「ねぇミリ、シンオウの歴史に興味があったりする?」





その日は世間が休日の日。天気は晴天、雲一つもないぽかぽか日和の穏やかな一日。そんな平和な最中に聞こえてきた鶴の一声

シンオウに訪れ、かくかくしかじかかくかくうまうまな事情ですぐにリゾートエリアに軟k…案内され、暫く軟k…別荘に引きこもっていたミリ。やる事は手持ちのポケモンの白亜と黒恋のお世話は勿論、同居人達総勢五名分のお世話を率先として今日も変わらず動いていた。家事が終わり、二匹もお昼寝タイムとなり、一息入れていたミリに声を掛けたのはシロナだった。シロナの手には幾つかの本が重ねられ、中々古めかしい本も中には入っていた

シロナの唐突な問いにミリはニコッとした表情を浮かべ、すぐさま興味ありますよ!と元気良く返事を返す。ミリの返事に気を良くしたシロナは、嬉しそうにミリが座るソファに座り、手にしている本の数々をテーブルの上に置き始めた





「そう言ってくれると嬉しいわ〜。実はミリにいくつかシンオウの歴史に関する本をもってきたのよ。わたしも歴史が好きだからもしよかったらね、って思って」

「そっか、シロナさんはシンオウチャンピオンでもありますが考古学者でもありましたね。…忘れてました!」

「こーら。最近はここの生活に甘えちゃってるから私が考古学者って認識が薄いのはしょうがないとして……オススメはここら辺の年代かしら」




実は最近教えていたちょっと前の流行語の一つである"てへぺろっ☆"をさっそく使うミリに、シロナは小突きつつミリの手にある一冊の本を渡す

その本はシロナが持ってきた本の中で、一際使い込まれているものだった。何回もページを捲った後、色褪せた表紙、擦れて潰れた角―――長年大事にされたその本の表紙には、古めかしい字体で【ヒスイ地方の歩み】と書いてあった





「ヒスイ地方、ですか…」

「今からはるか昔、シンオウ地方がシンオウ地方と名前が変わる前に呼ばれていた地方名よ。"まだ人とポケモンが共に暮らす方法を知らなかった時代"…当然ポケモントレーナーがいなかった、そんな頃よ」

「!まだ人とポケモンが……ふむふむ。ポケモンという存在があまり認知されていなかった頃でもあるんですね。なるほどねぇ〜」

「今の時代の事を考えるとそう驚くのも無理はないわね」




ヒスイ地方―――初めて聞く名にミリは驚き、そして知らない世界に好奇心が疼き始める

なにせミリのポケットモンスターのゲーム内での知識は、ダイヤモンドパールプラチナ…所謂第四世代まででしかない。その中で出てきた新たな地方―――この世界でのオリジナル地方か、もしくは自分が知らないだけで新たな公式で公開された地方なのかは別として、ミリの好奇心を沸き立てるには十分な程であった

しかもはるか昔ときたものだ。大昔の話なんて、ゲーム上では伝説のポケモン達が暴れた話とかミュウとか神話とかそういう話ばかり。考察しやすいといえばしやすいが、やはり自称ポケモン博士としたらもっと深堀した話を聞きたい。しかも昔はポケモンと人間は対立していたとなったら、やはりポケモン世界も甘くはないんだなぁと見解を改めるに限る

常々、この世界は他の世界と比べたら生温い世界だなと思っていたから。ミリは不意に現れた過酷だった世界を脳裏に散らせながら、手渡された本のページをゆっくりと捲っていく





「今はもうその名は薄れているけど、このヒスイ地方に神を信仰する二つの集団があったのよ。一つは"今この時間を共に生きる事"を信念としている『コンゴウ団』、もう一つは"この土地で共に生きる事が大切"と謳う『シンジュ団』」

「コンゴウ団、シンジュ団…」

「その集団は思想は違えど、互いに信仰していた神の名前があったの。その神の名前が、【シンオウ様】。後にヒスイ地方の名前が変わるきっかけになった名前とも言われているわ」

「シンオウ様…」





あーそれ絶対に対立していたやつー絶対に自分達の信仰するシンオウ様が正しいって主張が平行線になってたやつやん〜、とミリはシロナの話を聞きながら一人苦笑する

この時点でミリは、二つの集団がどの神を信仰していたのかを理解した。コンゴウ団は時を司るポケモン、ディアルガ。シンジュ団は空間を司るポケモン、パルキア。二匹を同一にしてしまうのは無理はない。ミリはふと、ハクタイシティに建たれていた―――ディアルガとパルキアを足して2で割ったような不思議な銅像を思い出した。始めはゲーム上の演出のために建たれていたと思っていた。が、なるほど。あれはこのヒスイ地方の伏線だったのか!とミリは一人戦慄していた





「おや、中々興味深い話をしている。ヒスイ地方とは…また懐かしい地方だ」

「!おかえりなさい。ゲンさんもご存じなんですね」

「私もよくヒスイ地方の事を勉強していた記憶があるからね。隣り、お邪魔するよ」

「どうぞ〜」

「シンオウ地方の出身なら誰もが必ず習う事だから、驚く事はないわ。ただ、さらっと習うだけだしダイゴや他の出身の人からしたらあまり知らない人が多いのが現実なのよねぇ…」

「で、これを期にミリにも知ってもらおうと?」

「そうなの。ミリが…記憶が無くなるミリがヒスイ地方まで知っているかは別としても、この子にもヒスイ地方を知ってもらいたくて」

「シロナさん、これってモンスターボールです?この時代からモンスターボールがあったんですか?」

「あぁ、これはね…」





仕事から帰ってきたゲンも加わり、シロナの説明を交えつつ、談笑し合いながらヒスイ地方の勉強会が始まった

この時代からモンスターボールというものが造られ始めていていたが、始めは抵抗感が強く、誰も手にする事はなかった。ある集団によって日の目を浴び、徐々に使われ始めたと同時に人とポケモンが歩み寄り始めた。二つの集団が思想は違えど信仰していた【シンオウ様】は、別々の神様だと知る事になり、集団は和解した。互いに手を取り合い、ある集団を主導に町興しを始め、いつしかヒスイ地方がシンオウ地方へと名前を変えた

その集団の名前が―――ギンガ団





「ギンガ団がこの時代にもあったんですね…驚きました。てっきり近代に出来た集団だと思ってました」

「あぁ…まぁそう思っても仕方無いだろう。今のギンガ団は影で色々やり過ぎた。…本来ならこのシンオウを大きく発展させた大きな組織だったんだが…」

「なるほど、貢献した実績があるからこそ気付かなかった…無理もないですよ、お察しします。シンオウも大変だったんですね」

「はいはい、あのギンガ団の事は解決したから切り離しましょう。この時代のギンガ団は主に未開拓のヒスイ地方を調査する、善良な組織だったのよ。今で言うコトブキシティを活動拠点として活動していたとも記録されているわ。」





ギンガ団―――ミリにとってはゲーム上でしか認知していないし、この世界のギンガ団は人っ子一人も目撃してない。あのキテレツな格好を見てみたいのもあるが、正直印象が薄過ぎるのが本音だったりする。しかしまさかギンガ団がヒスイ地方の代から存在していたとは思わなかった。ミリはほへぇと面白そうに声を零す

ギンガ団はコンゴウ団とシンジュ団と比べたら創立年数は遅く、大半の人間がジョウト地方から流れてきたと書かれていた。本の製本者もギンガ団の血縁の人が作ったらしく、やけにギンガ団の事が他の集団より詳しく書かれていた。ギンガ団がモンスターボールの製造を担い、ギンガ団の活動からポケモン達の生態が明らかになり、人とポケモンの掛け橋になっていった―――と。ギンガ団の貢献具合が目覚ましく、またギンガ団がいなかったら今のシンオウ地方がなかったと言ってもいいだろう

もしかしてギンガ団のボスだったアカギってギンガ団の重責に耐え切れなくてグレたんじゃ…?と余計な考察に思考が傾き始めたミリに、シロナはルンルンと人差し指をふりふりしながら口を開く





「そしてこのヒスイ地方の歴史で個人的に一番面白い伝承があるのよ」





―――ヒスイ地方の上空に突如赤い亀裂が走る。亀裂から神の裁きが墜ち、神の御使い荒ぶらせ、大地を恐怖へと震わせる

その地に、亀裂より英雄現れる

その英雄、勇猛果敢に神の御使いを鎮め、大地に安寧をもたらす。また御使いを従い、神々をも手懐けさせ、さらには人とポケモンの平和と安寧をもたらせた

その英雄を忘れるなかれ。その英雄を讃えよ。その英雄は、我々に光をもたらせたのだから

どんなに離れていようとも、どんなに手の届かぬところにいようとも、我等の想いはけして消え失せぬ

願わくば、その英雄に我々の感謝の気持ちが伝わる事を願い、この伝承を遺そう―――






「ふーむ、面白い。まるで未来に向けてのメッセージですね。伝承という形を取っていますが、まるで未来人の特定の人に伝えたくて遺した様にもとれますね」

「あら、ミリもそう思ってくれる?わたしもそう思うのよ!特に最後の一文がそうとれるわよね。私達はこの英雄は…きっと不慮の事故で亡くなられしまって、すっごくその死を悲しまれた。英雄に助けられた人々は英雄を忘れない為に、その先の未来に―――英雄が生まれ変わった未来でも、感謝の気持ちを伝えたくてわざわざ遺したんじゃないかと思っているの」

「なるほど、輪廻転生ですか…」

「…その伝承は初めて聞く。聞いたところかなり大きな事件があったと捉えられる…一般には公開されていないのか?」

「発見されて解読されたのがここ最近の話だったりするんだけど……実は一族に伝わる伝承だったりするのよねぇ、これが!」

「おーっとそれ私聞いちゃっていいやつですー?」





聞けばこの伝承の事件事態は闇に葬られた話だったらしい。英雄様直々に後世に広める事を止めさせ、再度同じ事が起こる事を防ぐ為だと。だけど英雄の活躍は闇に葬りたくない派の人間達が、英雄が居なくなった後にこっそりと伝承を遺したと。当時読解が難しいとされる象形文字―――後に知られるアンノーン文字として

当時の人間達が何を思ってアンノーン文字を遺したのかは分からない。アンノーン文字を当時の人間達が理解していた事にも驚きを隠せなかった、とも言っていたのは余談らしいが

日の目を浴びる事なく闇に葬られた伝承。いつからか発見された事で、やっと埋もれていた伝承が姿を現わす―――生まれ変わったかもしれない英雄に、感謝の気持ちを伝える為に。しかもその伝承が描かれていた壁画には、グラデシアの花が咲いていたとも言っていたらしいから考察はさらに深まるばかり





「ロマンのある話だね」





過去から未来への感謝状。闇に葬られてもなお伝えたい、感謝の気持ち。グラデシアの花に囲まれた壁画は、ただただ静かに日の目を浴びる瞬間を待つ

きっといつか、英雄様に気付いてもらえる為に

ミリは小さく笑った





「しかしシロナ、やけに色々と詳しいな。考古学者とはいえ、所々…一族に伝わる伝承だけでは些か違和感……まるで見てきてきた様な物言いだが…」

「やっぱりあなたもそう思う?これは私が小さい頃に寝物語で聞いてきた話なのよ。お父様やおばあちゃん…もしかしたら私達一族全員、知っているかもね」

「…伝承を、寝物語で?」

「それは…珍しいですね」

「私の大伯父様がヒスイ地方の出来事にすごく詳しくて、よく聞かせてもらったわ。それもあってヒスイ地方には愛着があったりするのよねぇ。当の本人は行方不明なんだけど」

「それは…大丈夫なのか?大伯父って確か、」

「祖父母の兄弟に当たる、んでしたよね?」

「あぁ、そうだ。…かなり高齢なんじゃないか?行方不明って…徘徊レベルを超えてないか?」

「フフフフ!そうよねそういう見方になるわよね!ふふふ!便りがないのは元気な、フフッ証拠と言うでしょ?ふふふ放浪癖があるみたいだし、も、もう気にしてないわ」

「めちゃくちゃ大爆笑じゃないか」





正しくは「フフフフwwww!そうよねwwそういう見方になるわよねwwww!ふふふw!便りがないのは元気なw、フフッww証拠と言うでしょwwww?ふふふw放浪癖があるみたいだしww、も、もう気にしてないわww」と草を生やすシロナはお腹を抱えて笑い出す。よほどツボにはいったのか挙げ句「はwwいwwかwwいww」と大爆笑だ。まさに草生やされからの大森林まったなし。シロナをそうさせる大伯父とは、一体何者だろうか。とりあえずゲンはドン引きしていた

シロナさん元気でなにより、と暖かい目でミリはシロナを眺めた。美人の大爆笑は目にとても良い





「ヒスイ地方かぁ…」





はるか昔に存在した、過去のシンオウ地方。コンゴウ団、シンジュ団、ギンガ団、神々のポケモン、御使いの存在、闇に葬られたがこっそりと感謝を綴った伝承の数々―――

嗚呼、これだから世界は面白い

ポケモンの世界は、こんなにも楽しい!





「シロナさん、もっと色々話を聞かせて下さい!」

「!良いわよ!なら今日はヒスイ地方の勉強会よ!あの二人も加えて…この際ダイゴにも教えてあげないとね!今日は寝かさないわよ〜」

「ほどほどにしてくれよ、シロナ」











神は微笑みで世界を覆す




そして蝶は

かつての大地の夢を見るのだ






20221201
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