近くまで来たので顔を出そう

数少ない、"此処"の友達に















Jewel.45













彼との出会いは、私の些細な探求心から始まった

それはまだ、私達がこのホウエンに訪れたばかりの当初の頃。ジョーイさんの衝撃的な言葉から始まった、ホウエンジム完全制覇(別名チート戦法)でバタバタしながらムロタウンに足を運んだあの時。"青い海に浮かぶ小さな島"と呼ばれるムロタウンに足を運び、ムロジムのジムリーダーとのバトルに勝利を納め、次はキンセツシティにでも進もうか―――…と、足を踏み出した私達の目の前にあったのが、ムロタウンの隣りに鎮座する、「石の洞窟」。時間もまだある事だし、休憩も兼ねて探険でもしよう!と、意気揚々に真っ暗な洞窟の中に進んで入って行き、最深部に着いて休んでいればぞろぞろと野生のポケモン達が集まり始めて、いつぞやの鋼鉄島宜しくピクニック状態を楽しんでいた時だった

私達の気配を嗅ぎ付け現れた、その綺麗なコバルトブルーの瞳の中には堅い意志を持つ一人の青年

洞窟の中なのにもかかわらずビシッとスーツを着こなし、爽やかな印象を最後まで変える事が無かった彼こそが、この地方で初めて出会った私の数少ない友人――――…







「やあミリ、いらっしゃい。よく来てくれたね」

「こんにちはダイゴ!急に来ちゃってごめんね。お仕事の方は大丈夫?」

「全然!君だったらむしろ大歓迎さ!そっちこそ仕事の途中なのに大丈夫かい?」

「次の会議に間に合えばいいから、その間休憩も兼ねてダイゴに顔を出してきたんだ〜。だから大丈夫!」

「そうか、それは良かったよ。さあ早く中に入ってくれ。君がこっちにいるって聞いたものなら街の皆が驚いてしまう」

「はーい」

「…」
「キュー!」
「……」
「ラティ〜!」






遠征からリーグに戻るついでに此処、トクサネシティにあるとある人の自宅に足を運ばせた私達。手持ちの一匹であるラティアスの背に乗り、玄関ではなく家主の自室がある二階の窓を軽く叩けば、すぐに開けられる窓

灰色の髪を短く揺らし、そのコバルトブルーの瞳はまっすぐで、相変わらず爽やかな印象を崩さない笑顔で私達を出迎えてくれたこの人こそが、このホウエン地方で初めて出来た心許せる友人

彼の名前は、ダイゴ

自称ストーンゲッターでもある彼の本当の姿は、カナズミシティにあるあの有名なデボンコーポレーションの御曹司






「今日は何処まで行っていたんだい?」

「ミナモシティ。ミナモシティで公開試合をしてきたんだ。最近デスクワークばっかだったから、バトルで爽快してきちゃった」

「そうだったのか、お疲れ様。やっぱりチャンピオンは大変だね。時間が許す限り、此処でゆっくり休んでいってくれ」

「ありがとう、ダイゴ。邪魔にならないように休ませてもらうね」

「ラティ、ティー」

「うん。此処までありがとね、ゆっくりボールの中で休んで頂戴」

「ティラ!」







彼と出会い、バトルをして―――彼と友達になってから、暇な時にこうしてちょくちょく顔を出している。彼みたいな人はこうして自ら顔を出さないと会えない人間で、機会が無いと中々出会えない人なので(こちらの職業を考えれば尚更で)、なるべく自分から足を運んであげるようにしている。約束も関係無しに私をこうもさせるのは、やっぱりダイゴという人柄が良くて、こうしてわざわざ足を運ばせれば嬉しそうに笑顔になってくれる彼の表情を見るのが、とても好きだった。だから、仕事一本で働く私の唯一の楽しみがダイゴの元へ遊びに行く事になるのは必然な流れになっていき

彼はとても優しい人だ。優しくて、とても強い人。勿論バトルは強く、珍しく熱くなれた数少ないトレーナーでもあるけれど、彼の鋼に近い強い意志は―――友人でもあるゲンに近いモノを感じる程で

本来なら常識として玄関から入る所を遠慮無しに窓から入いろうとする私達を、嫌な顔をせずに窓を開けて出迎えてくれる辺り彼の心の広さを伺えるよね(まて






「ダイゴの方は?お仕事の方は順調?」

「ぼちぼち、だね。でもミリを見たら俄然やる気が出たよ」

「フフッ、それは嬉しい事だね。お仕事の方は確か…ポケモンナビゲーター、だっけ?こっちで耳にしたよ、新しい新商品の開発っての。もうじき完成するんだって?」

「流石、情報が早いね。といってもまだまだ試作段階なんだけどね。もう後数年もしたら発売されているはずさ。その時は真っ先に君にプレゼントするよ。君の代名詞ともいえる、オレンジ色をした商品をね」

「やった!ありがとうダイゴ!ダイゴ達が手掛けたポケモンナビゲーター…うん、楽しみ!」








彼はストーンゲッターでもあれば、デボンコーポレーションの御曹司。彼こそあの有名なキャラクターだという事は知っていたけど、想像通り彼はとても忙しい人なのだ。本来なら軽い気持ちで遊びに行ってもいい人なんかじゃないんだけど(本当にな!

カナズミシティにあるデボンコーポレーション。記憶が曖昧な事から、どんな会社だったかはあまり認知していなかったけど、聞くとデボンコーポレーションはこのホウエン地方ではかなり名の知れた企業で、この企業無くしてはいられないくらい大きな会社らしい。工場製品や日用品、ポケモンの薬やトレーナー用品様々に活躍している。勿論、リーグでもデボンコーポレーションに随分お世話になっていて、カナズミシティ直送で備品を受注したりしている。元々は鉱山から石を切り出したり砂鉄から鉄材を作る為に設立されただかなんだかと。いつもお世話になってます。最近なんて朱翔がはっちゃけ過ぎて物を壊しちゃった時もお世話になりましたはい←

今のツワブキ社長の活躍があって今の会社があって、次の世代に担う為にダイゴという存在が必要不可欠。まだ歳が二十歳で若くても、跡取り息子のプレッシャーは大きい。その事が彼の自由を奪い、束縛してしまっているのはしょうがないの一言で片付けられてしまうのは…――どうだろうか

まだ彼は自由であるべきだと思うのは、いけない事だろうか

石を前にするダイゴの目の輝きのハンパなさや(いやもうあれにはギャップを感じさせるよね)、バトルをする時の真剣で楽しそうに心を踊らす彼の姿。彼には才能がある。こういった仕事の才能も親譲りで備わっていれば、バトルの才能だってある。むしろ彼は秀才で完璧な人間と言ってもいいくらい立派な人だ。彼もまた、シロナみたいに化けるに違いない。こんな素敵な逸材を、潰すだなんて、なんて勿体ないか!

彼には眼がある、眼が見えている。その綺麗なコバルトブルーの瞳を、もっと色んな世界を写すべきだ。たとえ本当の自由を得る事が出来なくても、彼にも少しは娯楽を楽しまないと人生を大半損をしてしまうからね






「(ま、そのツワブキ社長もまだダイゴに社長を譲るつもりがないから良かったけどね)」







仕事の都合、本社で初めて対面したダイゴと同じ瞳の光を持つ彼の父親でもあり社長でもある存在をぼんやり浮かばせながら、頂いた紅茶を一口含める

――――…まだまだアイツに任せるわけにはいかないさ、そう言って小さく笑った彼は、はたしてどちらの顔をして言った言葉だったのだろうか


たとえ自由が確保出来たとしても、仕事は仕事。そこはしっかりしているから、ダイゴは真面目に仕事に取り組む。そう、たとえ親に許しを貰って束の間の自由を得たとしても―――――…



ま、それはこの親子の問題だから干渉するのは此処までにして








「ダイゴ、」

「ん?なんだい?」






ただ声を掛けただけでも、仕事の手を止めてこちらに振り返り、わざわざ私の隣までやってきてくれて、しっかりと耳を傾けようとしてくれる

握ってくれた手が温かい。彼から感じた感情も、とても温かくて、

嗚呼、本当に彼は優しい人








「お仕事がお互い片付いて、落ち着いたらまた一緒にバトルしようね」










彼の事も、見守っていきたい

シロナを最後まで見届けてきた様に


優しい光を持つ、彼の事を







(彼は一体どんな光になってくれるんだろうね)


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