婆沙羅 | ナノ

「…梵天丸様は何処に行かれてしまったんだ。全く…目を離せばいつもこうだ」

「大方、何かを感じて外に出たままどっかに行かれたのでしょう。子供は人の感情には嫌に敏感です。私達の雰囲気を何処かに察してしまったのでしょう」

「…いや、それは違う気がするがな(あの目で対抗心むき出しされる真相がよくわからねぇ)」

「そうでしょうか?失礼な事を申しますが貴方は梵天丸が外に出て行く前でさえ、私をお睨みになられていました。賢い梵天丸にとって貴方は側にいつもいる存在…いつもいるからこそ、互いの気持ちなどが分かる。…それは、貴方も同じでございましょう?」

「…綺麗な顔して言う事は真っ当で得体の知らねぇ女なのに頭が上がらないなんざぁ、笑える話だな」

「フフッ、褒めて頂き光栄で御座います。人を見る目はそれなりに…貴方にお褒め頂いた位に自信がありますので。…貴方も、梵天丸を見ている目はとてもお優しい。それが梵天丸にとって唯一の救いなのでしょう」





お互いが敵であると認識した二人は、ふと外に出て行った梵天丸の存在を思い出した二人は揃って腰を上げ梵天丸を探し始めた。家の外を見渡しても梵天丸の姿は無く遠くに行ったのではないかと二人はそれぞれ足を運ばす。家の裏を見たりその他周辺を見回しても梵天丸の姿は何処にもいない。此処の場所がまだ把握出来ていない小十郎は仕方なく聖蝶のいる所に足を運ばせるが、どうやら聖蝶の方も梵天丸を見つけられずにいた





「おい、お前此処の辺りを知っているんだろう?梵天丸様が何処に行かれたか、分かるか?」

「多分、この先にある小川の方に行かれたので御座いましょう」

「…お前に聞きたい事がある。此処に来る時、森は暗くとても深かった。俺はよくこの森に足を踏んでいたが今までこんな事はなかった。もちろん、この場所さえなかった。…お前、何をした?」

「何を、とは?」

「とぼけてんじゃねぇ。分かっているんだろう?大方、結界とやらがあるんだろ?じゃなきゃこんな事にはならねぇだろうが」





梵天丸を探しに歩き出そうとした聖蝶を、行く手を阻む様に前に立てばギラリと睨みを光らす

小十郎に行く手を阻まれ強制的に小十郎と対面せざる負えなくなった聖蝶は、涼しい顔、しかも悠然として小十郎を見据えた





「…されどその不思議な結界のお蔭で梵天丸は今まで野良犬や夜盗に襲われておりません」

「!」

「私に不思議な結界の話をされても、専門外の話ですのでお答え出来ません。ですが、確かにこの回りには結界とやらが貼ってある事は存じております。そのお蔭で私を含め回りの動物達、そして梵天丸が安心して仲良く暮らせる事が出来る。この上ない幸せです」

「…なるほどな。こんなのどかな場所はその結界とやらが関係しやがるのか」

「えぇ、ですがその分私は外の世界には出る事が出来ません」

「…外の世界に出る事が出来ない?」

「はい。ここは結界の中、つまり結界の外に出れなければ梵天丸が住む城を見る事が出来ない。…梵天丸に会うまでは別に気にしてもいませんでしたが、梵天丸が楽しそうに話す姿を見て一度は見たいと思う様になりました」





結界が聖蝶を守って安心と安全を与え、その変わりに聖蝶の自由を奪う

まるで籠の中の鳥の様だった





「何時からこうなった?」

「気付いた時には」

「出ようとはしなかったのか?」

「出る方法は色々ありますが、あえて私は此処に残る事を決めました。私にとって外は怖い所なので…都合が良いかと」

「……そうか」





こんなに美人だったら、さらわれ襲われ売られるがオチ。聖蝶が姫であったら政略結婚で嫁がされ、これが農民や商人であれば尚更の事

戦国乱世の世界ではよくある事で、小十郎はこれ以上口を開く事はなかった。聖蝶の最後に呟かれた台詞に影がかかっていた事にも気付いていた。言葉をかけようとも言葉が浮かばない小十郎は無意識に聖蝶に触れていた。腕を伸ばし聖蝶の手を取ればそれは細く柔くて脆く、握り締めれば簡単にも壊れそうで…聖蝶の存在ではなく聖蝶自身が危ういのではないかと思う位、何故聖蝶が結界に守られている理由が分かった気がした。いきなり小十郎に手を取られ自分の手を握られた聖蝶は驚いた目で小十郎を見上げた。その瞳は翡翠色で輝いていた





「…シケた面してるよりも、さっきの顔の方がお前らしくて良いぜ」

「小十郎さん…?」

「小十郎でいい」

「…!?い、いえ!それはなんと恐れ多い…私には無理です」

「そうか、ならお前に特別に景綱と呼んでもらおうか。小十郎は片倉家を引き継いだ際に受け継がれる名で元々の名は景綱だしな」

「景綱、さん。ですか?」

「景綱でいい」

「…!?い、いえ!それはなんと恐れ多い…私には無理です。…って、あれ?さっきも同じ言葉を言った様な…」

「なら命令だ」

「無理を知って命令をするのですね貴方は!…分りました、私の負けです。景綱、とお呼びすれば宜しいのですね。しかし、何故今それを言うのです?貴方は私を…敵視している」

「敵視してるのは変わりねぇ。話を聞いても怪しいのには変わりはねぇからな。さっきの会話でお前に警戒をさせるような発言もしたしな。だが俺はかたっ苦しい事は苦手なんでな…敵同士なら敵同士で、裏無しで言い合うのも悪くはねぇと思ってな。それはお前だから、と思っただけだ」





フッと笑いながら聖蝶の細い手を優しく握る。それはまるで握手の様で、自分の手と小十郎を驚いた顔で見比べていた聖蝶だったが、小十郎の言葉の真意に気付くとフワリと優しく笑った





「…それも良いかも知れませんね。貴方、歳はお幾つですか?」

「…歳だと?俺は16だ。それがどうした?」

「16、ですか」

「…おい、何だそのさも年上の様に見えましたとでも言いたい顔をしやがって」

「あ、いえ、勝手に私が想像していた歳より幾らか若く、あ、けして老けているだなんて思っていませんよ?大体2、3上かと思っていたのですが…あ、すみません。そんな傷ついたお顔をなさらないで下さい」

「チッ」

「そうでしたか、16…。実は私も、16で御座います。お互い身分は違えど同い年…裏無しの言い合うのも、なかなか宜しいかと存じます…って景綱、何ですかそのさも年上の様に見えましたとでも言いたい顔をして」

「お前、16だったのか?俺はてっきりもう少しいっているのかと…。安心しろ、大体2、3上でけして老けているとは思ってはいない」

「…思っていたことは、同じでしたか」

「らしいな」

「景綱が、落ち着きがあって大人っぽい所為ですよ」

「だったらお前もその辺にいる女共よりも大人な雰囲気があるだろーが。ま、何よりお前自身の色気だな。色気」

「い、いろ…!?ちょっと景綱、してやったりな顔をなさらないで下さい。貴方だって、あるじゃないですか。男の中の男の色気が」

「ほぅ、男の中の男の色気か…(ニヤリ」

「あれ、逆効果?」





それから互いの色気について梵天丸の捜索をそっちのけで言い合うように口論し始めた小十郎に聖蝶。ぶっちゃけどうでもいいような話に方や顔を赤く、方やニヤニヤしながら言い合う二人はおかしな光景だった。その中で小十郎は聖蝶は初心だということに気付く。とっても、意外だった





「…しまった、どうやら話が長くなったな。とにかく梵天丸様を見つけなければ」

「そうですね。隠れんぼ再開ですね、はは…」





数分後、なかなか自分を見つけてこない聖蝶と小十郎に痺れを切らしたのか自分から出て来た梵天丸に二人は笑ったのであった





「姉上!小十郎!」

「あらあら、どうやらご立腹の様ですね」

「そうみたいだな」












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