悠久の時の中

止まってしまった時の中


周りの時間は永遠に流れる

自分の時間は止まったまま















「―――……久し振り、だね」





雲一つも無い清々しい蒼空と深い深い綺麗な青色をする海原が一面に見渡せる、何処かの丘の上

丘の上のそこにあるのは、手入れがされていないのかボロボロの墓があった。墓が大きい処を見ると、この墓に眠る人間はそれ相応な地位いた者だったんだろう

その墓の前に、一人の女が立っていた






「貴方と別れて、気付けば数年………でも此処の世界は、気付けばもう百年も経っていたんだね。ずっと貴方を捜しても見つからないのも無理は無いわ」





唄う様に言葉を紡ぎながら、女は緩やかな動作で手に持っていた花を墓に添える。墓石に置かれた白い花が海風に静かにたゆたう

海風は花を靡かせ、女の髪も靡かせた。さらさらと靡く女の髪は艶やかに、女が纏う衣装も幻想的に。そして…―――女の背中から生える一対の翼も、風に靡いて綺麗に光を淡く煌めかせた






「…ずっと私の帰りを待つ、と貴方は言ってくれた。今でもあの言葉は思い出せる……嬉しかったよ。本当に、嬉しかった。だから私は今まで頑張ってきた。どんなに辛い事があっても、貴方の元に帰れる日を、ずっと…」






まるで宝石の様に輝く黒曜石の瞳は過去を巡り、その懐かしさに自然と笑みが浮かぶが―――…しかし、その表情は憂いを帯びたものだった

細く白いしなやかな指が墓石に触れる








「―――……でも、ごめんね」







約束を守れなかった事を、再会が叶わなかった事を。女は囁きを落とす。ごめんねと、また小さく

女は何度も墓石を指でなぞった。優しく、そして、悲しそうに。女の瞳の先には、一体どんな景色が写し出されているのだろうか―――…






フワリと海風が女を、墓石を、白い花を包み込む。風は樹々を靡かせ、女の漆黒の長い髪を靡かせる。風はまるで女の再来を、再会を祝福するかの様に、優しく女を包み込んだ

女の口元に、小さな笑みが浮かんだ






「―――…今度は、私が待つ番だね」







クスリと小さく笑う声が何処か心地好く響き渡る

女は愛しそうに、もう一度墓石を優しく撫でる

優しい声色で、優しい眼差しを向けながら、女は楽しそうに笑う







「大丈夫、時の流れなんて息を吸うくらい一瞬なんだから。だから、だから…―――生まれ変わって、私の事を忘れても、また、あの言葉を待っているから」













私は待っているから、貴方との再会を

百年越しの、再会を

またあの頃の様に、笑いましょう









「また、会いましょう」









再度の約束を、誓いながら

愛しく囁きを一つ落して


そして女は純白の羽を、淡い光の名残を残しながら――――溶け込む様に姿を消したのだった










願わくば、次は平和な来世で会いましょう



‐‐‐‐‐‐‐‐‐**

各世界ごと同じ時間が流れているわけじゃない。ちょっとした時差がじつはかなりの年数にまで差が開いてしまうので再会の約束はほぼ達成できてないのが現実


20120610
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