ギンガ団の任務をこなし図鑑集めに翻弄してきたミリに、次の任務が与えられた。任務を依頼してきたのはウォロで、「共にプレートを集めてほしい」との事だった。

ミリはウォロと共にヒスイ地方を走った。手始めに険し林に行き、オヤブンビークインからがんせきプレートを難なくゲット。何故オヤブンビークインががんせきプレート持っているんだと疑問が浮かべるが、それはさておき。そのままウォロの案内でコギトの庵に行き、全てのプレートを集める事となる

そこから先はギンガ団の英雄・ミリの独断場。コギトの庵でのんびり構えようとしたウォロをにっこり顔で引きずり、今となれば有名なミリの無茶振りスタイルで、ウォロはヒスイ地方を走り回るはめになった。ウォロは戦慄した。ミリの噂は嫌でも耳にしている。その奇行っぷりは凄まじく、頭を抱えている者達を鼻で笑って眺めていたくらいだ。それがまさか、自分が体験するはめになる、だと…?―――そして始まった、「ドキドキ☆プレート探しの旅〜安全紐?そんなものはない〜」。ウォロはここで初めてミリの奇行に振り回される事となる

結論。命が何個あっても足りない。なんなんだアレは。あんな無茶なやり方でこんな事をしていたのか。馬鹿なのか?馬鹿なのか??普段は戦う事を知らない顔をした貴族のお姫様みたいな姿をしておきながら戦場に立てば戦闘狂になるのなんなんだ?馬鹿なのか?野生のルカリオが自分に向けて攻撃してきたその技(※はどうだん)を蹴りで跳ね返すってなに??「んもーウォロさん気をつけて下さいね!まあ私がいる限り怪我一つもさせてあげませんけど!」と勇ましいキメ顔で言いのけるミリ。うっ、これが…ときめき?これが…沼の力?当然ウォロは自信のときめきに戸惑ってドキドキしたしポケモンの技をくらいそうな事実にドキドキした。この感情は…ワタクシは、一体なんなんだ…?それは釣り橋効果である。ウォロの脳にはコスモが広がった。おそらきれい

ウォロは知らない。ディアルガ・パルキアの捕獲までのルートでは、ミリはああ見えて自重していた事を。人がいると自重してその人に合ったスタイルで活動してあげていた事を、ウォロは知らない

プレートを集め色んな人達の力を借りながら、湖のポケモン達を、ヒードランを、クレセリアを、レジギガスを捕まえていくミリ。ほくほくとした様子で嬉しそうに捕まえたポケモンを優しく撫でるその姿は、大袈裟に聖母と言っても差し支えないだろう。ただ撫でるポケモンがやべーんだわ。普通生きている時に出会えないポケモンを撫でているし、そもそも目の前にいるのがおかしいし、その撫でているミリが可愛く見えるし、ドキドキしているし…―――ウォロはにっこりスマイルの裏でめちゃめちゃ混乱していた。ウォロよ、それは釣り橋効果が引きずっている末路である。おちつけ

その後の簡単に説明すると、ギンガ団デンボクをボコしてこぶしプレートを奪取した後コギトからまな板をもらった。何を言っているかわからないがこれら全て事実である。勿論まな板の件は「プレートじゃねぇか!!」と叫んだのも忘れない





「ここの壊された像のポケモンが何か…ですか?はぁ…ウォロさんなら知っているんじゃないですか?この銅像はギラティナを模したもの…違いますか?」

「アルセウス、ですか。えぇ、知っていますよ。この世界を作ったとされる、神たるポケモン…こちらの世界にもアルセウスへの認識は変わらないみたいですね」





この台詞はカミナギ寺院跡の遺跡の前で、ウォロがミリに問いてみた内容である。やはりというか、ミリはギラティナを、アルセウスを知っていた。ウォロは作った笑顔の裏では、それはそれは好奇心と歓喜でいっぱいで、歪んだ笑みを抑えるのに必死だった

――――そしてウォロは、シンオウ神殿にてミリに本当の目的を話す事となる

偽っていた一人称を、自分が秘めていた本心を、昔から抱えていた野望を、イチョウ商会の制服を脱いで―――自分の故郷の服に身を包み、ウォロは戦線布告を出すのであった



そして二人は戦った



ウォロの手持ちは六匹。対するミリの手持ちは一匹。誰がみてもこの勝負はウォロが数で勝つだろう。ウォロのテンションは最高潮だった。あの英雄を、この手で倒す事が出来ると。英雄を倒して自分はアルセウスをこの手に収めて、新たなる世界を作り出すのだ――――

―――しかし流石はヒスイの英雄。バグフーン一匹だけなのに見事な手腕とコンビネーションでウォロの手持ちを圧勝し、勝利を決められる事となる





「貴方の過去に、きっとそう思わせる何かがあったのは理解した。けれど、残念だけど、どんなに大きな夢を抱いていようが、貴方にはその野望を果たす事は一生出来ない」

「何故?簡単な話だよ、人の子風情が軽々しく神と名乗る存在の領域に手を出そうとしている、自ら身を滅ぼそうとする愚行な行い。その事実が、神を遠ざけるきっかけになっているのが解らないのなら、尚更滑稽ね」

「しかも貴方の野望の先を聞いたら、流石の私も黙ってはいない。ヒスイ地方及びこの世界を守る為…は当然として、貴方の野望は貴方自身を滅ぼす―――人間卒業したいのなら、どうぞご勝手にですけど、流石に見過ごすわけにはいきませんからね」

「なにより貴方はここで負ける。余所者で、ただの小娘に貴方は負け、敗北をした。ちっぽけな私ごときに負けているようなら、何年、何十年、何百年経っていようが貴方の夢は叶わない」





手を組んだギラティナの力を借りても、ミリの透き通る瞳は絶望を知らず、輝きが失う事はない

手持ちの六体と戦い、ギラティナと戦い、さらにはアナザーフォルムで挑んだ、この世界を掛けた壮大なバトル。ギラティナとのバトルは熾烈を極めた。流石のバグフーンも連戦続きで疲労困憊の様子だった。しかし、バグフーンの瞳も光を失わず、「ボク、おまえをボコすまで、戦いを、やめない」と目をギラギラさせているから逆に恐い。ペットは飼い主に似るというのは本当の事らしい


―――そしてギラティナは倒された


完敗だった。こんなにも潔く負けるだなんて。ギラティナに逃げられるも、妙な清々しい気持ちがあった事には嘘はない





「何故だ…何故なのだ。アルセウスよ、心あらば教えてくれ。古代シンオウ人の血を引くワタクシの何が駄目だというのか!」

「そもそもこの世界は創造しなおす必要などないのか?」

「このような時でもワタクシは好奇心を満たさねばならない!」

「ミリさん…アナタには夢があるのか?…そうか、あるのか。ワタクシの夢はきっとワタクシとは相容れない…ワタクシはポケモン使い、アナタはポケモンと共に戦う者。ワタクシは結局一人でしたがアナタは違う…ポケモンと共に夢を叶えるのでしょう!」

「ワタクシの物語の始まり…ギラティナから受け取ったプレートもくれてやりますよ。ワタクシの物語は今の敗北で終わりを告げるのですから」




嗚呼、本当なら悔しくて悔しくて、殺したい程に嫉妬で狂いそうなはずなのに

ポケモンを使い、戦う事がこんなにも心踊るなんて―――認めたくない





「ヒスイ地方にあるとされるプレートが全て揃いましたか。…――――!それは、それは……まさか、まさか、てんかいの笛…!

アルセウスはアナタなんかと会うというのか!その為にアナタを招いたというのか!?」

「クッ!見たくないのですよアルセウスとアナタの邂逅など…ましてやアナタがアルセウスに勝利するなど認めるわけにはいかない……」

「いつか、いつの日かヒスイ地方のポケモン全ての神話、その謎を解き明かし、アルセウスに会ってみせる!


いや、従えてみせる!

何年…何十年、何百年かかったとしても!!」





なにせジブンには時間がある。お前達には到底持てないであろう、永き時間を

ウォロはそう言ってシンオウ神殿から、ミリから立ち去ろうとした。自分が全ての元凶、もう会う事はないだろう――――


―――そう、思っていた

が、





「ふんッッッ!!!!!!!!!」

「ゴハァッッツッッ!!!!!」






これもアルセウスの導きか、それとも己のしでかした罪への裁きか

ウォロはミリにジャーマンスープレックスを食らわされるのだった





「アダダダダダダッ!決まってる!決まってますよミリさんんんんッ!関節が!ワタクシの!関節がアアアアッ!」

「貴方の御託は聞き飽きましたし、貴方の好奇心は分かりました。だけどそれはそれ、これはこれ。ちょっとムカつきましたからここで貴方の罪を精算させてもらいましょうか」

「ハァ!?罪の精算!!?」

「まずひとぉおつ!貴方はギラティナを誑かして時空の亀裂を作った事ォ!」

「ふぐぁっ!?」


※キャメルクラッチ


「ふたぁあつ!ギラティナを使ってディアルガとパルキアを混乱させて事態を悪化させた事ォ!」

「ァグァッ!?」


※チョークスリーパー


「みっつめぇえッ!ヒスイ地方の皆さんを恐怖に陥れた事ォ!よっつめェ!バサギリ達を辛い目に合わせた事ォ!いつつめェ!イチイ商会の皆さんの顔に泥を塗った事ォ!そもそもサボり過ぎたと聞いてるんですよぉ!むっつめぇ!私のしおむすびさっき盗み食いしていた事ォ!」

「グァァア゛アァア゛ァァッッ!!」


※卍固め

※パイルドライバー

※ジャイアントスイング


「い、いやい、や、最後、ッ関係な、いだろ…!?」

「ななつめぇ!!!」




また来るのか。強烈な一撃が。その細腕と華奢な身体でよくそんな技が繰り出せるな意味が判らない。そう悪態つきつつ、きたるべく痛みと衝撃を待ち受けていたが―――痛みが、こない

恐る恐る、ウォロはミリを見上げた。見上げたミリの顔は―――悲しそうな、しかし感情を無理矢理殺したような、何かを耐えている表情を浮かべていた





「ポケモン達を、モノとして扱った事」

「!……」

「貴方は自分の事をポケモン使いだと言った。これはこの世界の認識でそう言ったのなら、分かります。…私からすると、貴方は立派なポケモントレーナーですよ。貴方のポケモン達は貴方を認めて、貴方を慕い、貴方と共に在ろうとしている。だってこの子達は…信ずるポケモントレーナーにでしか、進化しないポケモン達なんですから。…貴方にとって知らない話ですが、ね」

「………えぇ、知りません。そんなこと。知りませんよ…貴女の言うポケモントレーナーなんて、知りませんよ」

「ウォロさんって柔軟な思考の持ち主かと思っていましたが、普通に頑固ですね。将来頑固じじい待ったなし」

「ア゛?」

「ポケモントレーナーの意味ならいくらでも教えますよ。ノボリさんもその手には詳しいですからね、後学の為にも聞いておくのもいいんじゃないです?」




貴方には時間があるのでしょう?

他の人には持てない、永き時間を

その永き時間を持て余すくらいなら、たくさんの事を学びなさい。この土地を離れて他の歴史に触れるのもよし。見聞を広め、今一度貴方の夢を見つめなおしなさい





「―――帰りましょうか。コトブキ村へ」





自分には帰る場所なんてない。当の昔に余所者達に蹂躙され、奪われた。帰る場所を奪われた自分に、お前は簡単にそう言うのか

華奢な手が伸ばされた。その華奢な手を重ねるのに抵抗感があった。握ってしまったら簡単に折れてしまいそうな、細い手を。それこそ握ってしまったら自分自身が負けた気がしてならなかった。しかし、しかし―――ミリの施しを、ウォロは拒む事が出来なかった。無理矢理手を握らされ、立たされ、先程無茶苦茶なプロレス技をキメられたというのに早く歩けと急かされる。鬼か、鬼なのか。手を繋いであるかされるなんて、なんて拷問な事をしてくるのか。ウォロは悪態ばかりついた

しかしどうしてだろう、

何故、何故だ。何故ワタクシは、この握られた手を、放すことが出来ないでいるのだろうか。後は単純に物理的な意味で力を振りほどけない。この小娘本当になんなんだ。ドキドキがとてもすごくてヤバイ。これが…恋…?いいえ、違います。おちつけ





「…余所者が、ワタクシに命令するな」

「はいはい余所者余所者」

「余所者のくせに、アルセウスに会えるのが気に食わない」

「はいはいアルセウスアルセウス」

「……ワタクシは絶対に諦めません」

「はいはいがんばれがんばれ」

「…ワタクシの、帰る場所なんてありませんよ」

「………ギンナンさんにその台詞は言わない方がいいですよ?泣いちゃいますよ、ギンナンさんが。駄々捏ねるのは構いませんが、コトブキ村に着く頃にはその伝統ありありな服は着替えて下さいね。あと髪型も。面白いから」

「うるさい、うるさい。ワタクシに命令するな。あとこの髪はアルセウスへのリスペクトです!面白いからって片付けないで下さい!」

「この時代にリスペクトって言葉があるんだなぁ…」

「ミリさん聞いていますか!?」

「はいはい」










そしてウォロはミリと共にコトブキ村に戻り、

ギンナンに先程の台詞を言った事で男泣きをされ、容赦なく頬をぶん殴られる事となる







ポーカーフェースが崩れる時


(嗚呼、判っていた)
(貴女は余所者、異世界の人)
(ワタクシと同じ、居場所を求める者)


(なのに貴女は、ワタクシの居場所には、なってくれないのですね)







2022/12/22

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