あの一件から、ミリはレッドに会う為よくシロガネ山を訪れていた。一週間に一回くらいを目安とし、レッドに迷惑が掛からない程度に、お土産を必ず手にしてジョウトからわざわざ顔を出していた。レッドは相変わらず、ずっとあのシロガネ山の奥深くに篭りっきりな為、レッドを無理矢理引き抜けば山頂まで散歩したりしていた。レッドの特訓を(心夢眼で)眺めていたり、他愛な話で盛り上がり、コーディネーターの腕を奮ってレッドのポケモン達を綺麗にしてあげたりと楽しい一日を過ごしていた 「おやつの時間だよー。欲しい人は順番に並んでね〜。押しちゃ駄目だよ引いても駄目だよー。ポロックとポフィンは逃げないから安心してね〜」 「…手慣れたな」 「フフッ、お蔭様でね」 ミリは異空間を渡る力が復活するまで、気晴らしにでもジョウトのバッチを制覇するか!とスイクンの背に乗ってジョウト巡りの旅を始めた。ルカリオの波動で分かったのはこの世界は、カントー地方でお騒がせしていたロケット団が解散してから二年後の世界だと知ったミリはテンションをハイにして、出身地でもないのにワカバタウンから出発し、嵐の如く風の如くにバッチをゲットしていった 剛に入っては郷に従え、気持ちを新たに切り替えて、初心の気持ちで そうやってミリはこの世界を楽しんでいた 「私達はなめらかポロックとポフィンで良い?」 「…」頷 「了解。すぐに出来るよ」 ルンルンしながらレッドの隣りで小型専用機械でお菓子を作るミリの姿は、もう日常化していた 「はい、出来たよ〜」 「…」 「ピッカ!」 「ふりり!」 「あらあらコラコラ。喧嘩しないの。仲良く食べなさーい」 日常になってしまった程、レッド達はすんなりとミリの存在を受け入れ、ずっと前から一緒にいたような感覚さえもあった。気づけば互いのポケモン達は既に家族と言って良いほど仲が良くなっていた。トレーナー同士も(それなりに)仲良くなっていき、阿吽の呼吸が可能になってしまったくらいに 盲目で声が頼りなはずなのに、無口のレッドとどうしてこうもうまく会話が成立しているのか――――第三者が疑問視しない限り、そんな事すら浮上しないだろう 「…次は何処だ?」 「チョウジタウン。いかりのみずうみが有名らしいから観光してからジムに挑戦〜」 レッドの突拍子の無く主語も無い問い掛けにも普通に答えてしまうミリは、もうレッドという人格を把握してしまっていた 「…でもそのいかりのみずうみ、ロケット団によって酷い事にならなければいいけど…」 「…ロケット団?」 「えぇ。カントーで悪さをしていたロケット団。二年前にどうやら一人の少年の手によって解散したみたいだけど、復活したってさ。この子達も見たって言っているよ」 「…!」 徐々に目を開いていくレッドを余所に、ミリは気付かれない様にニヤリと笑う ミリは表向き遠い地方からやってきたばっかであまりこちらの地域の事は知らない―――という話になっている。しかしミリは全てを知り尽くしており、ロケット団を解散させた少年がレッドだという事は会ってすぐに気付いていた。しかし、ミリは知らない振りを決めた その方が面白いのもある。そして、あまり関わってはいけないという制限も兼ねて。元の世界ではそのロケット団に色々迷惑をかけられた事もあったから、もし自分達が動いたらこの世界の流れを狂わしてしまう可能性もある。それにこの世界のロケット団の運命もその物語も知っているミリは、完全にモブキャラの一人として楽しむ気満々だった 「お前は無事…だよな」 「えぇ、この通りね。ピンピンしてますよ。あの時は男の子と女の子がロケット団と戦っていて、ロケット団が負けてずらかる所を私が吹き飛ばしたんだよね」 「………」 「あの子達、将来有望なトレーナーになるよ。名前はヒビキとコトネにカナデ。カナデに至ってはポケモンを盗もうとしたから焦ったよ。でも面白かったな〜」 あの時の事は忘れられないとクスクスと笑うミリに、レッドはつまらなさそうにムスッとする。レッドは分からなかった。何故ミリが他人の話をすると気分を害するのか、この時はまだ、レッドは知らなかった それが恋の前触れだと |