婆沙羅 | ナノ


目の前にいたのは一人の美しい女の人。光に包まれている様に見えたのは唯一そこに太陽の光が差し込んでいて、それがいやに神秘的に感じた。光に照らされ反射される漆黒の髪に、その色と同じ漆黒の瞳。美しい容姿をしている女の人は自分が現れた事に驚いていたが、久々の訪問客に嬉しかったのかフワリと笑う。ドキンと跳ね上がる自分の心臓、同時に安心感が自分を包んだ。温かい抱擁と優しい香り…いつの間にか自分は女の人に抱き寄せられていた。一体いつの間に、残った片方の目が瞬きをした瞬間だった。目の前に広がるのは女の人が着ていた空色の着物に柔らかい感触、垂れ下がる髪の毛、柔らかい優しい手が自分の頭を撫でていた。気持ち良かった。嬉しかった。何時以来だったのだろうか、こんな風に撫でられるのは。涙が溢れた。たったこんな事なのに、温かい温もりが、今まさに自分が求めていた事だった

ギュッと着物を握り、もっと抱き締めて欲しいと訴えると、女の人は悟ったのか今度はきつく抱き締めてくれた。それがまた嬉しくて、大泣きに近い程自分は女の人の腕の中で泣いた。日頃耐えていた糸が切れた様に、ただわんわんと。女の人は泣いている自分の流れる涙を拭ったり、背中をポンポンとあやした。それだけの事なのに、嬉しい気持ちでいっぱいだった





「泣きながらでもいいよ。…こんな所、普通は誰も足を運ばせないのに、君は来た。君は、迷子?」





優しい声が上から降って来る。流していた涙を拭いぐずぐずと鼻を啜って、やっと自分は目の前の女の人の顔を見る。見れば見る程美しくて、馬鹿みたいに泣いた自分が恥ずかしく思ったが、この人になら何でも許される気がした。ジッと見つめていたら女の人は少し困った様に笑い、またさっきの質問を繰り返した。その質問に慌てて首を振れば女の人は驚いた顔をして自分の顔を覗き込んだ





「…迷子じゃなければ、自分の意志でここまで来たって事?」





次の質問に、今度はしっかりと相手の目を見て頷いた。女の人はしばらく驚いた顔をしてこちらを覗き込んでいたが、ふむふむ…と顎に手を当て考え始めた

どうしたんだろう、多少の疑問に不安感が自分を襲う。ギュッとまた強く着物を握れば女の人はハッとしてこちらを振り向いた。心配させちゃったね、と頭を撫でて言ってきた後、いきなり自分の身体が浮遊感を襲った。気付いたら自分は女の人に抱き上げられていた。女の人より少し高くなった自分を見上げて、女の人は笑った





「これが迷子だったらどうしようかと思ったけど、自分の意志で来たなら全然問題はないかな。ねぇ、君の名前を教えてくれる?」

「…梵天丸、俺の名前は…梵天丸」

「梵天丸、か。いい名前だね」





名前を呼んでくれただけで、なんてこんなに心が温かくなるんだろう











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