「………」



逃げられない様にしているのか、それとも無意識なのか。レッドの二つの手が私を掴み、離さない。握られた手はじんわりと温かく、そこから伝わる感情は…あぁ、駄目だ。この人は確実に私だと知っている。ギュッと握られる手は少年と青年の間の大きさくらい、夢の中で出会ったあの頃の小さなレッドとは当たり前だけど確実に成長していた





「……」

「………」




この瞳の前で、はぐらかす事は余計に怪しくなってしまう。これは…言葉を慎重に選ばなくちゃいけない

…いや、はぐらかす以前に、彼にはもう嘘は付けられない。付ければ付ける程嘘が膨張していき、爆発して、やがては話がややこしくなってしまう。それに彼をここまで信じさせる何かを、私は既に彼に見せてしまっていたから

忘れもしない、レッド達と初めて会った時に闇に紛れて立ち去ったあの日を





「…レッドは私にうん、と言って欲しいの?それとも、否定して欲しいの?」






サァァア…、優しい風が吹く

風は私達の服や髪を優しく靡かせる

私の視界の中に、内容についてこれないニョロがあわあわしている姿が見えた(ウケる





「…俺は、」

「……」

「うん、って…言ってほしい。あれはまぎれもない…ミリ本人だ」





ギュッとまた強く握られた手

揺るぎない意思と確信。真剣なレッドの赤い瞳と視界に入るニョロの戸惑った瞳が私を写す





「…俺は不思議な経験をした。夢の中で、昔の俺が溺れている姿をミリとニョロに助けて貰った姿を見ていたんだ。昔の俺が帰った後…夢から醒める、未来に帰る、俺が見たミリはそう言っていた」

「…!?」

「なぁ、ミリ。ミリがあの日闇に紛れて立ち去ったり、俺達の記憶を消すとかそんな事を言っていたけど、やっぱりミリには不思議な力があったりするのか?だったらコロシアムの決勝戦でのアレも、ミリの力だったりするのか?」






まさかあの時レッドも私と同じ夢の中にいて、しかも私が気付かない所で私を見ていたなんて。しかも私が呟いた言葉まで…もうこれは言い訳やはぐらかすなんて出来ないじゃないか。不思議な力と分かったら、闇に紛れた時や記憶操作の力、そしてコロシアムの件にまで考えが行き着くなんて…





「…やっぱり、あの時記憶を消すべきだったかもね」

「…否定しない、と考えていいんだな?」

「…レッドがどうやってあの時の過去まで逆上ったのかは分からない。けど、その目で見たものはまぎれもないレッドの真実だよ」





私は握られた手をギュッと握り返す。レッドは驚いて私とレッドが繋がれている手を見て、私を見る

私は怪しくニヤリと笑う





「ねぇ、レッド。レッドが私が不思議な力を持っていると考えているなら、色々危ないんじゃないの?」

「危ない…?」

「この手を通して、レッドの記憶を操作出来るかも知れないよ?」

「…っ!?」





バッ!と素早いスピードで私の握られた手が離れる。レッドはそのまま後ろに後退すれば、ニョロはレッドを庇う様に前に出た

私はレッドの行動にクスクスと笑う。レッドを見れば睨む様に私を見て、ニョロも戸惑いながら構えている





「…冗談だよ。今更レッドの記憶を操作する事はしないよ」

「なら、やっぱりミリは…」

「あるもないも、そんな事をレッドに言う必要なんてあるの?私が不思議な力を備わっていたからって、レッドには何が出来るの?隙だらけなレッドに意図も簡単に記憶なんて消す事ができるよ」





出来ないなんて、そんな事はない

私が瞬きした瞬間でも、ちょっと手を動かしただけで私は意図も簡単にレッドを操る事も出来る。…最悪、レッドの息の根を止める事も、私にとっては動作もないことなんだよ





「…ミリはそんな事しない」

「人間は思っている事なんて誰も分からないからね」

「でも、俺はミリを信じてる」

「その自信は何処から出てくるんだか」





はははっ、と私は降参だと言いながら息を吐く。この子にこれ以上、酷い事や傷つく事を言っても絶対に意志を曲げない。それは、漫画を見ても分かっていた

だったら、レッドに本当の事を話しておくのも有りかも知れない。本当の事って言っても、重要機密な事は言わない方向で。それにこの世界はイエローみたいなトキワの力や、ポケモンみたいな摩訶不思議な存在もいる時点で何でもアリだし。そう思うとなんだか笑えてくる

私は「あー気持ち良いね〜」とゴロンと原っぱを横たわる。レッドとニョロの戸惑った顔が視界に入るが、構わない。ポンポンと隣りを促せば、レッドは戸惑いと警戒しながら素直に横たわった。その隣りにニョロがボヨンと便乗する。私は手を伸ばしてレッドの帽子をヒョイッと取って自分の頭に被せれば、レッドの拍子抜けた顔が向けられたので私はつい笑った





「レッドの満足できる返答は期待しない方がいいかもよ?それでも聞きたい?」

「うん。ミリが言える範囲まで」

「言える範囲まで、ねぇ…」

「あ、だからって言わないのは無しだぞ?」

「あら、残念」





そこで私達は笑った

私はふぅ、と息を吐く

頭の中で言って良い事悪い事を整理して、ある程度定まった所で私は口を開いた




「私ね、確かに不思議な力を使えるよ。でも何がどう使えるかは分からない。分かるのは記憶を操作する事とか、かなぁ」

「トキワの森の力とかは?」

「え、何それ?」

「え、知らない?」

「何の力かは置いといて、私でも分からない未知の力。だからと言って使うつもりはないからね。安心して、記憶操作っていうのは基本脅しだから」

「笑えない冗談だよ…」

「あはは。で、今回の件については、実は私も良く分からなくて。急に眠くなって来たら違う場所にいたんだ。そこが過去なのは知っていたんだ」

「そこで、俺達は出会ったんだな」

「そう」






私は体を横に向ける

手を伸ばして、今度は私がレッドの手を掴んで握った

レッドの驚く顔を見て、私は微笑んだ





「たった数時間前だからこう言う資格なんてないけど。私、レッドとこうしてまた出会えて嬉しいよ」

「…俺も、ミリとまた出会えて本当に良かった。こうしてまた出会えて…やっと言えるよ。ありがとう」

「フフッ、こちらこそありがとう」






ギュッと、レッドも手を握り返し照れる様に笑った





ニョロが甘いなぁと見ていた



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嘘は何回言ったでしょう






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