真っ暗な空はシオンタウンを包み込み、数多の光り輝く星達がシオンタウンを照らす。唯一光があるのは虫ポケモン達が放つ蛍火に、家から漏れる電球の光だったり。風の音、ポケモン達の鳴き声の他には何も聞こえない

ミリ、レン、マツバの三人はセンターのロビーにいるミナキと再会した後、この静かなシオンタウンをゆっくりと散歩をしていた。周りの景色を見ながら、最近の出来事や面白かった事など楽しそうに話す姿は空いた時間を埋めるかの様だった。ミリもまた、すんなりと三人の中に加わって仲良く談笑しあっていた。まるで、ずっと前から知り合っていた様に、抵抗や違和感でさえ感じさせなかった。ミリの隣りでは優雅に蒼華が歩けば、蒼華から放つ淡い光がまた幻想的だった。それは、ミリと同じ様にレンがスイクンを出せばスイクンも然り





「まさかこうしてスイクンと夜の散歩が出来るとは思わなかったぜ。…レンに言うのもなんか癪だが、二人共、礼を言う」

「どう致しまして、ミナキさん」

「癪って何だ癪って。お前が俺見るたびにカッカしなければ、こうしてスイクンを出せてやれるのに」

「いや、それとこれとは違う。お前とはいずれ決着をつけないと私の気が済まない」

「一人でやってくれ頼むから」

「ミリちゃん、スイクンとホウオウは色々と古くから関係があるんだ。色違いのスイクンがいるなら、もしかしたら色違いのホウオウもいる!…という話があったら、ミリちゃんはどう考える?」

「いると私は考えますよ。有り得ない事は有り得ない。今まさにそれが証明されていますしね」

「ははっ、そうだったね。スズの塔を守る僕ら一族にも、その事はかなり重大になっていきそうだ」

「そういえばお前はその末裔だったな。ミリ、コイツの家は末裔なだけあってかなりデカいし、かなりの数のゴーストタイプがうじゃうじゃいるぜ」

「一言で言えば行きたいのに何故か行ってはならない気を起こしてしまうそんな屋敷だ」

「ちょっと君達それ紹介になっていないから」






そんな会話を仲良く続けて早数時間

四人は見晴らしの良い場所にたどり着いた





「シオンタウンが良く見えるね」

「あ、此所って…」

「さっき居た所だな」





そこはミリとレンが再会して、ミリがミナキと初めて出会った場所だった。同時に此所はあのシオンタウンをフルートで浄化した場所でもあった。その証拠に、ミリとレンが一緒に昼を食べた時に座った木が存在していた

マツバが足を止めてシオンタウンの景色を眺め始め、レンとミナキは先に行きかけたミリを止めて(そのままスルーしようとしたミリ←)、マツバに並ぶ様に隣りに立った。立ち位置的には右からミナキ、マツバ、ミリ、レンの順番だ(その後ろに蒼華とスイクンが並ぶ






「随分と空気が澄んでいるね。前来た時よりも全然違う」

「…確かにそうだな。私も此所に来た時と今とでは全然違って感じる」






マツバが言い、ミナキが言う

二人の視線はシオンタウンの景色を向いていても、意識はミリの方を向いていた。ミリは静かにシオンタウンを眺め、レンも同じ様にシオンタウンを眺める

視線はシオンタウンに向けながら、今後はレンがマツバに問い掛ける





「へぇ、ならマツバ。お前の眼には今何が視える?」

「…此所に来るたびにいつも視ていた、黒くて他人を不幸にさせるモノが何一つ存在していない」

「…黒くて他人を不幸にさせるモノ、ですか」






ボソッとマツバの言葉にミリは反応を示す

マツバは頷くと、指を指しながら説明をしていく






「シオンタウン全域に、包み込む様に存在していた。特に強かったのはあそこ…ポケモン達が眠っている墓があるドーム…でも、そこからも何も視えないし感じない」

「…視えるのも、大変なんだな」

「ははっ、まぁね」





シオンタウンに向けていた視線を、今度はミリに向けるマツバ。目がとても真剣で、鋭くミリを写していた





「大変なのは、ミリちゃんも同じなはず」

「……私も、ですか?」

「レンから話は聞いている。……不思議なフルートを吹いたら空気が澄んでいた。つまり、空気が澄んだという事はアレが無くなったという事になる。それにミリちゃんは体調が優れなかったって聞いていたからね」

「…レン」

「悪いな。あの音色が綺麗だったから、つい」

「こっちにまで綺麗な音色が届いていた。ミリ姫、素晴らしい演奏だったぞ」

「…ありがとうございます…?」

「ミリちゃん、色々と教えてくれないかな。僕が視えていたモノが君にも視えていたのか、どうしてソレを無くす事が出来たのかを」

「………」






数秒の、沈黙が流れた

マツバはミリの言葉を待ち、レンもミナキもまた、真剣な面持ちでミリを見る

シオンタウンを見続けていたミリはゆっくりと視線をマツバに向けると、その美しい顔でニヤリ、と口元に笑みを浮かべた






「…嫌、と言ったら?」

「手荒な真似はしたくないな」





マツバが言えばマツバの影からにゅっとゲンガーが笑みを浮かべて現れた。ミナキもボールを取り出して投げればスリーパーが現れた

ミリは瞬時に後退しようとしたが、レンがミリの腕を掴んだ事によって阻まれた。レンの力は意外にも強かったのか身動きが取れないミリは、目線で蒼華に指示を出そうとするが、レンのスイクンが既に蒼華を足止めをしていた

なるほど、とミリは呟いた





「最初っからそのつもりでしたか」

「すまない、ミリ姫」

「ゴメンね、ミリちゃん。こうもしないと君は口を開いてはくれなそうだったから」

「…レン、貴方まで…」

「…知る必要が無い、なんて言われたら誰だって気になるもんだぜ?」

「……それも、そうだね」





まだ逃げようと試みるミリだったが、今度はレンはミリの腰に腕を回せばミリはもう完璧に動けなくなってしまった

ヤバい、そう表情を見せるも抜け出そうとするミリに、ミナキはスリーパーに"かなしばり"をさせる。ピシッと体が硬直し苦悶の表情をさせたミリは、観念したのかもう動こうとはしなかった

はぁ、とミリは溜め息を吐いた





「…薄々こうして聞かれるのは目に見えていたよ」

「…お前、分かっていて着いて来たのか?」

「……そうよ。だから?」

「…」

「それに、こんな事をしてまで私に色々聞いても、しょうもない事ですよ皆さん」

「いや、しょうもない事じゃないよ、ミリちゃん。お互い視える者同士、何か出来る事があるかもしれない」

「…世界征服とか?」

「そこまではちょっと…」






誰もそこまで望んでいない






「マツバさん、私に聞いても無駄ですよ








それに聞いて何になるんですか?貴方は、いや…貴方達は私の力が気になるのではなく、欲しいとしか私には考えられませんね。…さて、この後はどっかの研究所に行って私を実験に扱って、力を貪り使わせて、私自身が壊れるまで力を爆発でもさせるつもりでしょうか?ポケモンが人間の手に研究されて心に傷を負って最悪死なせてしまうのと同じに―――」







パァアン――――

















マツバとミナキは目を疑った



ミリも何が起きたか分からなかった







「……え…?」

「レン…!?」

「……」





無機質な音が鳴り響き、全員は我が目を疑った。叩かれた事で髪が舞い、よろけるミリ。頬はじんわりと赤くなっていき、自分は叩かれたと数秒遅れで気付いた

ポカン、としている間も無くそのミリをグイッと自分の胸に抱き寄せたレンにミリはまた何が起きたか分からなかった。目の前にはレンの逞しい胸板にワイシャツ…既にかなしばりにあっているというのに、固まるしかなかった







「(ななななな、何事ーー!?ちょ、ちょ…ちょぉぉぉお!?私今どんな状態!?え、もしかしたらレンにだだだだだ…!?やっぱり今日レンおおかしいって!役得通り越しておかしいってぇぇぇえ!)」






ただでさえ今日は色々あったのに(これで三回目)、こんな状況でまたもやこんなことされたら流石にミリも羞恥で顔が真っ赤だ。まだ良かったのがその真っ赤な顔はレンの胸板に押しつけた状態だったから良かったが(そーゆう問題じゃない

レンは苦々しい表情のまま、抱き締める手に力を込める。逃げ出せない様に、その細い体をしっかりと






「…馬鹿野郎が」

「…!?」

「俺達がそんな事を思っていないのは既に気付いているはずだ。どうしてお前は…お前は俺達から自分を突き放そうとするんだ」





また力を入れて来たレンにぐえっ、と色気の無い声を上げそうになりかけたミリだったが、お蔭で冷静になる事が出来た

そして先程三人に言った台詞を思い返した。レンの言う通り、ミリはさらさらそんな事は思っていなかった。アレは三人を試すつもりで、ミリは元も子もない言葉をつらつら口に出したつもりだった。現にミリにはそーゆう事が実際にあって、経験してきた事さえあった。ミリの力に問い掛ける者達は、全員力の欲しさにやって来る様なものだったから








「…確かにそう思われてもおかしくない。そんな行動を君にやってしまった」

「しかし、私達はそんな事は一切考えてはいない」






ミナキはスリーパーにかなしばりの解除を命令すると、スリーパーはそれに従いかなしばりを解した

解放された事で固まっていた体は解き放たれ、ホッと息を着いたミリの肩にマツバの手が乗る。顔を上げマツバを見れば、マツバの顔は穏やかで、隣りに並ぶミナキの顔も優しい笑みをしていた

顔を上げてレンを見れば、レンも優しい目でミリを見ていた




そしてミリは気付く

レンも、マツバもミナキも――心からそう思っていなく、逆に自分を助け様としている事に








「レン、ミナキさん、マツバさん…










正直恥かしいです」



「…普通そこはもっと別の言葉がくるはずなんだが」

「ははっ、羨ましいなぁレン。なんなら僕が変わってあげようか?」

「フッ、遠慮しとくぜ」

「く、暗くて正直良かった…!恥かしい!恥かし過ぎて今なら私シオンタウン全域を走る事が出来るかも!てか離してぇえ!…この際背負い投げでレンを「スリーパー、かなしばり」…ぎゃっ!」

「流石にレンを背負い投げをするミリちゃんは見たくないかな…」

「ミナキ良くやった。よーしこのまま拉致るぞ」

「既に拉致ってんじゃん!」











突き放すのは多分無意識






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