「全くもう!いくらこの家が馬鹿デカいからってチャイムは一回だけでも十分なんだからね!ピンポンピンポンピンポンピンポンピンピンピンピンピンポーンもチャイム連打やってインターホン壊れちゃったらどうすんのさ!いけない子だね!おねーさんイラッとしてプチッと来ちゃうよ!」 「第一声がそれ!?」 第十話 「戯言」 「無駄な抵抗は止めて大人しくお縄に付きなさい似非戦国武将コスプレ集団!君達は既に私の手の中よ!ピンヒール履いてないだけまだ良かったと思いなさい!」 女が目が覚めた が、次の瞬間全員縄に捕まっていた 目が覚めた女の瞳とカチリとあった、ものの一秒後だった。見惚れていた彼等を女は隙を突いて掛け布団をバサッと蹴り上げ、女の行動にびっくりして動けなくなった全員を何処から取り出したか分からない縄で抵抗する間も与えずに縛り上げたのだ 「Shit!!」 「ちょ、マジで!?」 「ぬぉぉぉ!抜けん!」 「くっ…解きやがれ!」 「我とした事が…このような幼稚な技に…」 「…只の未来人、って訳じゃなさそうだね、彼女」 一見縄とかピンヒールとか、そういったモノとは無縁だと思っていたのが間違いだった。物凄い、本場の忍も目を丸くする手際良さとスピードだった。ご丁寧に一人ずつキッチリと、そして縄抜けが出来ない縛りをした上に全員を一気に纏め上げ、しかも抵抗しようとするならばギチギチと自身の手首を締め上げる高テクまで施されていた 伊達に数々の戦場を乗り越えただけの事はある。無駄な抵抗はしないほうがいい、相手に刺激を与えてはいけないと理解はしている様だ。静かになった全員を見て、女は小さく息を吐いた 「どうやら日本語は理解出来るみたいね…全く、いきなりチャイム連打されたり扉開いてみりゃ大の大人に押し潰されたり…今日は厄日なのかなぁ?…いたたた…」 自分達を見下げる目の前の女 先程の儚げな印象と打って変わって、強くて凛としていて、自分達を畏れる事を無くして前に立ち塞がっている。強き女だ。いくら名のある武将の自分達を知らずとも、普通の女だったら恐縮してしまうのに 美しい容姿から出るあどけない口調は拍子抜けるが、彼女らしく思える。やはり先程の痛みが引きずっているのか形良い眉を潜めて頭を擦っている ―――見上げている為、嫌でも白く長い脚に目がいってしまう。しかも何故だろう、着物なら分からないはずなのに女が着ている服だと豊満な胸が形良く強調されていて―――… 「ははははは破廉恥でござあああーーーーっ!」 「破廉恥なのはお前の頭の中だ真田幸村ぁああああーーーッ!」 「こんな時に叫ぶなよ旦那らぁああああ!!」 「るせぇ場違いにも程があんぞテメェらぁああああーーーーッ!」 「黙れ貴様ら五月蠅いぞ今我等の状況を考えて物申せ貴様らのせいで策が吹っ飛んでしまったではないかッ!!」 「耳元でいきなり叫ばないでくれ耳障りだ君達馬鹿なの何なの死にたいのかい!?」 バシッッ!!!!!! 「いい加減にしないとその口塞いじゃうぞ?」 「す、すみませぬ…」 「I'm Sorry…」 「ご、ごめんね…?」 「悪かった…」 「ふん…」 「すまなかった…」 「分かれば宜しい」 どでかいハリセンで叩かれた ……いつの間に 「――…で?勝手にこの家に入った理由をお聞かせ願いましょうか。盗みにでも働きに来たのかな?ハッキリ言ってくれれば警察に届けずに見過ごしてあげるけど?」 「けいさつ…?何だぁ?そりゃ」 「…何?警察が分からないの?」 「警察が何かは分からないけど俺様達はアンタの考える事をするつもりで来た訳じゃない」 「そうで御座る!我等は正当な理由があって参ったのだ!」 「アンタが誰だか知らねぇが、話し合いといこうぜ。you see?」 「信じてくれ。僕らは君に何も危害は加えない。本当だ、嘘はつかないさ。つく意味がないからね。その証拠に僕らは君を傷つける武器を持っていない」 「我等の言葉を信じぬ程そなたも馬鹿ではない。我等は一刻も早く紫蝶美莉に目通りをしたいのだ」 「………………」 紫蝶美莉、その言葉を口にした時、女の眉がピクリと動いた けれど鋭く光る漆黒の瞳は変わらずに彼等を突き抜ける。嘘を見抜き、嘘を許さないその瞳。畏怖をも覚えるのは果たして自分の気のせいなのだろうか? 沈黙が広がった お互い何も言わず両方睨み合いを続けた。逸らしてはいけない、いや、元より逸らすつもりも無い。自分達は理由があってこの地にやってきたし、相手に危害を加える気なんて毛頭無い。紫蝶美莉に会いたい。それが叶わぬとも相手が誰だかはともかく先ずは話し合いをしたい 長き沈黙の末、先に折れたのは女の方だった 「……それじゃなんでこの敷地内に勝手に入って来て、迷彩君と紫眼帯君と緑オクラ君と仮面君が窓に激突していたのかな?」 「Σ見てたのかよ!?」 「ぜ、全然気付かなかった…!あ、あの結界、窓っていうんだ。アレには流石の俺様も騙されちゃったよ」 「………毛利殿、竹中殿…」 「さて、何の事だか僕には分からないかな?そうだろう元就君?」 「左様。我には何の事やらさっぱり」 「アンタらも意外に抜けてんだな」 「その後君達はこの敷地内をグルグルグルグル回って好き勝手物色したり挙句の果てにはインターホン連打。窓には血がこびりついてるし傷も付けられた。アレ直すの大変なの分かっているのかしら?そもそも誰の許可でこの敷地内に入ったのかしら?無断で入って来た君達を私が許すとでも思ってんの?終いには大の大人が揃いも揃ってなだれ込んで押し潰されたし。ねぇ、どう落とし前つけてくれるのかしら…?」 静かな、そして怒りを含める声色で語りながら女は佐助の前に座った スッと白い腕が伸ばされたと思ったらいつの間にかその手にクナイが握られていた。佐助にとって、全員にとって唯一の武器。ヤバいと顔を強張らせた佐助を含め全員を、クナイを慣れた手付きで扱いながら女は言った 「武器を持っていない?ハッ、笑わせてくれる。今持っていたじゃないの。クナイ一本でも人を十分に傷つける代物を、何で君が持っている?」 「あ、あはー…バレちゃった?」 「佐助ぇえ!あの時駄々をこねずに潔く差し出しておればよいものを!」 「…危害を加えないだなんて保障が無いね。考えてみなさい?もし君達が逆の立場だったらどうする?いきなり玄関先で五月蠅く騒がれて、ひっとらえてみれば相手は武器持って無いから釈放しろと言う。でも相手は実は武器持っていたとしたら…君達は相手を信じれる?」 「残念だけど僕は信じられないね。話にならない」 「俺様も。すぐに牢屋に入れちゃうね」 「それが今の俺達か…チッ、そうだな。確かにアンタの言う通りだ。信じろって言われても最初っから駄目だったら意味が無ぇ」 女の言う事は最もだ 出会いが出会い、しかも武器を所持していた。戦国時代ならこれがどういう意味かなんて言わなくても分かる 「だが!我等は本当に危害を加える気は毛頭無い!信じて下され!」 「もしこの縄を解いたとしても仕返しだって襲いかかられても困るの」 「大丈夫だってそんな事しないって!」 「さぁて、どうだか。君達の行動が最悪の事態を招く恐れだってあるんだよ?そもそも今時そんな戦国武将もどきの格好する辺り怪しいし。つーかその姿も怪しいんだけど?どんな素材で出来てんのか教えてもらいたいね。そんな格好で戦国武将ですっ言っても誰も信じないよ」 「「「「「っ…」」」」」 この現代で「自分実は戦国武将です☆」と言っても笑い話になって終わってしまう。いや、最悪「馬鹿なのか」と思われあしらわれるのがオチ 立場が逆だったらそれこそ斬り捨てられる。女の言葉はまさにその通りでぐうの字も出なかった。そんな彼女に、「戦国武将でーす☆」と言ったものなら一体どんな仕打ちが待っているのか…――― 「……実際我等が戦国武将と言ったら、そなたはどうする?」 静かに元就は言った 言ってしまった 今まで黙っていた元就を女は視線を向けた。元就の冷たくて鋭い眼と漆黒の鋭い眼がカチリと合う。暫く二人の間に沈黙が広がり―――フッと、女は笑った 「面白い戯言ね」 「戯言といえど我等にとっては変え様の無き真実ぞ。嘘は一言を言っておらぬ。そなたの前で嘘など吐いても無用な事は百も承知」 「………」 「我の目から見てもそなたは聡明だ。だからこそ、我等は本当の事を言う。紫蝶美莉本人でなくても」 「なら、君は何を望む?」 「望みはただ一つ。我等にこの未来とやらで生きていける為の衣食住の提供ぞ」 「――――…」 信じて欲しい 今切実に、訴えたかった 賭けを賭けてみた 「気に入った。その戯言に耳を傾けてみようじゃないか」 ニヤリと女は笑った |