婆沙羅 | ナノ




「そうか、その様な事があったからこそ…塞ぎ込んでおった梵天丸に、笑顔が戻ってくれたのか。私は、父親としてとても嬉しく思う」

「しばらく様子を見ていた都合上、報告が遅くなってしまった事、お許し下さい」

「よい、私は分かっていたぞ。梵天丸を誰よりも見ているお前ならこそ、私の第二の目となって正しい判断をし、私に報告してくれた事に。…大儀であった、小十郎よ。やはりお前に梵天丸を任せて正解だった」

「勿体ないお言葉恐れ入ります」





此処は米沢城のある部屋の一角。その部屋には二人の男がそこにいた。上座に座っている男に頭を下げる男は片倉小十郎景綱。そして上座に座って嬉しそうに顔を緩める男は、今の伊達家十六代当主であり梵天丸の父親でもある伊達総次郎輝宗

威厳がある輝宗の顔は少し梵天丸の面影があり、顎には無精髭を生やす。鋭く相手を射る瞳も梵天丸の面影がありやはり親子だと認識出来る。さっきまでは伊達家当主の顔をしていたが、今の輝宗は息子の成長を安堵し喜ぶ立派な父親の顔をしていた。息子の成長を純粋に喜ぶ輝宗に小十郎は口元が緩む。城の当主で政治や普段梵天丸と一緒にいなくとも、父親としていつも梵天丸を気にしている。特に梵天丸が病にかかり塞ぎ込んだここ最近、行政やろうが当主として威厳をはっていようとも、親として子を心配する姿を小十郎を始め多くの家臣が気付いていた。我慢が出来なくなった輝宗は歳が若い小十郎に梵天丸を任せる事にし、梵天丸の日々の生活又は成長を報告させる事にした

幾日が経ち、他の家臣や女中の話で梵天丸は変わったと話を小耳に挟み、輝宗はすぐさま小十郎を呼びつけた。互いに忙しく話を聞く状態でなく、梵天丸の話をなかなか聞けずにいたが、小十郎が口を開けば輝宗は驚きそして喜んだ。ただ純粋に、自分の息子に笑顔が戻ってきてくれただけで、それだけで良かった





「闇の中にある唯一の光…それが梵天丸を導いた事で、事は良い方に向かってくれた…か。ふむ、その唯一の光が何者かが分からぬとは何とも言い難いが…小十郎よ。お前はその者をどう見受ける?」

「はっ。今の梵天丸様にはとても必要となさる者でしょう。それは実際私がこの目で見ても然り。あの者は梵天丸様を大事にして下さる。後継者の梵天丸様ではなく、一人の梵天丸様として。…ここ数日共にさせて頂きましたが、この伊達家に害をなす様な者ではありませんでした。信用、してもよろしいかと」

「……ふむふむ、お前がそう言うなら信用しても良さそうだな。さて…時に、小十郎よ。お前に質問してもよいか?」

「はっ…なんなりと申付けを。この小十郎、誠意をもってお答えさせて頂きます」

「よくぞ申した」





輝宗はニヤリと笑った





「小十郎よ、そなた…その者を好いているだろう?」













「…………は?」

「よいよい、私は分かっておる。あまり女子と関わらないお前が唯一認めた女。さぞ凛々しくて肝が座っているよい女に違いない…小十郎よ、この私に遠慮などいらん」

「いや、あの、輝宗様…」

「最初は敵に違いない、そう思って警戒するが、女の真の優しさを梵天丸から通じ見て感じていつの間にか惹かれていった。…敵である筈なのに、認めてしまう、いつの間にか女の笑顔が頭から離れない。そんなお前の心の神妙…なんと素晴らしい!私はそなたの気持ちがよーーく分かる!!」

「わ…私がアイツを!?」

「ふむ?無自覚であったか。それは残念だが逆に面白い話になるやもしれぬな。小十郎よ、そなた気付いておったか?その者を私に説明する時のそなたの顔…それはそれはデレデレしている程口元が緩んでおったぞ」

「Σ!?」





衝撃に近い様な重い物体が頭に伸し掛かった勢いを感じた小十郎。図星なのか顔を真っ赤にして、反論をしたいが言葉が出ず口をパクパクしていて輝宗は豪快に笑った。自分の推測が当たったのもそうだが、普段凶面に近い顔をしていてあまり物事に動じない小十郎の顔がまるで鮭の産卵時みたいな顔をしている事があまりにも珍しくあまりにも顔に似合わずあまりにも面白かった





「小十郎、そなたは意外に純だったのだな。お前の事だからとっかえひっかえでそーゆうには慣れているかと思ったが」

「それは断じてありません!!私をからかうのはお止め下され!!」

「はははっ。済まぬ、確かにからかいが過ぎてしまった様だな。しかしお前も、もう嫁を貰う歳になったからこの際嫁として貰えばよかろうに。そうなればその女子は一人にならず小十郎と、そして梵天丸と一緒にいれて一石二鳥ではないか?」

「ですから何故その御話前提で進んでおられるのですか!私はあの者にその様な感情は持ち合わせておりませぬ!私は梵天丸様にもし何があったら…迷わずあの者を斬る、そう心に決めております。ですから…」

「小十郎よ、先程私はそなたに言ったぞ。遠慮はするなと。そなたが伊達に対する忠義は大きい、それは分かっておる。だが忠義に忠実なあまりそなたは自分の心を隠している。想像が付くし実際にそうではないか。そなたはもう少し素直になれ」

「し、しかし輝宗様…」

「言い訳は無用!もし心を隠す理由が梵天丸であったなら気にするでない。私はそなたの意志を尊重するぞ。こうしている間にも、あの者は一人であろう?摩訶不思議な結界の中で一人寂しくいるなどなんと可哀相な!そのような時こそ小十郎よ、そなたの出番ぞ」

「……………」

「今から城下町にでも下りて、その者が似合う物でも買いに行ってこい。着物でも櫛でも扇子でもお菓子でも、何でもな。金はこちらから払わせて貰おう、日頃の梵天丸の世話のお礼にな」

「…ここでお断りしても、輝宗様の事ですから強引に行かせるおつもりで?」

「はははっ!何を当たり前の事を聞いておるか!…で?もちろん行ってくれるよな?」

「…御意のままに」












「ふむ、もうちょっと嬉しそうな顔をせんか小十郎。先程のニヤニヤ顔は何処にいってしまったか」

「そうおっしゃる輝宗様は顔がとってもニヤニヤ顔しておられますな」

「ははははっ!さっさと行って来いこの純粋青二才!」

「あだっ!」






口答えをまだする小十郎の尻を蹴り上げた輝宗の顔はそれはそれは清々しい程の笑顔だった







その日、城下町にて店の前で悩みに悩む青年の姿が目撃された






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