婆沙羅 | ナノ


暗闇が広がる森の中。その森の中にまた一人の少年が走り出す。しかし、いつもの猪並に走り出していた少年は足を止め、後ろに着いて来る一人の青年に向かって声を上げた





「小十郎!こっちだ!」

「梵天丸様、その様に走られては転んでしまわれるぞ」





そう声を掛ければ、どんとうぉーりー!と聞いた事がない返事が返って来れば、また梵天丸は闇の中に走って行った。小十郎は苦笑をしながら回りに警戒を怠らず梵天丸の後を追う

まさか此処まで暗いとは思っていなかった小十郎は、あまりの暗さに驚く。城から見える森はそんなに広くなければそんなに暗くはなかったはず。一度森に足を踏み入れた事はあったが、ここまで広くなければ暗くはなかった。森に入って数分歩けば小川に着き、太陽の光が幾つか差し込むくらい明るかったはずだった。しかし進んでも進んでも小川に着くわけもなければ、ただひたすら闇に向かっている梵天丸に軽く焦りを覚えた。小十郎は梵天丸が明るくなった理由はあの小川にあると思っていた。あの小川は水は綺麗で景色は綺麗、何かと動物がいるからそれらと仲良くなり、一緒に遊んでいるのかと思っていたが…それは流石にないだろ、特に動物と遊ぶ所はと小十郎は苦笑を漏らす

そういえばその動物達がいない。野生の動物はこの森に多くいることは分っていた。城の者が狩りをする位、沢山いた事は知っていたが、一匹も出てこない。おかしい、やはり変わった森の変貌にすみかを移したのだろうか





「小十郎!遅いぞ!」





思考を巡らせ色々考えていた時、梵天丸の声が森の中に響く。梵天丸は仁王立ちをして自分を待っていた様だ





「梵天丸様がお速いのですぞ。それよりも梵天丸様、一体何時着くのですか?あまりにも暗くて長いので心配しましたぞ」

「着いたぜ!この先だ!」

「この先…?」





梵天丸が後ろを指を指す
指した場所を見てみれば、そこには光があった。此処からは光の逆境で眩しくて見えない。梵天丸を見ればキラキラとした目で光の先を見ていた。まるでこの先が何かあると知っている様に





「この光の先には、一体…」

「小十郎、姉上を怯えさせたり苛めたら許さないからな」

「あ、姉上?」





それは誰かと聞こうとした時はすでに遅く、梵天丸はあの光の中に飛び込んで行ってしまった





「梵天丸様!!」





まるで光の中に吸い込まれていった梵天丸を躊躇するが慌てて追いかけて小十郎も光の中に入っていった

ピカッと瞬く光

あまりの眩しさに瞳を閉じ目を守る様に手を翳す。徐々に光が収まったと思い、目を開いて、そして





「……!!!」





暗闇の中唯一太陽の光が差し込むその下で、それはあった。小さいが立派な家、手入れされてある畑、綺麗に咲く色とりどりの花、今まで見なかった動物達が仲良くたむろう姿を見て小十郎は唖然とした。拍子抜けた様にぽかんと目を開いて回りを見渡して、さっきの暗闇の森が嘘の様にのどかだった。まさか暗闇の先がこんなのどかな場所だったなんてと小十郎は驚きを隠せないでいた





「姉上、アイツが小十郎だ!」





梵天丸に名前を呼ばれハッとして声の本人を探して見れば、一人の女に駆け寄り嬉しそうにこちらに指をさして話す梵天丸を見つけた。その顔はとても笑顔で、久々に見た笑顔だった

丁度女の方は遊びに来たであろう動物達と遊んでいたらしい。此処からだと後ろ向きでしか確認出来ないが、梵天丸に気付いた女は笑みを浮かべていた。空色の着物を着て長い漆黒の髪を風に靡かせながら女は梵天丸の指を指す方向を振り向けば、カチリと互いの目が合ったと思えばあまりの美しさに自分の体がカッと熱く何かが走った気がした





「…あらら、小十郎って言う人は意外に若かったんだね」





フフッ、と笑う声も透き通っていて、目の前にいる女はまるで天女と言える位とても美しかった










×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -