、硝子越しのキスを。 ガラス越しにキスをした (ほら、その壁取っ払おうよ) |