「よーし、このまま全てを吐け」

「…あー、もしもしレンさん。その素晴らしい笑顔で吐け!はいいけど私は逆に羞恥心で色々吐きそうなんですけど。せめて私を離して頂ければ嬉しいなー、て」

「ははっ、正直に話さないとその口マジで塞ぐぞ」(真顔

「Σギャー!」



「見てて飽きないだろ?」

「あはは、そうだね」





慣れた様に面白く眺めているミナキに、初めての光景に呑気に笑うマツバ。二人の側ではスリーパーとゲンガーが仲良く指をさして笑っていた(←)。その近くでは蒼華とスイクンが「「またやっている」」と言っている目で完璧に傍観していた(ちなみにアレから数十分が軽く経過していた

レンの腕から必死に逃れようとするミリに、めっさ笑顔でノリノリなレン。傍から見れば異様な光景だ





「ならこのまま質問しちゃおっか」

「…必要以上には答えませんよ」

「分かっているさ。レン、逃げない様にしっかりね」

「任せろ」

「Σ鬼!レンの馬鹿!普通に答えさせてよこの破廉恥!レンの破廉恥!」

「…やっぱマジで塞ぐ」

「近い近い近い!!!」






さっきのシリアス的ムードが台無しだ





「あはは、イチャイチャするのはそこまでにして…ミリちゃんは結局視えていたの?あの不気味なものは」

「…マツバさんが言うアレは、確かに人を不幸にさせるものなのは間違いありません」

「やはりミリ姫は…」

「はい、視えます」





レンの腕からやっと逃れたミリは、しっかりとマツバの目を見て答えた

…しかし後ろにいるレンに警戒しながら後退していく姿はなんて緊張感に欠けるんだ←





「アレは人の悲しみ、怒り、憎しみといったモノが一ヵ所に集中的に集まり増幅したモノ。それはもちろん人の目なんか見えませんよ。人は気付かない内に己に宿しています。そういったものが集まると、そこはどんよりと空気が重くなって活気はおろかやる気すら浮かんできません。人によっては、背中に黒い影を背負っている姿が見えるそうですが、大体あーゆうのがあるとその人は良い人生歩めませんね。私はそれを負のオーラと代用して言っています」






まさかミリの口からそんな事を告げるとは思わなかったのか、レンやミナキやおろか、マツバまでもが愕然と話を聞いていた





「…そんなモノが、此所にあったって言うのかよ」

「だから言ったでしょ?知らない方が良いって」

「だからシオンタウンに来ると何処か気分が優れなかったのか…」

「人によってはミナキさんみたいに気分が優れなかったりするそうです。でも普通は感じません。視える人以外は。…きっとミナキさんはスイクンを探していて、自然と負のオーラが強い場所に居たから敏感になってしまったのでしょう」

「な、なるほど…確かに色々足を踏み入れた事はあるが…」

「マツバさん、貴方も大変だったでしょう。私はともかくマツバさんや視える人にとってはアレは毒ですから」

「ははっ。お見通しってわけか」

「(…まさか私以外に視える人がいるなんて、ね)」

「なら、君自身の力は?」

「…力については、ノーコメント」

「そう…。なら、どうやってアレを無くせたの?」

「レンから話を聞いていると思います。フルートを使いました。あのフルートは特殊な物で、これも詳しくは言えません。"浄化"、としてアレを無くす事は出来ます。…しかし、いくら浄化したとはいえ人間がいる限りアレは止まる事を知りません。私のやった事は一時的でしかありませんですから」

「なら、それは他の人にも出来るのか?マツバならその道にいるから多分いけると思うが」

「…それは、多分無理でしょう。見た所、マツバさんは眼が最も優れていますが…私みたいな、力は無い。気を悪くしたのなら、ごめんなさい」

「いや、いいんだ。事実だからね。…なら、最後に一つだけ




君は、何者なんだ?」

「…私はミリ、聖燐の舞姫。…今は、そうとしか言えませんよ…」

「……」










* * * * * *









「…見事に赤いな」

「あらら、本当だ」




長い散歩からやっと帰って来れた二人は、センターのロビーに腰を掛けていた

今此所にいない他の二人は既に部屋に戻っていた。先程連絡があり、どうやら色々仕事をしなくてはならないそうで、先に眠るそうだ。ミリとレン以外には誰もいない。蒼華とスイクンは一度自室に置いてあるから此所にはいない




「貼るぞ」

「…冷たっ」




ミリの頬は時間が経っていても赤みは引く事はなかった。一旦部屋に戻って、レンは冷えピタを取りに行って丁度部屋から出ていたミリを取っ捕まえて(←)今に至る

ミリの頬には、見事に冷えピタがあった。鏡を見てミリは笑った





「あはは、おかしいってこれ。別に良かったのに」

「阿呆か。女が頬そんなに赤くさせたら妙な誤解を招くだろーが」

「あだっ!」






ミリの額にデコピン一発

こっちの方が赤くなりそうだ






「いった〜…痛いぞ。地味に痛い」

「体調の方は大丈夫なのか?」

「えぇ、おかげさまでね」

「…体調が優れなかったのは、アレのせいだったのか」

「……シオンタウンはやっぱりお墓が沢山あるだけあって、負のオーラは強いから。…まさかマツバさんが視えるなんて、想像つかなかったなぁ」






やっぱりミナキがいう「その道」にいるからなのだろうか。だからって、そう簡単には負のオーラなんて視えないのに

ミリはマツバに同情はしていないが、可哀想に感じた。視えない方が、幸せだったはずなのに






「ねぇ、レン。変な事を聞くけどさ」

「あぁ」

「…何であの時私を抱き締めたの?」

「………お前があんな台詞を吐くのが、気に食わなかっただけだ」

「…だったら…頬を叩くだけでも私は止まっていたよ。びっくりしたし、痛かったけど。痛かったけど。…それにタダでさえ、今日のレンはおかしいって」

「…そうだな」







そう、おかしいのだ


自分でも、自覚している





お前があの台詞を言った時


お前が急に遠くに感じた


俺の腕はお前をしっかり抱きかかえていたのにも関わらず、消えるんじゃないかと思った









「一言で言えば…恐怖を感じたな。すぐにでも喋っている口を黙らせなくちゃ、お前がお前で無くなりそうで…ははっ、こんなこと別に話さなくてもいい事なのにな」









確かに恐怖を感じた

視線はこちらに向いていなくとも、ゾッとする様な、不思議な感覚


笑っていても笑っていないだろう笑みにゾッとして、その口から出て来る言葉にもゾッとして



存在自体が今にも消えそうに感じてゾッとした瞬間、勝手に体が動き、手が出て、そのか弱い体を力強く抱きしめていた―――












「私は、消えないよ」






ギュッと、ミリの両手がレンの手を包み込んだ。ミリの手はかなり冷たくて、どうしてこんなに冷たいのか不思議でしょうがなかった

ハッとしてミリを見れば、ミリはいつもと同じ笑顔で、レンに向かって笑っていた






「私の手、ちゃんとあるでしょ?私の手はちゃんとレンの手を包んでいるよね?」

「…あぁ」

「今レンの目の前には私はいる。私の目の前にも、レンがいる」

「…あぁ」

「不安になる心配なんてないんだよ」








自分に笑いかける、ミリ

レンは分からなかった


どうして、自分はこんなにも…ミリが消えてしまうの恐れているのかと――












「………ミリ」

「ん?」

「俺は…お前が何者かなんて、関係ない。お前の名前はミリで周りからは聖燐の舞姫と言われている、美人で綺麗で博識でからかいのある奴でノリが良くいつも笑っている、俺が知っているミリただ一人だ」

「いや、それは買いかぶり過ぎかと」

「俺にとって事実だ」






恥ずかしそうに視線をそらすミリにレンは笑った

自分の手を包んでいるミリの手を、重ねる様にレンの手が被さり、視線を反らしていたミリはレンに視線を戻す







「…頼む、少しの間だけでいいんだ



 ……そばにいてくれ」


「…もちろん」







腕を伸ばせば、ミリの体


引き寄せたミリの体は軟らかくて、寄りかかってきたミリの体は温かかった








(握り返してきた手は)(優しくて、冷たかった)



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