私は誕生日を迎えた記憶が無い。それこそ昔いただろう私の【家族】となんて過ごした事もなければ、他人に誕生日を祝ってもらった記憶すらない。そう、記憶は。実際に祝ってもらった事があったにしろ、忘却された記憶に求めても何も見つける事が出来ない。ただの無駄な足掻きでしかならないのだ

忘却された記憶。それが【万人】になる前の私の記憶だとしても、だ。【万人】になった私が迎えた誕生日は呆気なく、そして虚しい思い出ばかりだった。むしろ思い出すらならない過去の出来事に、ただただ失望するばかり。そもそも誕生日なんて、行く先々の世界の流れがまばらな為、列記とした誕生日なんて来る訳がない。それも月日の数え方がそれぞれ特殊なので数える事すら面倒くて嫌になる

不老であり、その身に宿す聖性が或る限り不死身でもあるこの身体。様々な世界を歩み、時に身を任せたこの身体。もう私は、一々誕生日を迎えて自分の歳を数えていく行為を投げ出した。なのでもう、私には誕生日なんて存在はしない





そして付け加えて言わせてもらうが、残念ながら私は誕生日をあまり好んではいない




私だけじゃない。私より前の代だった【万人】達も、誕生日をあまり好きではない。嫌いではないが、好きじゃない。他人を祝う事に関しては嬉しい事なので誕生日は好きだが、実際に自分の事になるとあまりいい気はしない。そんな、妙な矛盾

しょうがないのだ。【私達】は、生まれた事を疎まれ、否定され、拒絶された忌々しい過去が存在するのだから

前世の【私達】は皆、聖性を持ってその身を宿し、生まれ落ちた。ただの人間として生まれたかったのに、宿命は私達を悲しい現実に突き落とした。人間との共存を拒み、ただその身を宿命の為に捧げる。それが【私達】の、生きる存在理由

ヒトとは違った【私達】。ヒトの形は同じでも、ヒトには持っていない力を持つ【私達】勿論、人間達は【私達】を畏れた。【私達】の存在を否定した。【私達】を拒絶した。最愛だった両親も、【私達】を恐がり、否定して、そして必ず同じ台詞を口にするのだ





"お前なんて、生まれてこなければ良かったのに"―――と





腹を割って痛みに耐えて生まれ落とした愛しい愛しい我が子。そんな子が、世界を恐怖させる存在になったものなら親の絶望は計り知れないものだろう

そして必ず【私達】は命を狙われるのだ。世界の危惧だと喚く人間達や、この力を利用せんと捕獲しようとする人間達に。【私達】が異世界の安寧を保っているとは知らずに。これはもう、私にはトラウマでしかない










――――誕生日、それは生まれた日を祝う記念日

プレゼントをもらったり、誕生日ケーキを食べたり、ケーキの上に年齢分のろうそくを立てて吹き消したり

実は、この日まで生きてきてきたという事について、生み育ててくれた親や回りの人に感謝を表す日でもある、記念すべき誕生日――――







嗚呼、私は誕生日なんてあまり好きではない

存在自体を認めてもらっていない以上、【私達】が、私が誕生日を祝ってもらう資格なんて存在しない

元より、何も求めていないけど。プレゼントも、ケーキも、皆の笑顔も、求めていない。否、求めちゃいけないんだ





七月二十九日。それが私の誕生日

本当の誕生日なのかは、分からない。ただ妙に親しみがあったから、この日付を口にしているだけ。本当かどうかなんて、今更考えても無駄









そしてまた、私は一つ歳を取る






もうじきやってくる、私の誕生日

嗚呼、鬱だ。嗚呼、最悪だ

思い返されるのは前世の記憶

嗚呼、嫌だ。嗚呼、恐い

否定され、拒絶され、認めてもらえなかった【私達】。大好きな両親に見放された【私達】。嗚呼、嗚呼、なんで、【私達】は生まれてきたんだろう。なんで、私は人間として生まれてこなかったんだろう。なんで、私には過去の記憶がないんだ






早く、早く誕生日なんて過ぎてしまえ

早く、早く別の日になってしまえ









私は、【私達】は


誕生日を迎える資格なんて、存在しないのだから






夢を見るように忘れさせてほしい、その夢を忘れる程に深海に眠って






―――――――――――:*

人に祝う誕生日は好きだけど自分自身の誕生日が嫌いな、でも誰かに祝ってもらいたい、そんな矛盾の嫌悪を持つ主人公



20110729
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