バタッ、バタッ、と小さな体と大きな体がゆっくりと倒れていく。小さな体には氷と冷たい水でびしょ濡れで、大きな体にはバチバチと電気を帯びている。辺りは騒然としていた。地は抉り、岩は砕き、原形に止めていないものが沢山あれば、この戦いは壮大なバトルだったと頷ける





「…引き分け、ね」

「…」






驚きつつも、何処か清々しい顔をして呟いたのは、ミリの方だった。最後のポケモン―――パーティの中で屈指の実力者でもあり一番の相棒でもあるスイクンが、まさかの引き分けだった事に若干驚きを隠せないでいた

対してレッドの方は無言で倒れた最後のポケモン、ピカチュウを見る。レッドもまさか相性で勝っているだろうピカチュウが負けた事に驚いているが、帽子のせいなのか暗闇のせいなのかその表情は分からない。だがレッドも、久々の強いトレーナーと戦えて満足し―――その顔はミリと同じで清々しい顔をしていた





「素晴らしい戦いでした」

「…こっちこそ」

「お礼に、ポケモンの回復をさせて下さい」

「…」





帽子の唾を掴みコクリと頷けば、ミリは嬉しそうに微笑む。意識が戻ったらしく上半身を起こすスイクンに「ちょっと待っててね」と身体を撫でで、レッドの元へ歩み寄る。レッドもピカチュウをボールに戻し、ミリの方を見る

正面に着いたミリとレッドの身長差は余り変わらず、ちょっと高いのはレッドだろうか。ここで初めて二人は一対一で対峙し―――レッドはここで、初めて目の前の少女の眼が盲目だという事に気付いた





「お前…」

「レッド、私の手の平に貴方のボールを」

「…?」





盲目だった事に驚いているところを遮るかのように言われた言葉。一体何をするのだろうかと疑問に思いながらも素直に従うレッド。ミリの手の平に、小さくなった六個のボールを乗せる。その手を覆い被さる様にミリの白くて細い手が、離れようとしたレッドの手を優しく包み込んだ

温かい手だった

久々に人の体温というものに触れて懐かしさに浸っているレッドを余所に、ミリは瞳を閉じる。すると温かい淡い光が二人の手を包み込んだ。目を見開くレッド。そのレッドの反応に微笑みながらミリは指をパチンと鳴らした

淡い光が収まった

ゆっくりとミリの手が離れていき、六個のボールが姿を現す

ボールは元気にカタカタと動いていた





「…!」

「皆元気になりましたよ」

「っお前は…」

「何者か、という質問はご遠慮願いますね」






フフッ、とミリは微笑んだ

試しにレッドは六個のボール全てを投げてポケモン達を出してみれば、ポケモン達は元気ピンピンに出て来たではないか。スイクンとの戦いで氷付けになったピカチュウとセレビィと戦ったエーフィは足元にすり寄っていき、ダークライと戦ったフシギバナ、ミュウツーと戦ったリザードン、バンギラスと戦ったカビゴン、ミロカロスと戦ったカメックスの全員が――――さも重傷人であった事が、嘘の様に元気だったのだ





「次は私ね」





ミリは待っていたスイクンの元に戻り、淡い光を輝かせながら回復をさせる。スイクンの隣でクルクル目を回すセレビィと、意識が戻り順番を待っていたミュウツーにも同じように。そして3個のボールを何もな居場所から取り出し、先程と同じ様にポケモン達を回復させる。その光景をレッドは静かに見ていた

回復し終えたミリはレッドのポケモン達の前にボールを投げる。現れたポケモン達はレッドのポケモンと同じ様に元気ピンピンだった

互いのポケモン達は戦ったポケモン同士と仲良く打ち解けあっていた





「ポケモン達もすっかり仲良くなったみたいですね」

「…」





微笑ましいと言わんばかりに言うミリに、レッドは無言で頷く

ミリはこの人は昔からこうなんだ、と数回言葉を交わしただけでレッドの性格を見抜いていた


その時だった





《マスター、こちらでしたか》

《ミリ様!》





シュッ、とミリとレッドの目の前にあるポケモン達が現れた

いきなり現れたポケモン達にレッドを始めそのポケモン達は身構えるが、ミリはパァアッと笑顔に変わった





「皆、お疲れ様」

《マスターの為ならば。シロガネ山は確かに凶暴なポケモンだらけでしたが、マスターの存在のお蔭か落ち着いております。風彩と炎妃の方も問題はないとの事です》

《私の方からも報告しよう。朱翔の言う通り主の存在のお陰もあり、上空も周辺も危険はなく問題はない》

《はい、兄さま!》






ルカリオは片膝を着き頭を垂れて波動でミリに報告する。その波動はレッドにも聞こえており、レッドはこのポケモン達はミリの手持ちだと気付き、警戒を解いた






「あぁ、ごめんなさい。どうやら驚かせてしまったみたいね。大丈夫、この子達は私のポケモンです。貴方達には危害は一切入れません」

「…珍しいポケモンだな」

「えぇ。このポケモン達は別地方で生まれ育った子達ですからね」

《ミリ様、そろそろ》

「分かっているよ」






ミリは「お疲れ様、ゆっくり休んでね」と言いながらポケモン達をボールに戻していく。盲目なのに、その動作も何もかも普通の健常者に見える。まるで本当に目が見えているのかと疑いたくなるくらい、ミリは慣れた手つきだった

レッドはその姿を静かに見ていた






「…帰るのか」

「えぇ」






スイクンとセレビィとミュウツーを残して、ミリはレッドの方に振り返る






「レッド、楽しいバトルをありがとう。久々に全力を出したよ。貴方とはいいライバルになれそうね」

「…こちらこそ」

「また会いましょう、レッド。またバトルしてくれると嬉しいです」

「…いつでも来い。いつでも相手をしてやる」

「なら今度お土産持って遊びに行かせてもらいましょうか。…次は、私達が勝つからね」

「…いや、次は俺達だ」






そういって、二人は笑った










こうして二人は出会った




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