ヒスイ地方の空に亀裂が生じた、あの日。人々を恐怖へと陥れた、あの日。亀裂から雷を落とし、御使いポケモン達を狂わせたあの日。神々のポケモンを暴走させ、さらに空を禍々しい色に染め上げられた、あの日―――

色々な事があった。様々な事があった。事の顛末を説明するにはあまりに時間が足りなさすぎる。それだけ濃厚で濃密で、一言では説明出来ない出来事があった


―――全てのキッカケであり元凶がウォロだったと、ミリの口から告げられる事となる


ギンガ団のアジト、団長室の中には少数の人間達がいた。ギンガ団団長のデンボクと隊長シマボシ、調査隊のテルとラベン博士が。コンゴウ団には団長セキとヨネ、シンジュ団にはカイとノボリが。そして本来なら入る事のない部外者であったイチョウ商会のギンナンが―――ウォロの頭を下げさせ、自身も同じように頭を下げていた

デンボク達は驚愕し、そして激怒した。それはそうだ、全員を激怒させる事をウォロはしたのだから。ギンナンは「こいつの思惑に気付かないで野放ししていたのは確実に俺の責任です。ウォロにも責任を取る事は確実ですが、俺も責任を取らせて頂きたい」と、イチョウ商会全員に頭を下げた。ウォロは何も言わずただ静かに頭を下げていた

その様子を静かに見守っていたミリ。怒る者達を諫める事も、ウォロを庇う事もせずただ静かに眼前の光景を静観していた。何を思って彼女は眺めていたのかは、分からない。各所激昂する感情が落ち着きをみせた頃、「ミリ、何か言いたい事はあるか」というシマボシの振りによりその口を開く事となる





「では申し上げます。今回の件ですが、どうか彼のした事を世間に公にしないでほしいのです」





これには全員おったまげた

具体的に言うとミリの言った台詞に絶句した。今、ミリは何を言った?と。あのシマボシでさえ表情を変えたくらいだ、ミリの言った台詞は彼等に大きな衝撃を与えた事は間違いないだろう





「理由は私情を含めていくつかあります」

「…申してみよ」

「彼のした事を全て公にした場合、ヒスイに起きた事が歴史に残ります。歴史に残る、つまりそれは先の未来の話で伝承されていき、神々のポケモンを従えた事があると―――不可能を、可能にさせてくれるだろう、と。卑しい野望を持った未来の人間達が、絶対に同じ事を起こす可能性が大いにあります。それだけの事は彼はしました。…神のポケモン、ギラティナを従えた事に関しては純粋にスゴいとは思いますが、彼よりも悪どい考えを持つ人間はざらにいます」

「……まだこやつはマシだと言いたいのか?」

「マシもマシ、かわいいくらいです。純粋な知的好奇心が天井突破しただけの事。私からみたら害はありません。なんでも知りたがる子供が親の言う事を聞かないで勝手にやらかした、そんな感じです」

「んなッ…!」





ミリの言葉にウォロは下げていた頭を上げ、意味分からないとばかりギョッとした。それはそうだ。ミリは今、ウォロの事を小者のする事だと発言をしたのだ。ウォロのした事は小者でちいさい子供のした事だと

こうミリが発言したのには実は訳がある。ウォロはアルセウスを手に入れて、世界を創造するというやべー野望を持っていた。しかしミリはこの件には一切触れずに全員には「子供の頃からアルセウスが大好きで、アルセウスに挑もうとしたギラティナにアルセウスに会いたいが故に調子いいようにハッパかけてシンオウ様達を狂わせ、アルセウスを降臨させようとした」と伝えてある。何も間違えていないしほぼほぼ真実なので嘘は言っていない

当然ウォロは全て説明されるものだと覚悟を決めていたのに、大元の理由が説明されていないし、挙げ句自分を小者呼ばわりした。何を考えているんだと思っていた矢先の仕打ちである。それはもうウォロもつい反応してしまうというもの





「仮に公にしなかったとして、彼をヒスイ地方追放の手もありますが、彼みたいな好奇心旺盛でフットワークが軽い…んんっ。活動的な子はまた何処かでやらかす事は間違いありませんからね」

「無罪放免にしろって事か?ミリ…それは流石に無理があるだろ」

「そうだよミリちゃん。それは彼にとって都合がよ過ぎるよ。そもそもこの人のせいでミリちゃんは自分の故郷から…」

「そこは私情になってしまうので、後でお話しますね」





ニコり、とミリは笑みを浮かべながら艶やかな唇に人差し指を当て、パチコーンと片目を瞑る。所謂ウインクである。お口シー、からのウインクパチコーンはもはや相手の情緒を歪ますデスウインク。カイとセキに効果は抜群、「「ングフゥ――」」と大ダメージを与えた。罪な女である。隣に立つヨネは頭を抱え、ノボリは苦笑を浮かべた。そんな彼等の様子を見てテルは「もうダメだ…手遅れだ…」と生暖かい目をして手を合わせていた

そしてミリは続ける。イチョウ商会が責任を取る事ではないと。前々からウォロに教育的指導をしていても言う事聞かずに仕事をサボったのは紛れもないウォロ本人、そこまでして自分のケツを拭う必要はない。むしろ拭うにしても範疇を超えている。そこに償いを与えたところでイチョウ商会だけに被害が及び、ウォロが図に乗るだけだと

すげぇ言い様だった。ギンナンが横で「イチョウ商会の為にそこまで…!」と感動のまなざしを送る中、ウォロは静かにダメージを食らいまくった。どこまでも容赦がない





「ではここから先は私の私情をお話させて頂きます」





まず一つ、サボり癖の強くどうしようもないくらい自分勝手なところはあるが、商人としての腕は確かなもの。イチョウ商会に彼がいなくなった場合、このヒスイ地方の商品の流通が滞る可能性がある。聞いたところ商品の仕入れは各自の手腕によって賄われているとなったら、急にウォロがいなくなった場合の品不足がかなり懸念である

二つ、ウォロはヒスイ地方の土地勘が誰よりもある。自分がギンガ団から離れた際、ギンガ団ですら知らない安全な拠点を幾つも知っている。今後ギンガ団及びコンゴウ団やシンジュ団が拠点を拡げるもしくは新たな開拓の際に役に立てれるはずだ

三つ、ウォロは自称ポケモン使い。ウォロと戦って分かるのは、荒削りであるが彼はポケモンを扱う才能に長けている事。ポケモンと人間の関係を善くさせるにうってつけであり、ノボリの様な戦闘知識もある。ノボリと手を組んで高みを目指しながら、ポケモンの指導に入れればさらに各団へのポケモンに対する対応が変わってくれるはず

結論、ウォロは利用価値がある。さらなる発展を望むのなら彼の存在は大いに役に立てるだろう。奉仕活動でもなんでもさせればいい。しっかり手綱を握っていればそれ以上の成果を与えてくれるはずだから





「以上の事を踏まえて彼はこの件に関しては無罪放免、今回のお話はここの人達の中でお願いしたく思います」





自分にとって一番信用出来る者達の中で、収めてほしいとミリは言う

本当だったら他のキャプテン達も同様に聞いてもらいたいところだが、自分が大切にしている御使いポケモンが操られているキャプテンもいる。反感を出さない為にも御使いポケモンが操られていなく、冷静に物事を把握出来る方々を呼ばせてもらったと更に続けた

確かにミリの言う事には一理あった。今この場に呼ばれた、各団のキャプテンであるヨネとノボリ。二人は性格的に冷静な面があり、物事にも落ち着いて状況把握が出来ると自分の団長から評価されていた。先程の激怒した姿はあれど、すぐにクールダウンしたのも彼等の方がシマボシに続いて速かった

彼等は口も堅い。きっと心の内に秘めてくれるだろう





「…詭弁だと思われても構わない様子だな」

「えぇ、あくまで私個人の発言ですので」

「仮に私達がそれを呑んで…おぬしは、それでいいのか?おぬしの故郷全てを奪ったこやつの事…憎くはないのか?」

「憎い?………いえ、特には」

「!?…ッ何故です!何も思わないのはおかしい!ジブンは、ワタクシは!かつて貴女と同じ立場だったあの時…それこそ憎しみしかなかった!なのに、それを、貴女はなにも…何も感じないだと!?」

「おいウォロ!お前は黙ってろ!」

「ッしかし!!」





ウォロの脳内にはある光景が流れていく

かつて自分達が暮らしてきた故郷。楽しくくらしてきたあの時。たくさんの民が手を取り合って生きていた。しかし突如として余所者共が現われ、自分達の住家を故郷を、簡単に奪っていき、カミナギの民の誇を汚した―――嗚呼、あの時の憎しみは到底忘れられるはずがないのに

流石のウォロも自分もかつての余所者と同じ事をした自覚はあった。しかし、ミリは、なんでもない様子で言ってのけるのだ。「いや別に?」と―――





「私、自分の家の帰り方は分かっていますよ」





ミリの不意打ちからの爆弾発言に、全員は言葉を失った





「自分の家の…」

「か、帰り方が、分かるのですか…!?」

「…………なるほど、アルセウス、ですか」

「えぇ。"全てのポケモンと出会え"―――アルセウスに出会えた時、私に課せられた使命が明かされる。何故私は亀裂から落ちてきたのか、何故アルセウスは私にアルセウスフォンを託したのか…その先に、私の帰る道が示される」

「……そう、だよな…お前は帰るべき場所が、あるんだよな……」

「ミリちゃん……」

「……改めてミリからその話を聞くと…寂しいモノがあるね……」

「ですが、良かったです。ミリ様にも帰れる場所があるのは…」

「図鑑完成は後少しです。…皆さんとこうしてお話出来るのも、あと少しでしょうね」





図鑑完成まで、後少しだ

ミリの事だからまた無茶な方法で図鑑を完成させるはず。普段から図鑑完成に向けてスピードを速めていたくらいだ、この調子ならあと数週間でも完成させてしまうのだろう

今までミリは何も言わなかった。故に突然告げられた情報は、彼等を大いに動揺を走らせる事になった。自分達の大切な友人が、後輩が、部下が、娘が、好いた人が、後数週間でお別れする事になるなんて―――気持ちを飲み込むまで、かなり時間を有するのは間違ないだろう

デンボク団長、セキさん、カイちゃん―――と、ミリは続ける





「貴方達はこの大地を取り締まっていくであろう、長達だ。先程私が言った進言を全てを飲み込むのは不可能なくらい分かっています。しかし、貴方達が少しでも消えゆく私の為を思って下さるのなら―――どうか、亀裂が生じたあの日からの出来事だけでも、闇に葬ってもらいたい」

「…何故…そこまでして固執する?このウォロなる者をそこまで庇いたいのか?」

「庇う?…嗚呼、なるほど。確かに彼の事はなんだかんだ言って感謝していますよ?彼には、ギンガ団を追放された時に唯一親身になって助けて頂けたので」

「!ぬう…」

「ミリさん…」

「まぁでも全て彼の手の平の上だとしたらすごい刷り込み具合で逆に尊敬すらしますけどね」

「ミリさん!!」

「…では、その理由は?」

「私は未来から来ました」

「「「「―――!!!!!?????」」」」





遂に―――秘密主義者であるミリから、この場で本当の事を伝えられる事となる

異世界から来たのはいい。まさか未来人だったとは。さっきまでなんでもない様に言っていたミリも、流石に今の言葉には重みを感じさせていた





「この時代の、さらに先の未来から……本来ならこのヒスイ地方にいてはいけない人間です。私の言いたい事、お分かりですね?」

「…ンン。つまりよ、ミリ。お前の住む未来が同じ目に会わねぇ為に黙ってろって事か?」

「セキ、その台詞は早計過ぎるよ。……ミリちゃんが未来から来た…私はその言葉を信じるよ。でも、その話を聞いて頷くかって言ったら…ちょっと違うと思う」

「そうだ、ミリの言う事が本当の事なら、尚更この件を明るみにして先の未来に残さねばならぬ。同じ事を繰り返さぬ為にもな」

「えぇ、皆さんならそう言うだろうと思っていました。流石はギンガ団、コンゴウ団、シンジュ団を束ねる長達です。本来ならそう在るべきだと私も思ってます。未来へ繋げる為に――そうやって、貴方達は未来へ様々な事を繋げてきてくれました。その偉業を、本当でしたら無駄にしたくはありません






私の住む未来では、既に同じ事が起こっています」





これには全員が絶句した

ミリは構わず続ける





「亀裂までは生じてはいませんが、空は赤く禍々しいものだったそうです。そう、私がクレベースを鎮めさせたあの時の空の様に」

「とある組織が湖のポケモン達を強制的に捕らえ、無理矢理使役し、あかいくさりを用いて―――ディアルガとパルキアを、無理矢理呼び出したそうです」

「二匹が強制的に呼び出した事で空間と時空が入り乱れた。…事態の収拾がたいそう大変だったと伺っています。…そう、あの時と同じようにね」

「何故そんな事をしたのか、どうやってそんな事を出来たのか…そういう話は聞かないで下さい。私はその出来事があった時は未来のヒスイ地方にはいませんでしたが――――私がこの地にやってくる、ちょっと前にあった出来事らしいです」

「手遅れなんですよ…全てがね」





誰も何も言えなかった

デンボクも、セキも、カイも―――ウォロも

ミリから告げられた未来の話。嘘だろうと鼻で笑えるならどれだけよかったか。しかし彼等は既に体験しているのだ。あの禍々しく赤く染まった空を―――ミリの真剣なまなざしを、誰も逸らす事が出来ずにいた





「そもそも未来の人間が過去に過剰に干渉し過ぎているのです。…万が一の事を考慮して、亀裂の事象と―――ヒスイの英雄と言われている私の事も、それこそ闇に葬ってもらいたい」

「「「!!!???」」」

「ッなんでだよ!?亀裂の事だけじゃなく、ミリの事までッ…」

「そうでございます!今までのご活躍は、ミリ様がいたからでございまし!」

「そうだぜ!?なんでミリの存在すら隠さなくちゃなんねーんだよ!」

「私達のシンオウ様だって、ミリちゃんが頑張ってくれたお陰で判明した事だよ!?」

「ミリがいたからポケモンと歩み寄ろうとしてくれる人達が増えているんだよ!」

「ミリ…何故だ、何故その様な事を言うんだ」

「ありがとう、皆。そう言ってくれると…ヒスイ地方の為に、たくさん頑張った甲斐があったよ」





ミリは笑う

嬉しそうに、愛しそうに、

――――哀しそうに





「私は、余所者です。本当の意味で余所者なんです。…ここにいてはいけない、異物なんですから」







**********






結果的に、ウォロは亀裂の事象の件に関しては無罪放免となった。しかし、ただ無罪というわけにはいかない。各両団長が話し合った結果、ミリの提示した提案通りとなった。イチョウ商会の仕事をしながらノボリと共に修練場で腕を振るいギンガ団を中心に新たな拠点の開拓と―――ブラック企業・再来とばりの仕事を課せられる事となる。当然ウォロの趣味としていた歴史の探索は当分出来ない事からウォロは膝から崩れ落ちていた。ウォロには効果的な処罰だったという事がこれで判明された。その姿を見てミリが指を指して爆笑していたのはさておいて

今日の事が落ち着いた、その夜。ミリは相棒のバグフーンと一緒にはじまりの浜にいた。浜から見える海の景色を、燦々と輝く星空といっしょに、ミリは名残惜しそうに眺めていた。バグフーンもミリと共にこうして夜空を見上げるのも後僅かだと悟っているらしく、一人と一匹はぴっとりと互いに身体をくっつけながらさざ波の音を聞きいていた

そんなミリ達の元にある人物が近付いてきた

その人物の正体はウォロだった。ウォロは自分に振り返らず、静かに海を眺め続けるミリ達にため息を吐いた後、ズカズカとミリの座る浜の横にドカリと座る

バグフーンがチラリとウォロを見るが、すぐに空に目を戻す。もはやバグフーンもウォロの事は眼中に無いらしい。舐められたものですねと悪態を吐くウォロだったが、事実は事実。暫く二人と一匹は黙って海を見続けていた

暫くして、ウォロが口を開く





「…ワタクシは貴女が気に食わない」

「唐突のディス」

「余所者のくせに一直前に団長達に物申してワタクシの無罪を勝ち取った」

「いぇーい」

「余所者のくせにこれからアルセウスに会おうとしている」

「あと少しですけどね、図鑑」

「余所者のくせに貴女のせいでワタクシの身体はバキバキです。どうしてくれるんですか責任取って下さい」

「それはもう自業自得ですね」

「余所者のくせに…回りにたくさんの人がいるのに、人が貴女の元へいたいと近寄っているのに―――自分の事を余所者だと言い、自ら離れていく」

「!……」

「余所者のくせに、余所者のくせに!………ワタクシの、一番の居場所に、なってくれない…」

「…………」

「馬鹿なんですか?」

「ばかなんですか???」





流石のミリもその台詞に仰天するしかないし、脳内に無限のコスモが広がった。おそらきれい。何か今すごい事を言われた気がしたけどなんで自分馬鹿にされた?なんで?むしろなんで??

そんなミリの状況など知らんとばかりにウォロは話を進める





「…貴女には、好いた人はいるんですか?」

「いやまた突然ですね。なんで急にそんな事をウォロさんに言わなきゃいけないんですか」

「いいじゃないですか。どうせ最後みたいなものですし。ワタクシの貴重な告白をさらっと流されたのです。最後くらい貴女の秘密を暴露してもらわないと気がすみません」

「あれ??もしかしてさっきの告白だったんです???罵倒してませんでした??私の聞き間違い??」

「ずべこべ言わず言いなさい!ワタクシの傷が浅いうちに!ワタクシの好奇心がわき出ている間に!さあ!さあさあ!」

「いや圧の強さよ。まさかこんな感じで異性の人と恋バナするとは思わなかったなぁ…」

「おや、もしかして貴女のハジメテを頂いちゃいました?…それはそれは、楽しい事になりそうですねぇ!」

「語弊がある!その言い方はとても語弊がある!ウォロさん無駄にテンション高いですね逆に心配なんですが!」





形勢逆転したとばかりに調子を取り戻したウォロのノリにミリは遠い目をする。おそらきれいだなぁ。隣に座るバグフーンは二人の様子にのんびりと「あらあら」とばかりに眺めている。ここだけみたら平和である。おそらきれいだなぁ

ハァ、とミリは小さくため息を吐いた。そしてミリは目線をウォロから海に向けて―――懐かしむ様に、寂しそうに、美しく輝いていた瞳は一瞬の曇りを浮かべる

初めて見せたミリの、その人間らしい様子に小さく驚くウォロ。そんな顔も、出せたのかと。普段はケロッとして内面やら隙やら全く見せないできたミリの、ハジメテ見せた顔。美人の憂いた顔はそそりますねぇ。勝手に話を振っておきながらそんな事を考えていたウォロを知らずに、ミリは小さな声で言葉を紡ぐ





「…未来に、いますよ。好きな人…所謂、恋人と呼ぶ人が」

「そう、ですか。…?―――え?いたんです?貴女に?恋人が??―――え、は、ハァア???ばかなんですか???」

「二度目のばかなんですか!???なんで!!??聞いといてその反応ですか!?酷くないです!?私だって恋人くらいいますよ!…え、いるよね?私恋人…いるよね?妄想から出来たとかそんなことないよね?……うんうん、いる!ダイジョウブ、ワタシ、コイビト、イル!失礼しちゃう!」

「いやワタクシとしたら好いた人飛び越えて恋人がいたとは思ってもなく…………はぁ、そうですか。そうですか…………






どこまでシましたか?」

「そのペカペカ笑顔で急な下ネタとその指の動きは止めろォオオオ!(ギリギリ!」

「ゥグァア゛ッ!」





すかさずチョークスリーパーを決めた。これで二回目である。懲りない男である

唐突の下ネタはデリカシーがなさすぎる。これぞジェネレーションギャップ。これが未来なら確実にセクハラで断罪である。ペカペカの笑顔でナニ言っているんだ。ペカペカな顔で指で輪っかを作って人差し指を出し入れすr…おっとお喋りが過ぎた様だ

まぁウォロの言う疑惑も否定出来ないのも事実。ミリは平気で他人を沼に落とす。当然男のハートを奪う事なんて容易いし、未来の言葉では初恋キラーと言われるくらい色々とやらかしている。実際にそれでテルの純情を持て遊び、セキを胸キュンさせて行動不能にさせている。ギンナンもノボリも正直怪しいところだし村に移住してきたハクという男もの危うい。ツバキとキクイは美人の姉ちゃんを奪い合っているからまだセーフ。ススキはガラナという好いた人がいるしハマレンゲは論外、とまぁそんな感じに各々男達の心をハートキャッチしても、彼等からのアプローチがあったというのに全く気付かない姿を何度も見てきたから―――恋沙汰なんてものはなく、それこそ恋人なんているとは思わなかったから驚きしかない

このワタクシの心すら持て遊んでおきながらしっかり恋人がいたとは…このワタクシを!ドキドキさせておきながら!がウォロの心中である。だがしかしウォロよ、何度も言うがそれは釣り橋効果である。効果がまだ続いているだけである。おちつけ。その先は地獄だぞ目を覚ますんだ





「―――決めました」

「なんか嫌な予感」

「しょうがないのでワタクシは将来、アルセウスの遺した様々な伝承を探しながら、変わらずイチョウ商会としてギンガ団を支えましょう。絶対に遺跡巡りの時間を作ってやる。ワタクシはこうみえて待つのが得意ですからね―――貴女の言う、先の未来で、貴女に会う。そしてワタクシの野望の第一歩として、未来で貴女をこの手で倒します。絶対です。貴女がワタクシの事を知っていようがいまいが、関係ありません。絶対に倒す」

「…ウォロさんならやりかねなさそう…いいでしょう、その時も全力で貴方とお相手しましょう」

「そして勝った暁には貴女をもらい受けます。これも絶対です」

「………………、ん?」

「その恋人の方をたたきつぶしてもいいですね。どうせ貴女の周りにはこちらと同じようなものなのでしょう?簡単に想像つきます。恋人と周りの男達でもなんでも、ポケモンば…とる、でしたっけ?それでワタクシの強さを示して、貴女の隣にはワタクシが立つのだと宣言するのです。そしてその時こそ!アルセウスと出会える!ワタクシと貴女で、アルセウスを!―――嗚呼、嗚呼!好奇心がおさまりませんねぇ!!」

「やばいやばい雲行きが怪しくなった!ウォロさんおかしなスイッチ入っちゃった!さっきのやり過ぎちゃったかな!?」

「ふふ、ふふふふふッ―――楽しみですねぇ、ミリさん!」

「落ち着けェェエエェイッッ!!(ドゴォオッ!」

「フグォァアァア!!」

「バグァ〜(あらあら)」






その宣言が、決意が

ミリという存在が、

将来自分自身の首を締め、一生独身貴族になってしまう事を―――今のウォロには、当然気付かないのだった








やさしい海に還りたい

(これくらいしておかないと)
(貴女の記憶にワタクシは残らない)

(精々気楽に笑っていろ)

(最後に勝つのは――このワタクシなのだから)









2022/12/24
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