婆沙羅 | ナノ






「姉上、"らいく"と"らぶ"ってどう違うんだ?」





今日も梵天丸は小十郎と共に聖蝶の元へ訪れ、他愛ない話をしていた時ふとそんな事を聖蝶に質問を投げ掛けた

膝の上に座っていた梵天丸の頭を撫でていた聖蝶の手がピタリと止まり、驚いた表情で梵天丸を見下げる。正面に座っていた小十郎も珍しく目を丸くして自分の主を見る。居心地の良い撫でる手が急に止まった事に梵天丸は自分が何かしでかしたのかと不安に駆られるが、やはり疑問と好奇心は抑える事は出来ずに「らいくとらぶってなんだー」と聖蝶の衣服をクイッと掴む






「!…あぁ、ごめんね梵天丸。まさか梵天丸がその質問をしてくるなんて思わなかったからびっくりしちゃったよ。そうですよね?景綱」

「あ、あぁ」

「梵天丸、まずlikeとloveの意味を聞こっか。どんな意味だったかな?」

「"らいく"と"らぶ"は好きって意味だ!」

「よしよし、偉いよ梵天丸」





親が子供を褒める、それと同じ様に聖蝶は梵天丸を褒め、小十郎も梵天丸を褒めれば嬉しそうに聖蝶にすり寄る梵天丸。さながらその姿は猫だ。小十郎は微笑ましく二人の姿を見る反面、内心は"らいく"と"らぶ"の意味を考えていた

小十郎は梵天丸の言う"らいく"と"らぶ"の意味については梵天丸が聖蝶に南蛮語を学ぶ時に聞いていた。だから勿論意味も知っている。意味を知っているがまだまだ幼い梵天丸…いや、梵天丸に限ってではなく幼子に区別出来る問題じゃない。これは聖蝶の説明力が試される時だ


聖蝶が言うには、南蛮語は一つの単語から様々な意味を持っていて、こちらの日本語の言葉で…そう、「好き」という単語が色んな形で表現出来るのだと小十郎は聞いていた。自分にとってややこしい事だが逆に梵天丸にとって興味深い事らしい。意気揚々に様々な単語を熱心に勉強なさるその姿は将来有望になれる!と小十郎も意気揚々に輝宗に報告していたのも事実。そして輝宗も小十郎の報告を意気揚々と聞いていたのも事実






「likeはね、loveと同じで好きって意味なのは梵天丸も知っているよね?同じ好きって意味でも…好きっていう重みが違うんだよ」

「重み?」

「そう。相手を思いやる気持ち」

「思いやる…?」

「フフッ、まだ梵天丸には早かったかな?」





クスクスと鈴が弾む様に小さく笑う聖蝶に小十郎も喉の奥で笑えば、「はやくないやい!」とムスッと梵天丸は躍起になる。自分だけ分からないなんて許せないとばかりにすぐに梵天丸は「重み」や「思いやり」を考え始める。コロコロと行動を変える梵天丸に聖蝶と小十郎は顔を見合わせて小さく笑う







「難しく考えなくていいよ。気になる事をとことん追究していく探究心は梵天丸の良い所だけど」

「梵天丸様、無理に考えずとも自ずと分かる事で御座いましょう」

「しゃらーっぷ!俺は今知りたいんだ!なあなあ姉上、ひんとくれひんと!」

「ヒントねぇ…likeっていうのはね、梵天丸の好きな食べ物や好きな物、とにかく梵天丸が気に入った物って考えてもいい。梵天丸が竹刀で稽古がするのが好きな様に、こうして私達と過ごす事が好きなら、それは全てlikeになるんだよ」

「聖蝶、答えてんじゃねーか」





ヒントにならず結局答えを言ってしまっている聖蝶に小十郎は呆れた様に言う

だけど梵天丸は「なるほど!」と目を輝かす。どうやら今の聖蝶の説明で思い当たる節が幾つか浮上したに違いない。口々にアレやコレやと自分の好きな物を順々に言っていく梵天丸に、聖蝶は微笑ましく梵天丸の頭を撫で続ける





「一番好きっていう気持ちが重くって、深い事を表わすのがloveなんだ。loveはまだ知らなくていい。この言葉はつまり愛、好きの最上級なんだよ。愛にも色々あるけれど」

「あ、い…」

「―――…いずれ梵天丸にも愛する人が現れて、梵天丸らしい愛をその人に捧げてほしい。愛する人をずっと想ってほしい。愛する人を悲しませちゃいけないよ。勿論、景綱もそうです」

「「…………」」

「景綱はともかく、梵天丸は成長していけば分かっていくよ。…ね?」





愛を呟き、聞かせる様に二人に言う聖蝶の表情は変わらない優しい笑みだったが、小十郎はその笑みが何処か悲しそうに見えた





「愛する人…だったら俺、姉上がloveだ!」





だがその表情も梵天丸の爆弾発言で一気に破顔した






「…や、梵天丸…それは多分違うと思うよ…」

「なんでだよ?だって俺姉上の事大好きだ!らぶだらぶ!あいらぶゆー!」

「その言葉、私には勿体ないよ。多分、ほら、それはきっと家族愛っていうかなんていうか…!」

「姉上あいらぶゆー!」






ガバーッと抱き着く梵天丸に聖蝶は珍しく慌てふためく。珍しい光景だ。顔を赤らめ、でもどうしようとアワアワする聖蝶に小十郎は喉の奥で笑いを堪える

意味は間違えていない。小十郎もそれは分かっていた。好きの最上級なら梵天丸が聖蝶に想う気持ちは該当する。姉弟愛、家族愛、従士愛など…だけどまだ梵天丸には意味の区別など分からないはず。…いや、もしかしたら理解しているのかもしれないと小十郎は思う。敢えて深くは突っ込まない





「良かったなぁ、聖蝶。ククッ」

「梵天丸、景綱もloveだよね?」

「小十郎は説教が長いから違う」

「ほう…梵天丸様そこの所お城に帰りましたらこの小十郎めに詳しく教えて頂きたいですな」

「ノー!姉上ヘルプ!」

「景綱、落ち着いて下さいませ。梵天丸は純粋に言っただけなのですから」

「そうだぜ小十郎!」

「梵天丸様お覚悟めされよ」

「ノー!」





森の中で楽しそうな笑い声と助けを求める悲鳴と怒る声が響き渡った











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