「今日の昼ご飯はサンドイッチ!一緒に食べよ〜。お空の上でのピクニックなんて、結構スリリングじゃない?あ、私目が見えないけど」

「…だからってバスケットの中で食べるのは…」

「平気平気。このままのんびりいきましょ〜。刹那ちゃーん、このまま念力でよろしく〜。蒼華は私達を見失ないようにね〜後でご褒美あげるからね〜。時杜は私と一緒に食べよう!」

「…もうどうにでもなれ…」






* * * * * *






マサラタウンに着いたのは夕方に差し掛かる前だった。真っ白い町にはオレンジ色の光が差す中で、ミリとレッドはマサラの地を踏んだ。ミリは昨日振り、レッドは約二年振りでやっとマサラに帰って来た。久々に帰って来たマサラタウンは、相変わらず何も変わっていなかった





「相変わらず、マサラタウンは変わっていないよね」






自分達を運んできたミュウツー、地上で走って後を追って来たスイクンにお礼を言ってご褒美のサンドイッチを与えたミリは、レッドの横に並んで口を開く

目が見えていないのにも関わらず、ミリは懐かしそうに言う。一体彼女の、盲目の眼はどのように世界を映しているのだろうか。勿論レッドにはその答えを知ることは叶わない

少なくともミリの台詞にレッドは妙な疑問を覚えた。今の台詞は、まるでずっと前から此処に住んでいた様に捉えられるからだ





「…昨日マサラに来たんだ、変わらないのは当たり前だろ」

「まあね。一日で変わったら逆にびっくりだけどさ」

「…一度来た事あるのか?」

「一度っていうか、私の故郷は此処なんだ」

「!」






此所がミリの故郷だとしって驚くレッド。今までミリは遠くの地方から来たと言っても故郷の事は言わなかった。そもそもあまり深入りしないレッドだった為、ミリには色々聞かず、そのミリも必要な限れレッドに自分の事は話さなかった。つまり知らなくて当たり前なのだ





「といっても結構昔の話だけどね」

「…昔っていつ頃だ?」

「…うーん、覚えていない」






昔にいたなら、名前くらい知っていたはずだ。だがレッドの知る限り「ミリ」という人物はいなく、名前も聞いた事がない

対してミリの方は、嘘は言っていない。ミリは異世界からやってきたトリッパーだが、偽造に近い設定でマサラタウン出身となっている。いつの日かトレーナーカードを発行の際に紡いだ出身地の名前が、マサラタウン―――何故、この名前なのかは今でも真相は分からず仕舞い。この世界に訪れて、やっと足を踏み入れる事となったマサラタウン…口を付いて出ただけあって、懐かしさが込み上げていたのは事実だ。しかし、記憶のないミリはこの気持ちを押し殺す。そもそもミリにはここでの居場所などなければ、戸籍すらも存在しない

幸いなのは、レッドは何も知らない

知らなくていいのだ






「なにものにも囚われない真っ白い町、それがマサラタウン―――覚えていなくても、知らなくても、この町はとても素敵な町。自身を持ってそう言える綺麗なところだよ」





ここはあくまでも別世界。この町が自分達の戻るべき世界のマサラタウンかと言われたら、答えはノー。

しかし、きっと、元の世界のマサラタウンも、こうして静かで綺麗な町なのだろう。それだけは、不思議と確信していた






「…この町は変わらない」

「うん」

「変わらない町に何時もの様に帰ってきた。けど…」

「けど?」





町を見渡し、無表情で言葉を淡々と言っていくレッドは、言葉を切って、ミリを見る






「何でかな、今回は妙に新鮮な気持ちだ」

「新鮮…?」

「新鮮、より…心が温かいと感じる。ただ町に帰ってきただけなのに。お前が、ミリが、いてくれるから、温かい」

「…!」






ミリは視た

心夢眼から視える、三つの世界から


夕陽の光が差し光り

赤い帽子の下で

レッドの口元には

小さかったけど、確かな笑みが――






「(綺麗に笑うんだ…)」







不覚にも魅入ってしまったミリ

よくよく考えると彼の無表情から笑顔を見れるのは何時ぶりだろうか。出会ってから日数はまだまだ短いが、無表情が変わる事は滅多に無かった。むしろ笑っていなかった方が大半だ

これこそまさに不意打ちだ






「…同じ景色を一人で見るより、二人で見る景色もまた違って見えるってよく言われる。確かに私も一人で見た景色より皆と…レッドと一緒に見た景色も、また素敵と思うんだ。あ、私目が見えないけど」

「…ミリ」

「あの山からレッドを引きずり出しちゃって、酷い事をしちゃったけど、レッドがそう思ってくれて…嬉しい。ありがとう」

「いや、こっちこそ…ありがとう」





ミリがニコりと微笑めば、レッドは帽子を深く被り直して視線を逸らす

ミリはクスクス笑いながら、空を見上げた




夕焼けに染まったオレンジの空


二人は空を見上げる



二人の影が段々、重なっていく――










その時だった









「…ん?あんな所に見た事ないポケモンと人影が…………ってえええええ!?レレレレレレッドォオオオオッ!?」

「!?え、誰?」

「グリーンか」

「おま、今まで何処に行ってたんだ馬鹿野郎!心配かけやがって!しかも女連れて……ってのわああああああ!!?そそそそ、そこにいる人って…えええええええ!!!??」



「落ち着け馬鹿野郎」

「(…あぁ、グリーンだ)」









帰って来たよ




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -