異変その1 珍しく、シズちゃんが喧嘩に乗って来なかった。 異変その2 ドタチンに忙しなく何かを問い掛けては顔を赤くしていた。 異変その3 授業中も寝るでもノートを取るでもなくただそわそわしていた。 異変その…… 「もういいよ」 わかったから、と新羅は俺の台詞を遮る。 何、俺がシズちゃんがおかしいって言ったら自分から静雄のどこがおかしいんだい?なんて聞いてきたくせに3つ目で終わらせるなんてどういうことなの。 「だからもう静雄がおかしいのはわかったよ。そんなに気になるなら本人に聞けばいいじゃないか」 「嫌だよ。別に気になるわけじゃないし。いつもみたいにからかっても乗ってこないのがつまんないだけ」 もう、なんなのかな。 呟くと新羅が「やっぱり気になってるじゃない」なんて言ってたけど無視することにした。 つまらないからってだけだ。気になるわけじゃない、と再度心の中で呟く。 「ていうかさ、それ、告白を決意した女の子まんまじゃない?」 「はあ?」 シズちゃんが告白?ないない、ありえないよ、それは! …と笑いたかったはずなのだが、何故かそんな言葉は出て来なくて、ただ胸の奥がムカムカした。 その日は朝から心臓の動機が半端じゃなかった。 なんていったって、何故だか俺が大嫌いだと周知されている(あれだけ喧嘩してたら当たり前だが)あの臨也に告白しようと決意したのだから。 ムカつくもんはムカつくし、からかわれたりしたらつい乗ってしまうが好きになったものは仕方がない。 もういっそ告白してしまおうと今日の俺の頭はそれでいっぱいだった。 いつも通り顔を合わせたとたん喧嘩を吹っかけてくる臨也を必死で避けたし、いつもとは違うんだ、今日の俺は! 「なんかそわそわしてるな」 そう声をかけてきた門田に食いついてしまって、「今日の俺は女っぽいだろ!?」とつい口走ってしまった記憶は新しすぎて悲しい。 「いつも女だし女っぽいだろ」と言われて顔が赤くなったのは仕方のないことだ。それなりに嬉しかったし。 それからはもう恥ずかしいのは同じだから「どうやったら可愛く見えるか」だの「なんて告白されたら嬉しいか」だの聞いてしまったのでもうなんでそわそわしてんのかバレてると思う(その度にそのままで可愛いだろとかお前に告白されたら誰でも嬉しいんじゃないか?とか言われて赤面したのは内緒にしておく)。 とにかく今日告白すると決めたわけで、授業なんて頭に入るはずもなくどうやって告白するかをずっと考えていたらもうとっくに授業の終わるチャイムが鳴っていた。 やばい、とりあえず昼休み……つまり今、呼び出して、言えなかったら放課後。放課後には、絶対、 「シーズーちゃんっ」 びく、と身体が跳ねる。 だって、今探そうとしていた奴が目の前にいて、俺の名前を呼んだんだからな。 「ちょーっといいかな?」 笑顔が、少しだけ怖かった。 だけどそっちから呼び出してくれて状況は願ったり叶ったりだ。とりあえず、臨也の言葉に頷いて教室を出た。 着いた先は、屋上。 今日はかなり暑くて、日差しも強いからか屋上にいるのは俺と臨也だけだった。 ……よかった。 「で、なんだよ。わざわざ」 間違えても告白する雰囲気なんて出さないようにしながら聞いてみる。 臨也は「シズちゃんさ、」と笑っていない顔で口を開いた。 「告白するの?」 「は……!?」 なんでバレて!?まさか門田が…!って、そんなわけない。そんなこと言う奴じゃない、はず。 「新羅がさあ、シズちゃんの様子がおかしいよねって言ったら、告白する女の子のそれだねってさ」 臨也は笑わないまま、俺はバレてるわけじゃなくてよかったと若干胸を撫で下ろし、これがチャンスだと思って、 「え……とっ、」 告白しようとしたのに、 「まあ、ありえないよねえ!シズちゃんが告白なんてさあ?ねえ」 「は……」 「だってシズちゃんだよ?平気で壁を壊すようなシズちゃん!女として見る奴なんかいないでしょ」 思えば、いつもの調子に戻っただけ。 馬鹿にしたように笑いながら、多分、俺がキレるのを待っていたんだと思う。 だけど、俺は動けなかった。 「だよ、なあ……」 「?シズ、ちゃん……?」 「わかってた、わかってた、けどよお…」 やばい、泣きそうだ。 「やっぱ、ちょっとは傷つく」 笑った。泣きそうで泣きそうで仕方なかったから、そんなところは死んでも見られたくなかったから、笑った。 臨也がどんな顔してたかなんて見ることもできなくて、急いで屋上から出た。 俯いたままの早歩きで思う。もうだめだ。もう喧嘩もできない。わかってたことだけど、やっぱ辛い。 「俺らしくねえ」 自嘲気味に笑ってみて、また俺らしくないと思った。 あるいは、 (それでも素直に告白してたら、) (ちゃんと臨也の顔を見ていたら、) |