まだ空は暗闇に包まれ、朝日がまだ見えない時間帯

レッドとミリ、そして三匹のポケモン達がいた


家の近くにある川の橋の上で、並んで遥か彼方を見ていた






「寒くはないか?」

「大丈夫よ」






レッドが問い掛けるとミリは先程の笑顔とは違い、綺麗な優しい笑顔を浮かべる

ミリの足元には既に荷造りを終えていたのか手提げバックがあった。レッドの腰には6個のモンスターボールが付けられている

夜風でミリの縛っていない髪は流れる様に靡き、レッドも同じ様に髪が靡く



最初に口を開いたのは、ミリだった






「本当は言わないつもりでいたんだ。知らなくていい事だったから、何も言わなかったの」

「…」

「闇夜は優しいから、それじゃいけないんだと言ってくれたんだと思う。私達の居場所はここじゃない、って…皆には悪い事をしちゃったよ。レッドの側が居心地良くて、別れが辛いのを知っていたのに、私はレッドの優しさに付け込んでしまった」






別れが来るのは分かっていた

それは世界を渡り歩くミリには当たり前で、一番辛い事だと身に染みて分かっていたのに、レッドの隣は居心地良くて、別れが段々辛く感じていた

覚悟が足りなかったから

しかしポケモン達は覚悟をしていた。ミリは己の失態を悔やみ、また彼らに感謝をした。自分達の居場所は此所ではない、違う世界だと






「…レッドのお望み通り、正直に話すね」

「…あぁ」

「…私はこの世界と同じだけど、違う世界…つまり平行世界からやってきたの。この世界と同じだけど、違う世界から」

「同じだけど、違う世界から…」

「そう。そうなったのも、私自身不思議な力を持っているから。その力が何かは、あえて言わないでおくよ」

「…」

「何かの手違いか、私の力が誤作動したみたいでこの世界に来たんだ。足を踏み入れた場所があのシロガネ山で、初めて会ったのはレッド、貴方よ」





ミリはスイクンの身体を撫でながら、微笑む






「元の世界に戻るのも時間が必要でね、力が溜まったらすぐに戻ろうと思っていたの。でもね、此処が、楽しかったの。皆もレッドのポケモン達と楽しそうにしていたし、私もレッドと入れて楽しかったの。帰れる力が元に戻っても、今日まで実行しなかった。実行するなら、レッドが見ない所で帰ろうと思ったんだ」






悲しく微笑むミリを、レッドは抱き締める

今度は壊れるくらいに、キツくキツく抱き締める


ミリも最初は驚いていたが―――腕を回し、同じようにレッドをキツく抱き締め返した






「…ずっと居たかった」

「うん」

「ずっと一緒にいて、一緒に旅をして、一緒に笑い合いたかった。ミリの前なら、笑える気がした」

「うん、うん」

「俺は…ミリが好きだ」

「!レッド…」

「お前が居なくなっても、ずっと想っている。ミリ、大好きだ」






自然とレッドの涙が頬から流れた

意図せずに、心から別れを惜しんで出た涙

抱き締めていた力を緩め、レッドはミリから離れる。これが最後だと自分に言い聞かせながら、苦しい気持ちを無理矢理に終止符を付ける

相変わらずミリとの目線は合わない。しかしミリは自分をしっかり視てくれていることは分かっている。ミリはレッドの涙を拭う。申し訳ないと表情を曇らせながら






「…貴方の気持ちに答えられない私を、許してほしい」

「分かっている。これは…俺のわがままでしかない。俺の気持ち一つで、お前の足枷にするつもりはない」

「レッド…」

「…いつかまた、お前に会える日が来るのを待っている」






一体その日が本当に来てくれるかどうかは、分からない

叶わない初恋、叶わない想い

ミリはレッドの気持ちに答えられない代わりに、最後は綺麗な微笑を浮かばせて、ミリは笑うのだ。レッドの手を包み込み、キュッと握りしめて、ミリは笑う。本当の、屈託ない綺麗な笑顔で




それが、レッドにとって最初で最後の笑顔だった




ミリが指を鳴らせば、彼女の後ろに不思議な空間が現れた

その空間は別の場所が写されていた

きっと、あれがミリの世界なんだろう








「レッド、ありがとう」

「ミリ、ありがとう」






繋がれた手、離れる手


そうして少年少女は、互いに違う道に進むのだった















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