婆沙羅 | ナノ


梵天丸とその謎めいた女の人が出会ってから数日後、梵天丸はまたあの暗闇が広がる森に入り、その奥にある自分が求める居場所に向かって走っていた。ただ闇雲に走っていた時とは違い、今や目を輝かせ、笑みを浮かべながらひたすらに走り出す

闇の中に一つの光が差し込んでいる場所が見つかれば、梵天丸は飛び出す様にその光の中に入っていった





「姉上!!」





一筋の太陽の下に、小さな家がたたっていて梵天丸は姉上という言葉を連呼しながら家の扉を勢いよく開く

姉上と呼ばれた女は焚き火の前で火を起こしていた。丁度煙が気管に入ってしまったのか小さく咳き込んでいたが、梵天丸の存在に気付き若干むせながらも太陽に近い笑みを浮かべた





「梵天丸、おかえり」

「ただいま姉上!!」





まるでここが自分の家であるかの様に、梵天丸は草履を脱ぎ捨て女の元へ走って飛び付く様に抱き付いた。女も歓迎をしてくれている様でまるで家族の様に梵天丸を受け入れていた





「姉上、何をしていたんだ?」

「梵天丸が帰って来る頃だと思って、暖めようかと思ったんだ」

「のーせんきゅう!俺、姉上と一緒なら寒いの全然平気だぜ!」

「フフッ、そう言ってくれると私は嬉しいよ」





あの時から、梵天丸にとってこの場所は第二の家となっていた。いや、むしろこの家が本当の自分の家だと思い、今まで住んでいた城はただ稽古や寝泊まりするだけの存在に変わってしまった程に、この家を、この女の居場所が自分の居場所だと信じて疑わなかった

梵天丸は女の事を「姉上」と呼んだ。女の名前は訳有りで言えなかったらしく、知り合いに呼ばれている名前を教えてくれた。名を「聖蝶」と言ったが、梵天丸はその名前は言い辛いと拒否した。なら、君が呼びたい様にしてもいいと言った為、女の名前は姉上となった。歳も姉弟としては妥当で、丁度姉が欲しいと思っていた梵天丸にとって、この上ない喜びだった

女も弟が出来たと喜んで梵天丸を可愛がった。女はどうやら梵天丸の容姿服装を見て一瞬で近くにある城の関係者だと勘づいたが、だからといって聞き出す訳でもなければ何もせず「梵天丸」として接していた。それがどれだけ梵天丸にとって救いになっているか、女には分かっていた。病に侵された右目でさえ、女は何も言わなかった。いや、あまり右目に触れない様に気遣っていた為、梵天丸は羽を伸ばすことが出来たのだ

そんな女…いや聖蝶の優しさが、聖蝶の温かい存在が、自分を受けてしまった傷でさえ包み込んでくれる聖蝶の微笑みが、太陽のみたいな姉上が梵天丸は大好きだった





「梵天丸、あっちではどんな事をしてきたの?何をしてどう思ったか、私に教えてくれる?」

「いぇす!」





梵天丸は聖蝶の腕に抱かれながら、聖蝶の温もりに居心地を感じながら色々な事をいっぱい話した。元々自分を話さずあまり人とは接する事が苦手な梵天丸だったが、何故か聖蝶の前では饒舌に自分の事をいっぱい話した。側近の男でさえ知らない事も、楽しそうに聖蝶に話せば聖蝶もおかしそうに笑いそれを見て梵天丸はまた笑顔になった。ここにいられる時間短く、限られているのに二人の間はとてもゆっくりと時が流れていた











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