亀裂から現れ、流星の如く大地を駆け回り、図鑑片手にたくさんのポケモン達を狩りまくる女―――名前をミリ。コトブキ村やコンゴウ団、シンジュ団の中でその名を知らぬ者はいないくらい、絶賛大活躍中の彼女。大活躍中の裏には少々、いやかなり社畜っぷりを極め周りに頭痛を与えまくる問題児でもあるが、それはさておき

今回はそんな破天荒且つ奇想天外且つ無茶苦茶なミリを影から支えてきた、相棒の話を紹介しよう








「ミリ君はポケモン、手持ちを増やす事はしないのですか?」




その日は海岸の拠点でミリ達が一休みしていた時だった。お昼の時間だからとボールから手持ちのポケモンを出していたミリに、ラベン博士はずっと思っていた疑問を初めて投げてみた

ラベン博士とミリは、ミリがこのヒスイ地方に落ちてからすぐに出会い、ラベン博士のポケモンを与え、共に図鑑を完成させようと切磋琢磨し合う中である。ギンガ団ひいてはコトブキ村の中では、随一にミリとの付き合いが長いラベン博士。身を削る様な無茶な体制で任務に臨むミリに、いつもいつも頭を抱える代表ナンバーワンが彼でもあったりする。そんな彼も拾ったミリを、助手でもあり血の繋がらない、手の掛かりそうで掛からない娘として密かに慕っていた。勿論ミリも自身を拾ってくれたラベン博士には一等懐いている姿を見せ、ラベン博士の言う事にはすんなり頷く姿を見せた事もあった。稀であるが。その姿を見て周りが「羨ましい」「越えられない壁」「ラベン博士と俺達の違いってなに」「最初の刷り込みじゃない?」「もうそれ答えじゃん」とギリィ…ッしていたのは当然二人は知らない





「手持ち…ですか?」

「ミリ君はバグフーンしかずっと手にしていませんよね?いつもたくさんのポケモン達を捕まえてくれますが…バグフーンの他に手持ちに迎える様子が無いので、何故だろうと思いましてね」

「うーん」




ミリはラベン博士からポケモンを貰ってから、ずっとバグフーンしか所持していない

ヒノアラシからマグマアラシ、マグマアラシからバグフーンへ。所謂リージョンフォルムとして進化したバグフーンに始めはどえらい驚いたミリであったが、その顔は満面の笑みに変え「嗚呼私のかわいいバグフーン!こんなにキュートになっちゃって!なにそれなにそれすごいよバグフーン!ゴーストタイプにもなれたんだね!かっこよくてかわいいよ!」と大歓喜に溢れるミリを、微笑ましく眺めたのは記憶に新しい

ヒノアラシを迎え今日に至るまで、ミリは様々なポケモン達と出会っている。先日だって神々のポケモン達をその手に治め、仲間にしてきている。なのにそのポケモン達は「この子達(神々のポケモン)も畑仕事してみたいって〜」と言って周りの制止を聞かずに畑仕事させているのだから、神々を手持ちにする気もさらさらないのは一目瞭然。余談だが、ディアルガとパルキアが畑仕事に精を出している姿を見て、セキとカイは安らかな顔をしてぶっ倒れている。是非もないよね




「敢えて言うなら…必要性が、ないからですかね」

「必要性、ですか?」

「セキさんから譲り受けた笛のお陰でアヤシシとガチグマ、イダイトウにオオニューラ、そしてウォーグルの力を借りてさらに大地を広く走る事が出来ています。すっごく助かっていますし、そういう要員で別に手持ちに加えるのはポケモンをいい様に使っているみたいで何か抵抗感があって…」

「しかし仮にバグフーンが力尽きてしまったら………ミリ君の身がとても危険です。…今までが奇跡だったというだけで」

「その時は……ほらぁ、ね?(ギガントボールの素振り)」

「そうやって物理に走るのは君の悪い癖ですよ?!」

「あはー」




確かにミリには喜んで手を貸すポケモン達がいる。伝説の御使い達が、笛を吹かずともミリの前に現れるのだから、確かに移動要員として新たにポケモンがいるかといったら要らないのは納得がいく

しかし主の身を守る要員ではない。ミリを守ってくれるのはバグフーンしかいないのは正直とても心配だ。いくらミリが異常に戦場に慣れているとはいえ、もっと色々と備えてほしいと思うばかり




「バグフーン、おいしい?」

「バウバウ〜ッ」

「そう、よかった」




バグフーン、性別は雌。控え目な性格で、基本おっとりとしている。ヒスイバグフーンは元々とてもゆったりとした性質で、身のこなしが上品で美しいポケモンだ。ミリと並んで立つその出で立ちは、周りの人間達をホゥ、と感嘆の声を洩らさせる

普段は温厚で好戦的ではなく、ミリに似て「あらあら」とカオスな場ですらのんびりと笑う姿が目撃される。当然ミリの奇行という名のポケモン狩りも「あらあら」と後ろを楽しそうに走り、しかし一度バトルに繰り出されると普段の温厚さが何処いったと言わんばかりの猛々しい姿をみせる。二人は本当に良いコンビなのだろうと誰もが頷けるくらいだった




「手持ちはこの子で十分ですよ。かわいいかわいい、私のバグフーン。頼もしくかっこよく、かわいい私の愛しいバグフーン……この子と一緒なら、私は何処へだって行けちゃいますよ」




バグフーンの艶やかな体毛を愛しそうに撫でながら、ミリはバグフーンに「ねー、バグフーン?」と声を掛ける。バグフーンも嬉しそうに喉を鳴らし、「ボクも、主、だーいすき」とミリの華奢な身体をギュッと抱き締める。なんて微笑ましく美しい光景なのだろうか。一緒に来ている団員が今そこで鼻血を出して倒れたぞ

結局ラベン博士は己の問うた質問に答えて貰う事は叶わなかった。またしても飄々と質問から逃げたミリに溜め息を吐くが、これも仕方無い事かと早々に切り換えた。とりあえず鼻血出して倒れた団員を介抱せねば。ラベン博士はやれやれとした様子でミリの元から離れるのだった
















ミリは秘密主義者だ。亀裂から現われた後から現在に至るまで、彼女の口から彼女自身の素性は明かされずにいる。亀裂の向こう―――異世界から現れた事と、向こうにもポケモンがいるというだけでそれ以上の情報は開示されていない

いくらラベン博士相手でも、彼女の本当の気持ちは教えてはもらえない。心の壁が厚いミリの、一体何処に彼女の心の拠り所があるのだろうか――――




「バグフーン……かわいいかわいい、わたしのバグフーン、わたしの頼もしくて、かわいくて、かっこいい…わたしのバグフーン……」


「バグフーン……ごめんね…ごめんね、バグフーン…」


「いつか私は―――君を置いて、未来に帰ってしまう。遠い遠い未来へ、私は貴女を置いて、消えてしまうの…」


「憎んでもいい、殺してもいい。それで貴女の気がすむのなら。私は潔くこの身を、その優しい炎に捧げましょう」


「愛しい、いとおしい、わたしのバグフーン…」


「寂しい思いをさせてしまう私を、どうか、どうか赦さないで―――」









誰が為に雪は降りゆく



(泣かないで、ボクの主)
(笑ってほしいよ、ボクの主)

(時間が許すまで、一緒にいよう)
(いっぱいオイシイものを食べて、いっぱい遊んで、いっぱい楽しんで、)

(最後は笑顔で、見送るね)







2022/12/18


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