「…ねぇ、レッド」 「…何だ?」 「ずっと思っていたんだけど…ちゃんと家に帰っている?」 「…」 ミリがレッドの元に通って約一ヶ月が経った。相変わらずレッドはシロガネ山の奥深くに篭りっきりで、段々ミリは心配になってきた。一度仲良くなると一つの事でも心配になる母親気質なミリは、ずっと籠るレッドを見ていられなくなっていく お節介だという事を分かって言う辺り、二人はもう、本音が言える程仲良くなっていた 「やっぱり…」 「…」 「こらレッド。興味が無いからって寝ようとしないの!しかも私の膝で…!」 「寝る」 「ちょーっとー…」 ミリの膝にさも当たり前の様に頭を乗せるレッドを怒りつつも嫌がる素振りを見せないミリの顔は、仕方が無い、と苦笑を零していた 何故レッドがミリの膝に頭を乗せて寝るようになってしまったかというと―――ミリが遊びに来ていた時にレッドのエーフィが気持ち良さそうにミリの膝の上で昼寝をしていた姿をレッドが目撃していたのが始まりだった。女性特有の細く、それでいて柔らかい太股は小型のポケモン達には人気で、ミリの膝を巡る冷戦が繰り広げられる程だ。羨ましそうに見ていたのかレッドの視線に気付いたミリが「頭乗せる?」と冗談で言ったつもりだったが、まさか本当に頭を乗せてきた事にミリは勿論、彼のポケモン達も驚きを隠せずにレッドを凝視した。その張本人であるレッドは、確かに気持ちがいいと小型ポケモンの気持ちを知りながら夢の旅へ。それ以来、ミリが訪れる度に何度かこうして(強制的に)頭を乗せて昼寝をしていた 「…本当に寝ちゃったよ」 「…」 「どうしよう。一度寝たら軽く15分は起きないのに…」 「…」 日々の疲れなのか、ミリの太股が気持ち良いのか、カビゴンの如くおやすみ三秒で夢の旅に入ってしまうレッドは仮眠とはいえ15分、最高30分位は目を覚まさない。身動き出来ないミリにとっていい迷惑だ だがしかし、レッドの寝顔を堪能出来る辺り、ミリも結構良い性格をしている 「今のうちに聞いておこう。…時杜」 《はい、ミリ様》 ミリの呼び声にセレビィはフワフワと浮いてやって来た。寝ているレッドを一瞥すれば、ミリと同じ様に苦笑いをする ポケモン達でさえ、これは当たり前だと認識をされていた 「話は聞いていたね?」 《はい。通訳ですね》 「そう。お願いね」 《分かりました》 フワフワと宙に浮きながら踵を返し、元いた場所に戻っていく。ミリのポケモンとレッドのポケモンは仲良く戯れあっていた セレビィがリザードンやカメックスに色々聞いている姿を横目で見ながら、ミリはレッドの帽子を取ってあげる。帽子を取っても起きない所を見ると彼は深い眠りについているらしい。ミリはまた苦笑を零した 《ミリ様》 「何だって?」 《レッドさんがチャンピオンになってから母親に顔を見せていないと言っていました》 「という事は…」 《あ、今エーフィが二年前と言いましたよ》 「…そりゃ伝説になっちゃうね。二年も音信不通なら」 苦笑を通り越してミリの顔は呆れて遂には溜め息が出てしまった しょうがない、これは不可抗力だ。とミリは嘆く 《フシギバナが、いい加減家に顔を出した方がいいかもしれないと言っています。ピカチュウもそれに賛成しています》 「…皆もよくじゃんね」 《リザードンが当たり前だと言っています》 「ですよねー」 トレーナーもバトル狂で、ポケモンもバトル狂。強い相手を求めたあまりに、いつの間にか時が過ぎていったに違いない。それを想像すると、ミリは引きつった顔を見せた 「近い内にレッドを家に顔を出させよう」 《皆賛成しています》 「レッドが起きたら行き先変更。セキエイ高原すっぽかしてレッドの故郷に向かいましょう。一度レッドの家族と対面してレッドの安否を伝えておかなきゃね。レッドの故郷はマサラタウンであっている?」 《はい、マサラタウンだと言ってます》 既にミリはジョウトのバッチを全て制覇していて、暇つぶしにリーグに挑戦してみようかなと企んでいた。といっても、ジョウトのチャンピオンであるワタルとはいかりのみずうみで一度バトルをしており、実力が分かってしまったワタルともう一度戦うべきかどうしようかと悩んでいた所だった やはりここはまずレッドを最優先にしておいて、後からやってきたヒビキとコトネ、そしてカナデに最後のバトルを仕掛けてあげて世界は広いと体験させてあげよう。と、ミリの頭の中で考えがまとまった 「全てはレッドの為人の為、てね」 ミリは優しくレッドの頭を撫でる。レッドの黒髪はスルスルとミリの手をすり抜けていく ミリはクスリと微笑んだ その微笑は何を意味するのか |