グリーンの家で相当な時間を費やしてしまったのか、既に夜になっていた。レッドとミリ、まだ遊び足りないグリーンは隣りにあるレッドの家に上がれば、レッドの母親の満面な笑みが待っていた。「まあまあおかえりレッド!一体何処をほっつき歩いていたのよ!…あら?あなた身長伸びた?三年経っても無表情は変わらないのね!」レッドを抱き締め頭をグリグリと撫でる母親。レッドのなんとも言えない顔なんてお構いなしだ。ミリとグリーンに気付くと「グリーン君、ミリさん。いらっしゃい!家の子が迷惑かけてないかしら?さあさあ上がって頂戴!今丁度夕飯が出来上がった所なの。是非食べていって頂戴ね!」と、三人をリビングに上がらせ、一緒に夕飯を食べる事に。三人で楽しんだ時とはまた違って、和気藹々と楽しく食事の時間を過ごした。母親の御好意によってミリとグリーンはそのまま泊まっていく話になり、「この際川の字で寝よう!」とレッドの部屋で三人は横に並んで一緒に寝る事になった 最初に言っておくが、事のきっかけを言ったのはミリで、勿論二人は断った(といっても内心はOK)がミリの推しによって本当に川の字で寝る事になった 右はレッド、真ん中はミリで左はグリーン スイクンとセレビィとミュウツーは廊下や部屋の隅で就寝する事に 「(俺、今なら死ねる…!ぜってーワタルに会ったら自慢してやる!)」 「(今日は面白かったなぁー、レッドのお母さんの料理は美味しかったし、グリーンにも会えたしこうして一緒に寝る事が出来たし。うーん、幸せ幸せ)」 「(色々あったな…今日は特に)」 三人はそれぞれの思いを胸に終寝をするのであった 《………》 ミリは気付かない ミリの枕元の近くに置いてある8個の内の一個が、小さく揺れている事を * * * * * * 暗い闇の中に、レッドはいた 「…?」 さっきまで俺は自分の部屋で三人並んで寝ていたはずだ。二人に「おやすみ」と久々に言った後、久々の自分の布団で寝たはずなのに、ここは一体何処なんだ 「…グリーン」 グリーンが、いない 「…ミリ」 ミリも、いない 「…!」 レッドの目線の先に、闇に紛れて何かが存在していた。不気味な金色の瞳を揺らめかせ、ただ静かにこちらを見ているだけ その瞳が怖いと思った その存在が恐いと感じた 「お前は…誰だ」 《私は…悪夢を見せる者》 頭に響く、テノールの声 まさか返事が帰って来た事に驚くレッド。同時に、この声は何処かで聞いた事がある気がした そう、結構最近に 「此所は、何処だ」 《お前の夢だ》 「何で俺に悪夢を見せる」 《私は人に悪夢は見せたくない主義だ。主人の手持ちになってその力は主人の力で打ち消しあって私は他人に悪夢を見せなくなった》 「なら何で今、此所で俺に悪夢を見せるんだ」 《私の意思によって参上した》 言うや否や、不気味な金色の瞳は暗闇に吸い込まれレッドの前から存在を消した そして現れたのは、先程まで一緒にいた、ミリの姿だった 「ミリ…?」 レッドがミリの名前を言えば、ミリは答える様に綺麗に微笑む レッドはミリの顔が見れて安心した。その笑顔が救いになった。ミリの笑顔は暗闇にも明るくて、レッドはその笑顔が好きだった 「ミリ」 ミリに向かって手を伸ばす ミリも同じ様にレッドに向かって手を伸ばす 後数センチの所で、レッドとミリの手は届く その時だった ミリはどんどん、闇に溶け込んでいっているではないか 「…ミリ!?」 レッドは追いかける ミリは闇に飲まれながら、遠くに消えていく 「ミリ!…行くな!!」 追いかけても追いかけても ミリに、届かない ――――届けない 「消えるな!行くな!ミリ!!」 「…レッド、さようなら」 暗闇の中、溶け込む中 笑顔だったミリは、悲しみに満ちた微笑で、レッドを見ていた 『それが私がお前に見せる最初で最後の悪夢であり、私が今一番に伝えたい事…』 「ミリッ!」 『私達はもう、此処には居られない』 「ッ…お前は一体!」 『私の名前は闇夜。またの名をダークライ…お前に唯一真実を教える、予言者だ』 ダークライは、夜也は レッドの目の前で、悲しみに満ちた微笑を浮かべるミリと共に 暗闇の中に、消えていった 「――――ミリ!!!」 「…ッド!レッド!」 「…!!」 目が覚めれば、目の前には自分の家の天井に、心配そうに顔を覗き込むセレビィと隣にはミリの姿がレッドの目に写った 「レッド…大丈夫?汗びっしょりだよ」 「俺は…」 「うなされていたよ」 ゆっくりと起き上がろうとすると、ミリがそれを支える レッドは自分が汗予想以上にびっしょりな事に驚いていた。ミリがタオルでレッドの顔や首を吹いていく姿を、レッドは他人事の様に茫然と見ていた。視線をずらせば、グリーンは気持ち良さそうに寝ていた。ちょっと殺意が沸いた 「今は…」 「夜中の二時。…うん、熱はないね。いきなり唸り出したからびっくりしたよ。…どうしたの?」 「…」 相変わらず視線が合わない。心配そうに顔を覗き込むミリの顔が直視出来なくて、レッドは俯く その時レッドの視界にミリの8個のモンスターボールが目に入った。8個のモンスターボール内一個が、金色の眼でこちらを見ていた こいつが、さっきの奴か 「…夢を、見た」 「夢…?」 「ダークライ…お前が手持ちにしている闇夜のポケモンが、俺に夢を見せてきた」 「…闇夜?」 キョトンとするミリだったが――――ハッとした顔でミリの視線はレッドからダークライが入っているボールに移される ボールは答える様に、カタカタと揺れていた 「…まさか闇夜が望んで…?」 ミリは顔を青くする ダークライの特性はナイトメア。寝ている人間やポケモンに悪夢を見せる能力で、ダークライは自分の特性を呪い、しんげつじまへ姿を消した。だが、ミリの力によってダークライのナイトメアは打ち消しあい無効化になり、普段の生活で悪夢を見せなくなった。ミリの脳裏でダークライは嬉しそうに感謝する姿が浮かんでいた 「闇夜…貴方は人を悪夢で苦しむのを一番に嫌がっていたのに…どうして…」 「…そいつは俺に言った。『お前に唯一真実を教える、予言者だ』ってな」 「真実…予言者?…まさか、」 その言葉の意味に気付いたのか、ミリの顔はまたさらに青くなる 視線をそらし、わなわなと震えるミリを、 ―――――レッドは抱き締めた 「…レッド…!?」 驚くミリの身体は、ちゃんと食べているのかと疑いたくなるくらい、 強く抱き締めたら折れるんじゃないかと不安になったほど、細かった 「ミリ…夜也が言った真実は何だ?あの夢は…何を予言しているんだ」 「…!!」 「ミリ…お前は俺に何を隠しているんだ」 トサッ、とミリの持つタオルが手から落ちるその音は嫌に大きく響いた 「ミリ、お前は一体何者なんだ」 初めて出会ったあの日と同じ質問を繰り返せば、ミリは悲しく微笑み返すだけだった |