「……」






一人の少年がいた

あのシロガネ山の奥深くに、まるで闇に溶け込むかの様に佇んでいる少年は―――異変を感じていた

それは少年の手持ち達も異変を感じ取っており、ボールから出ていた彼等ポケモン達も身構える様に空を見上げる




―――シロガネ山

そこは許された者しか足を踏み入れる事が出来ない超危険区域




少年の名前は、レッド

赤い帽子と赤い瞳を持つ、暗闇の中ぼんやりと赤い瞳が怪しく写る。その超危険区域の奥深くに、まるでずっとそこにいた様に平然と佇んでいるレッドの実力が伺える

彼こそが、この世界のカントー地方最も最強な伝説のポケモントレーナーなのだから






「…何かがくる」

「ピカァ」






実力があればあるほど、異変に気付く。レッドは感じていた。何かがこちらに向かっていると。しかも相当な実力を持つ者が、このシロガネ山に足を踏み入れたと

ゆっくりゆっくり、着々とこちらに向かって来る

数分もすれば、この場所に辿り着くだろう





「…!」





レッドは身震いした

武者震いだ

何故震えが着たか最初は分からなかった。今までこんな震えた事はなかったから

胸の奥から沸き上がる、この戦いたい衝動。自分よりもしかしたら強いだろう相手。きっとポケモンも強ければトレーナーも強いのだろう。ゾクゾクする。虚ろ気味だった赤い瞳がどんどん強い光を取り戻していく

レッドのポケモン達は、レッドを先頭にし、後ろに従える様に一列に並ぶ

まるですぐにでも相手が現れるかの様に。ポケモン達もレッドと同じく、戦いたいと体全体で訴えていた。リザードン、フシギバナ、カメックスはあまりの戦いたい気持ちが強過ぎるのが地響きを起こさせる

レッドはポケモン達の前に立ち、挑戦者を待つ

どの様にして戦うか、相手はどんなポケモンを使うのか、どんな技を繰り出すのか…まだ対峙さえもしていないのに、レッドの頭はそれでいっぱいだった




――――その時だった




カツン、カツンと音が遠くから聞こえてきた。何も無い無音の世界にヒールの音は大きく響き、それがレッドにとってとても心地が良かった

光が見えてきた

フラッシュで辺りを輝かせているのか、遠くにある此所の部屋の入口から光が漏れ出す。それは段々大きくなっていき、この部屋まで光が照らされていく。眩しいのに、それが太陽の光に見えて、温かい気持ちになった




カツン、カツン



カツン―――――






そして、相手が現れた










「……人?」





心地よい声が聞こえた

人の声を聞くのは何時振りだろうか。久々に聞いた人の声はレッドの心を優しく和ませた



声は少女のものだった

ソプラノとアルトの中間だけど、でもソプラノに近い通った声。聞きやすく、優しい声は今までにないレッドの心を溶かす程慈悲に溢れていた




カツン、カツンとまっすぐこちらにやってくる

段々姿が見えてくる

フラッシュに反射して光る闇に溶け込む漆黒の長い髪。纏うのはオレンジ色をしたコートで、ひらひらと靡くその姿はまるで蝶を連想させる

従えるは右はスイクン、左はあのミュウツー。肩にはセレビィ、先頭には見た事が無いフラッシュをするポケモン。後ろはバンギラスに、空中に不気味に浮かぶのは知らないポケモン。それがミロカロスとダークライと気付くのはまだ先の話だ。レッドのポケモン達は現れたポケモン達に何かを感じたのか、真剣な目付きで彼らを睨む

同じく相手のポケモン達もレッドのポケモン達に何かを感じ取ったのか、自分の主を守る為に睨み返す




少女の顔が見えた

――少女の顔は、絶世の美女と称する程美しかった。一番にレッドの興味をそそったのは、彼女の深い深い漆黒の瞳だった。その瞳が盲目である事に気付くのは、少し後になる。フラッシュで反射する瞳は漆黒だけど、何故か七色に輝いて見える彼女の瞳に―――レッドはいつの間にか魅入ってしまっていた






「…強い、ね。貴方」






少女の口が弧を描く

彼女もレッドの強さを感じ取っていた。彼女の声で現実に戻ったレッドは女を見返す






「…バトルか」






自分の口から繋がれた言葉

少女は目を見開いてレッドを見た。少女は感じ取った。レッドから早く戦いたいという闘争感を。ポケモン達も、レッドも、目がギラギラしていた

少女はフッと微笑んだ






「本当はそんなつもりで来た訳じゃないけど、いいでしょう。私も貴方と戦いたいと思っていたの」

「…」

「皆、準備は良い?」






少女が少女のポケモンに聞けば、ポケモン達は早くバトルをしたいと相手を見据えていた

少女はクスリと笑った






「私の名前はミリです。貴方のお名前を聞いても良いですか?」

「…レッドだ」

「そう、貴方は―――レッドというのね」






この少女は不思議だ

何故、名前を呼ばれただけで温かい気持ちになるのだろうか










そしてバトルが繰り広げられた




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