ポケモンマスターに向けての勉強を日夜進めて行く中で、とても興味深いモノを蒼華が見つけてきた。時間と手間の省略、そして各自知識向上の為として手持ちの皆と手を取り合って勉強している最中。主にホウエンの歴史を中心に本を読み進めていた蒼華が次に手を出したのはシンオウの歴史だった。妥当と言えば妥当。自分達の発祥の地とも言えるシンオウ地方を知るのは至極真っ当で、いずれ勉強を進めるにはどの道手を出すつもりでいた。蒼華自身もかつての仲間達の在り方から始め、勉強意欲も高かった為もありミリは喜んで蒼華の進めを受け入れ、共にカナズミシティのカナズミ図書館へ時杜の空間移動というチートを使いつつ、歴史本を借りた。あまり数が揃っていなかったのが凄く残念だが、まぁ追々知っていけばいい

そしてミリは初めて知る事になる。シンオウ地方の歴史を、かつてシンオウ地方は違う名前で存在していた事を。今より遥か昔は、人とポケモンは手を取り合っては無く、むしろその逆であり、殺伐とした世界だったということを

まぁこれに限っては対して驚く必要は無い。何処の世界も文明開化、科学発展していなかった時代なんてそんなもの。ポケモンという魔獣相手に対抗手段のない人間が相手に出来るわけがない。そりゃ殺伐にもなるし、手を取り合えるなんて夢のまた夢の話。何処の世界も大変だなぁ、とミリは静かに息を吐く

モンスターボールの存在によってこの世界は安寧を手に入れた。ポケモン達自身も知能が(他の世界の動物達より)高かったのもあったから、人間と手を取り合えた。そこにボールという存在の繋がりでどうしたって主従関係が生まれるが、野生のポケモンでも人間と関係をもてれる事もある。この世界のポケモンという特異性のある生物―――他の世界ではそう簡単にいかないのが現実。余所の世界の方がヤバい。いやマジで。度々凶暴な生物と退治した事のあるミリだからこそ余所の世界の厳しさを前に、生暖かい気持ちで歴史本を優しく撫でる

蒼華が図書館で見つけた、「ヒスイ地方の歩み」という本を




「そのヒスイ地方の本、気になりますか?」





不意にミリに声を掛ける男性が現れた

心夢眼で視えた男性は何処かシロナに似た雰囲気を持っていた。シロナに似た輝かしい金髪を後ろで束ね、左目を長い髪で隠す長身の男性。二人を隣りに並べたらめちゃめちゃ栄えるんだろうなぁとミリはそんな事を思った

心夢眼の事は他言するつもりはないので、あくまで自然と普通にその問いに返す。実はシンオウ地方の歴史を後学の為に調べている、と。そう言った時の男性の顔は嬉しそうに破顔した





「よければジブンがご案内しますよ!私、こう見えてシンオウの歴史には少々詳しい自信がありましてね!ここは何かの縁です、ちょっとした講義でも始めちゃいましょう。…あぁ、貴女は盲目でしたね。ジブンでよければ読み聞かせて差し上げますよ」





此処の図書館は違う地方だからあまり本が少ないのが残念ですからねぇ、と男性は続ける。ミリにとって喜ばしいお誘いだった。今日は仕事はお休みだし、自分の勉強意識がもりもり高い状態で学びたい。時間は有限だ、折角のご好意は甘えて損は無い

なにより目の前の男性から感じるオーラは本当に嬉しそうだったのだ。何故そんなに嬉しいのかは分からない。まぁ自分が知らなくてもいい事。片目から伺える光は、とても懐かしいと言わんばかりの色をしていたのだから





「貴女に、シンオウの歴史をさらに知って頂けて嬉しいです」

「後学の為といってもだいたい何処の人も元ヒスイ地方の事までは手を出さないので、正直張り合いがなかったんですよねぇ。いやぁ貴女も元々の知識が豊富でしたからガラにもなく語ってしまいましたよ!」

「不思議ですね、貴女とは何処かで出会った様な………あ!別にナンパとかでは無いので安心下さい!…こう、なんでしょう…貴女とは初対面のはずなんですが、ジブンの中の好奇心がビシビシと…絶対にぶっとばさなきゃいけないみたいな…はい、すごく物騒な事を言っている自覚はあるので出来たらそこのポケモン達の殺気を抑えて頂けたらジブンすっごく助かりますねぇ!」





男性のご好意に甘えてから、気付くとかなりの時間を費やしていたらしい。彼の口から語るお話はとても興味深いものばかりで、彼の語り口調もまた魅き付けるものがあったから余計に私達の勉強意欲を駆り立てた。まるで、全てを見てきたかのような、そんな感じで

とても為になりました、ありがとうございました。そう言ったミリに男性は「こちらこそ楽しい時間をありがとうございました」と、シロナの面影を残した笑い方で言った





「盲目の姫、ジブンの好奇心を久しく刺激してくれた不思議な方。また何処かでお会いましょう。その時は―――ワタクシと、ポケモンバトルをお願いします」





やはり彼はシロナの身内なんじゃないか?そう思わせるような挑戦的な笑みは、あまりにも親友に似ていた。シロナちゃん元気かなぁ、と片隅で思いつつ図書館から出ていった彼に手を振った

男性の名前は結局知る事はなかった。互いの自己紹介すっぽかして開始したヒスイ地方のプチ講義。そういう出会いもたまにはいいだろう。後腐れもなく、互いの知的欲求を満たす為に出会えた存在。この出会いも悪くはない。ミリは満足げにくふくふと笑った





《不思議な奴だったな。掴み所ない人間だった》

《人間は人間でも、長寿種の人間…珍しい!この時代にもいるんだね、蒼華》

「…」

「ポケモンにも色んなタイプがいる様に、人間にも色んなタイプがいる…この世界も該当するんだね。勉強になったよ」





あそこまでたくさん話してくれた手前、彼がどの生まれかは察し余るほど。それなら確かに自分達が遠い地方で忘れ去られつつあるヒスイ地方の事を調べている姿を見てテンション上がるのも無理はない。彼は生まれて、何年の月日を過ごしたのだろう。普通の人より寿命が長いその命を抱え、何人の死を見送ってきたのか―――それは彼の口から語らない限り、誰も分からないだろう

願わくば、彼の人生に幸あれと。同じ長い寿命を持つ身として、静かに彼の行く末を祝福するのであった















(きっとその時は、)

(寂しい気持ちは薄れていく)




















「見つけましたよおおおッ!やっっっっっっとおおおッ!見・つ・け・ま・し・た!思い出しましたよ!貴女の事を!よくもまぁワタクシの記憶を弄り姿を眩ませられましたね!このワタクシを騙そうなんて百年早いですよ!」

「うっそ大伯父さま!?今まで行方を眩ませていた大伯父さまァ!?なんで大伯父さまがここに!!??」

「嗚呼シロナお久し振りです元気そうでなによりです大きくなりましたねジブンは嬉しいですと言いたいところですが話は後ですさあ約束通りワタクシとバトルしなさい積年の願い、ポケモンマスターだかなんだか知りませんが―――リベンジバトル、嫌と言っても戦ってもらいますからね!







さあ!さあ!いきますよおおおお!いきなさいトゲキィイイイッッッスウウウ!!(ブォオンッッ!」

「ちょっと大伯父さまアアアァ!?」

「わぁ本当に来た。でも元気そうでなによりです!」


















(きっとその時は、)

(笑い逢える日が来るから)






「貴女には、お話して差し上げたいことがたくさんあります。絶対に聞いてもらいますよ…そしてこの勝負、絶対に勝たせて頂きます!!そして貴女を貰い受ける!!ぜっっったいに!!長年独身貫いてきたワタクシの覚悟をその身で味わいなさい!!」

「うわぁ…たいへんだぁ……」

「ねえちょっといったいどういう事なの大伯父様説明してちょうだいなんでミリの事をってそれより最後なんて言ったの!?」

「聞きなさいシロナ今から貴女の身内に新たな家族を迎えます喜びなさい貴女の大好きな聖蝶姫が貴女のお姉さんになりますよ!ワタクシに感謝なさい!!」

「いやああああああ大伯父様がまさかの幼女趣味疑惑ううううう!!ミリは私の親友なの妹なのぽっと出の大伯父様はお呼びじゃないのよぉおおッ!!あああああガブリアス大伯父様を目覚めさせてちょうだいギガインパクトぉぉおおッッ!!(ブォオンッッ!」

「いいでしょうかかってきなさいまとめて相手してやりますよこのワタクシに勝とうなんて五百年早いんですよいきなさいガブリアスゥウウウゥッッ!!(ブォオンッッ!」


ドォオオォン!!


「うわぁ……元気だなぁ…」




ミリは目の前の惨事を前に遠い目をしつつ、

楽しそうに笑うのだった










LEGENDSアルセウス編

願い事が叶う時

[完]


2022/12/31





×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -