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大切に大切にしまい込んだはずだった。
それは母さんからもらった綺麗なネックレスだったり、親友にもらった誕生日プレゼントだったり。部屋のどこかに大切に、無くさないようにしまい込んだ。
だけど、そんなものはいつか場所と共に忘れ去られていく。
それと同じだった。
あいつへの気持ちも、いつかまた会えたときのためにしまい込んだはずだった。
無くさないように、忘れないように。
なのに、そんなことさえ忘れていたのだ。

「やあ、…久しぶり」

たまたま街で再会したそいつは情報屋なんてものをやっていて、対する俺は池袋最強という肩書きを自分のものにしていた。
久しぶりに会った同窓生はどうやら時間があったわけでないらしく、簡単に挨拶を交わすとまた会う約束を取り付けて去っていく。
再会は嬉しかった。また会えるのも嬉しかった。だけど、あの頃となにかが違った気がした。



「改めて、久しぶり……シズちゃん」

自分に似合わない呼び方にあの頃と同じようにその呼び方はやめろ、と言いながら笑ってしまう。
変わってない。こいつは何も、変わってない。

「久しぶり、臨也」

相変わらず可愛いね、くすくす笑いながら臨也はそう言う。相変わらずって、そんなん言ったことないじゃないか。

「高校のときはさ、あれだよ。素直じゃなかったの。好きな子ほどイジメたいってやつ。今の俺は大人だからさ、思ったことはちゃんと言えるよ」
「お前、俺のこと好きだったんだ?」

臨也の言葉に半ば冗談で、笑い混じりに問う。反して臨也は驚いた顔で、「気付いてなかったの?」と声を上げた。

「は、はあ?マジかよ」
「そっかあ、気付いてなかったのか…。俺あの時すっかり両思いだと思ってたよ」

あはは、と笑う臨也は昔の話をただ懐かしんでいる様子で、不思議とほっとした。

「そうか…、懐かしいな。あの時お前から告白されたら、付き合ってたかもな」

それに返すように微笑む。
臨也はにっこりと口角を上げて、俺に問うた。

「今なら?」
「え……」
「今、俺が、シズちゃんを好きだって言ったらどうする?」

本気で言ってるようには聞こえなかったのに、自分の中で、何かが割れた音がした。
忘れ去られた何かが、無くしてしまった何かがあった。
大切に大切にしまい込んだはずだった。
それは母さんからもらった綺麗なネックレスだったり、親友にもらった誕生日プレゼントだったり。部屋のどこかに大切に、無くさないようにしまい込んだ。
だけど、そんなものはいつか場所と共に忘れ去られていく。
それと同じだった。
こいつへの気持ちも、いつかまた会えたときのためにしまい込んだはずだった。
無くさないように、忘れないように。
なのに、そんなことさえ忘れてしまっていた。

「俺……は……、」
「なーんてね!」
「は?」

殊更楽しげな明るい声で臨也が笑う。
眉をしかめるとそいつは「冗談だよ、冗談」と頬杖をつく。

「あーあ、もーちょっと笑ってくれたらさ、本気で告白したのに」
「え?」
「なんでもないよ」

臨也は俯いて何かを呟いてからまたさっきまでと変わらない笑みを見せた。
確かにあった気持ちだった。どこかに、どこかに、誰にも見つからないように大切にしまい込んだ。
その場所ごと、しまい込んだ物も、しまい込んだことさえも忘れていた。
無くしてしまったのか、忘れてしまったのか、そんなこともわからない。

「いざ、や」

今度お前に会ったら、何か言うって決めていたんだ。
お前は大切な何かだったはずなのに。
時は全てを塗り変えて、お前を真っ白な存在にした。

「ねえ、シズちゃん」

呼ぶ声が、心の中で、響く。

「忘れたんならさ、また新しいものをあげるから。また、君の中に俺をつくって」




塗り潰された思い出
(何度でも、俺を好きになってよ)