後に英雄となる存在、その名はミリ。彼女は流星の如くに現れ、瞬く間にヒスイ地方を駆けていき、その目覚ましい活躍を魅せてきた。それは前回のお話でご理解頂けただろう。一部、というか大半理解しがたい奇行が見え隠れしていたが、それでも奇行が相殺される程の活躍をしてきたのは確かだ

しかし、彼女にはちょっとした悪癖があった。その悪癖は前回の話にも触れさせて頂いたが、この悪癖はギンガ団を始めとした彼女を懇意としている者達の、一番の悩みの種と言ってもいいだろう





「はいちょっと待った」

「あ、テル先輩。おはようございます。早いですね〜散歩ですか?精が出ますね」

「ミリ、先輩として命ずる。全てを答えよ」

「?はい、承知しました」

「まずは一つ!…お前の今回の任務は?」

「浜辺で大発生しているポケモンの調査です」

「で、何をしていた?」

「タマザラシ、トドグラー、トドゼルガの図鑑埋めとスケッチに力を入れまくりました。これでこの三匹の図鑑は埋める事が出来ました。絵に関しては渾身の出来です!」

「……二つ目!村を出てから何日経った?」

「?……………一週間ですね!」

「本来の任務期間は?」

「確か……三日間ですね!」

「帰還が遅くなった理由は?」

「村の依頼でくすりそうの確保、崩れてしまった岩山の確認、怪我をして救出を待つコンゴウ団の手助け、親分エルレイドへの牽制、怪我をしたポケモンをハピナスと共に手当て等していました」

「……飯は?」

「ムベさんに作って頂いたおにぎりを食べました。しおむすびしか勝たん」

「食事回数は?」

「……?かい、すう…?…おにぎり食べ終えたら回数とか無くないです?」

「……………。何徹目だ?」

「……………?……?…………にて…つ…だった…ような?」

「今、何時だと思う?」

「…?八時?」

「今な、朝の四時」

「……………?、……………?………、




 ……………、はにゃ?」

「はい回収ーーーッ!!早々に回収ーーーーッッッ!!隊長ォオオオッ!団長ォオオオッ!行方不明のミリをーーー!!俺がアアアッ!捕獲しましたァアアアア!!」





彼女の悪癖―――それは時間と食事を忘れて、任務に没頭してしまうという事。集中力が凄い、の一言で片付ければ良かったが、彼女は度が過ぎていた。拠点から遠く離れてしまうのは百歩譲って仕方無いにするが、本人は一向に帰ってきやしない。始めこそしっかり拠点に帰って来てくれていたが、星の数が増えていくたび、任務の内容が濃くなっていくたびに、拠点に戻ってくる回数はどんどん減っていく。不思議と彼女は一切傷を負わずに帰って来てくれるからまだ安心出来るが、何回自分達の心配を逆撫でしてくるのか。当の本人はハラハラして待っているこちらの気持ちなど知らないとばかりにケロッとした様子で笑うから、無理に強く言い出せなく後込みしてしまう

ボールを持つと人格が変わるくらいはっちゃけになるのは、この際構わない。けれどこれだけは頂けない。本当だったら、もっと強く言わなければならない。けれど―――





「無理もないだろう。…これは私の罪だ。ギンガ団やコトブキ村の者達の…彼女にしてしまった、仕打ちのせいなのだから」





ギンガ団は、コトブキ村は

一度、彼女を拒絶し追放した事があった

ミリがクレベースとの戦いを終わらせた直後の事。亀裂を中心に空は不気味に赤く染まり、太陽を、夜を、空を、全てを奪う現象が起きた。結論を言うと、タイミングがあまりにも悪かった。クレベースを治めたのはミリ本人。直接的原因はないにしろ、人々は、ヒスイ地方の民は恐怖した。この現象全てはあの亀裂から現われたミリが原因で起こった事だと―――

ギンガ団を守る為とはいえ、結果的にデンボクはミリをコトブキ村から追放した。かつて自身の過去で悔やんだ日々を思い出し、同じ過ちを繰り返さない為に。一度思ってしまった思考は、頭の固い人間には簡単に覆す事は出来ない。そうしてデンボクはミリを追放させた。今でも目に浮かぶ。追放すれと言ったミリの―――全てを削げ落としたかの様な顔を。デンボクへの、否、コトブキ村への失望……否、否!あれは人間全員に対する絶望と嫌悪が入り交じった、恐ろしい顔だった。初めて見たミリのその表情を、デンボクは一生忘れる事は出来ないだろう

後にギンガ団隊長シマボシやコンゴウ団の団長セキとシンジュ団の団長カイを始めとする、彼女を懇意としている者達の活躍もあってミリは見事に神々であるディアルガとパルキアに勝利し、赤く不気味に染まっていた空を元の状態に戻せる事に成功する。道中の諍いは割愛するにせよ、もしかしたらデンボクが一方的にミリに対して遠慮している可能性も否定出来ないが―――そういう一連の過去もあって、デンボクは中々ミリにその無茶な任務体制に申す事が出来ずにいた





「我々がミリにした仕打ちはどう足掻いても消える事はありません。失った信頼を取り戻すには時間が掛かる。特にミリは亀裂から現われた、いわば異世界人。……過去に彼女の身に何があったから解りませんが、我々の行動は彼女にとっての地雷だった事に間違いはないでしょう」

「うむ…」

「アンタの謝罪をミリは受け入れた。謝罪は、受け入れたが……実際にデンボクの旦那を始めとした、"全員を許す"という証言は取れていない。…言葉ってのは、本当に難しいったらないぜ」

「何も気にしていません、と態度に出ていても行動には嘘はつけない…仮に無意識で動いていたら、ミリちゃんはまたなんでもない様子で誤魔化すんだろうね…」





デンボクとミリの蟠りは、少しずつ解けつつはある。周りの助力を受けつつも、ゆっくりと二人はかつての仲に戻りつつはある。ミリ本人はどういう気持ちでいるかは、全く予想出来ないが

コトブキ村の住人達はデンボクの苦悩を知らない。そもそもデンボクの予想と決断という情報で振り回されていただけ…と、その一言で片付けられるなら、なんて彼等は無責任なのだろう。住人達はデンボクの苦悩を知らず、ただただミリの英雄伝説に黄色い悲鳴を上げるだけ。特に亀裂の現象の後に新しく移住してきた、何も知らない住人達を含めると、尚更

彼女がコトブキ村から、ギンガ団から、少しずつ離れてしまうのは―――無理のない話だった





「身から出た錆。我々は少しでもミリの信頼を取り戻す。…ワシの愚策に振り回してしまった手前、非常に申し訳が立たんが…改めてお前達にも、協力を頼みたい」

「分かってるぜデンボクの旦那。微力ながら、俺達コンゴウ団が力を貸すぜ」

「シンジュ団も当然、デンボクさんに力を貸すよ」

「…感謝する」





コンゴウ団長セキ、シンジュ団長カイ。二人にとってミリは救世主であり、コンゴウ団とシンジュ団の蟠りを無くすキッカケを与えてくれた存在。今となれば大切な友人であり、可能であればその先の関係性を望むほどに入れ込んでいる。そのミリを悲しませたデンボクに本音は些か許せない気持ちはあれど、二人の蟠りを今度は自分達が無くさせたいという気持ちは本物である

その横でシマボシは静かに事の流れを見守っている。シマボシも実はミリを娘の様に想っていた事もあるので、デンボクのミリを追放させた件にはほとほと手をやかされたものだ。ギンガ団を守る為、またデンボクの気持ちも分からなくもない為に、表立って行動出来なかった自身を悔やんだ事もあった。しかし、ミリはやり遂げてくれた。そのミリに自分達が出来る事は、償いただ一つ。ギンガ団の上の立場にいる以上、覚悟を持ってデンボクの隣に立っていたのだった

失った信頼を取り戻すのは難しい。なら、今度は自分達から歩み出さねば。そうでもしないと、彼女は簡単に自分達の傍から離れてしまうのだから――――





「…話が纏まったところで。では、皆さん」

「あぁ」

「うん」

「うむ。…行くぞ、ミリの元へ」





いつかまた、屈託のない笑顔で

笑い会える日が来る日を願って


四人はさっそく足を踏み出そうとした―――その時だった





「それじゃ次の任務行ってきます!」

「まてまてまてまてまてまてちょいちょいちょいちょい!ちょとまてちょとまて!」

「ラッスンゴレライ?」

「ラッスンゴレライってなんだッ!?…いやそんな事はいいんだよお前さっき寝ていたはずだよな!?もう起きたのか!?そもそも次の任務って!?」

「起きました!スッキリです!普通に四時間も眠れたので問題ないです!次の任務は各モンスターボールの素材を100個確保と鎮め玉の素材の確保と大量発生しているトゲピーの観察及び確保に新しい拠点の場所になりえるところの探索です!」

「誰だミリに任務与えたのはーーーッッ!!暫くミリには任務与えるの禁止するって通達があったはずだよなーーーッ!?」

「そうなんです?だから皆何も言ってこなかったんですね……まぁ気にせず私は行ってきますけどね!ひとまず石拾いからのトゲピーの図鑑完成!サクッと行ってきますね、先輩!お土産楽しみにしていて下さいね〜!」

「ちょ、まッ、おいま……はやっ!?…だ、誰かーーーーッ!!ミリを止めてくれえええーーーッッ!!!」





ドタンバタンドタンバタン…






「おっとノボリさん御機嫌よう!さっそくですがちょっと行ってきますねー!」

「お待ち下さいましミリ様そこから先は通行止めでございます!!」

「ミリ!?このツバキを置いてまた任務に行くのか!?」

「帰ったらバトルお付き合いしますから〜お土産も楽しみにしていて下さいね〜行ってきますね〜!…あ、ラベン博士!今度はトゲピー完成してきますね〜」

「アイエエミリ君!?ミリ君ドウシテ!!??」

「ミリを捕まえろーッッ!」

「外に行ったぞーーーッ!!」








ぎゃいぎゃいぎゃいぎゃい…

ドタドタドタドタドタドタ……






「…まずは止めにいかねばならんな」

「あやつはまた勝手に任務を…」

「おいテル!ミリは今どっちに行った!?」

「私達も追いかけるよ!!」








手を伸ばしても、届かない

(蝶は振り返らず、)

(行き急ぐように、戦場に戻る)






2022/12/11


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