終わった道、交わした約束

秘めたる想いを胸にして

私達はまた進み出す


光輝く、新しい道へ











Jewel.41













瞼の裏に浮かぶのは、あの最北端の土地。私達が初めて訪れて、全てを終わらせた想い出深い…私達の故郷

私達は、あそこで生きてきた。あそこで沢山のトレーナーとバトルをしてきた。今でも思い描く…―――数多く戦ってきた、あの白熱したバトルを。道端で勝負を挑まれて望んだバトル、競技場で魅せたバトル、バッチ取得に専念したジム戦―――そして、マスターランクコンテストで戦ったメリッサとのバトルに、特設リーグ大会にて戦ったシロナとのバトルを

あそこでは、バトル同様に沢山の人達と出会った。友と呼べる者が出来た、仲間と呼べる者が出来た、【昔】の仲間とも再会出来た。沢山の光を、私はこの視えない眼で見て、触れて、体験してきた。様々に流れゆく、想い出が詰まった映像が絶えず瞼の裏を過ぎていく

シンオウで滞在していた期間は約半年ばかり。時が止まり、永久を生きる私にとって、半年なんて一瞬の瞬きにしかならないけれど、私にとってあの時の想い出はとても大切な記憶であり、物語だ

皆との交わした指切りも、私達を繋ぐとても大切な約束となってくれている。今の瞬間も、あの時の光景が浮かんでくる…―――

嗚呼、とても、懐かしい想い出だよ





―――…ピピピピッ






「―――――……、んー…?」





懐かしい過去に想いを馳せていたソレに、機械音が無情にも終止符を着ける





「…ぅー………」





布団の中からスルリと腕を出し、小さいが今の私にはとても耳に痛い根源を探して宙を彷徨わす。すると自分の手にソレが当たり、そのままカチャッとスイッチを押せば煩かった部屋がまた静寂に包まれる

もぞり、と心地好い毛布の中に身を縮こませる





「…ぅあー…ねむぃ…」





これが数週間前だったら、けして居心地が良いと賞賛しえないベッドだった。けど、今は違う。チルタリスの羽毛を使った特製の布団は弾力が良くて触り心地も抜群だ。自分にとっても勿体ないと思う素敵な代物を、今でも中々慣れず恐縮してしまうけど、でもこのふっかふかの毛布の誘惑に負けてしまう。まだ起きたくないけど、目覚時計を止めてしまった以上起きなくちゃいけない。ああでもまだ布団の中にいたい。名残惜しいからもう少しモゾモゾと中で動いてみる

まだ眠たげな眼を擦りながら、ゆっくりと瞳を開いた

相変わらず、視界は真っ暗だ。まあもう慣れっこだし、これが私の日常になってしまっている。でも私は知っている。眼前の世界を、この部屋の光景を

一人部屋にしては無駄に広い部屋。それは此処の家の主人が私達の為を思ってわざわざこの部屋に招いて下さったから。シンプルな調度品と最低限の日用品、ふかふかな絨毯と、窓の外に見えるのは広大な海の世界。海を見るとナギサシティのあの海が恋しく感じるも、海は全て同じで繋がっている。窓を開けると時たま香る潮の匂いは相変わらず心地が良い

此処に来てまだ日は浅いけど、こうやって心安らかに過ごせている今となれば―――少なくとも私は、この生活に十分満喫していた






「(――――…さて、と)」






まだ眠いけどここはグッと我慢、起きてしまえばこちらのもの。ひとしきり睡魔ともお別れをし、温かくて気持ちのよい布団にも別れを告げつつ、身体を起こす

すると拍子に布団が動いた事によって、私の上で寝ていた存在数体がコロリと転がる。目覚時計が鳴っても起きずにまだ眠っている子達に笑いつつも、なるべく起こさない様に音を立てまいとゆっくり行動をする。ベッドの足元にも同様に眠っている存在数体にも気を使いながら、やっとこさ行動を開始する



とりあえず、まずは一旦眼を完璧に覚ませる為に朝シャワーをしてサッパリしよう。シャワーに上がれば丁度良いタイミングで数名の子達が目を覚ますから、彼等の目を借りつつもリビングに行って朝食作りに取り掛かろう。眼が視えなくても、無償で衣食住を提供して下さっているから、これくらいの恩は返さないとね

それから一通りの事が終わって身支度諸々も終わったら、お仕事の時間が待っている。今日のスケジュールはまだ確認していないけど、今日も変わらずぎっしり詰まった内容だったはず。大変だけど、これが与えられた責務なのだから頑張らないと。それに交わした約束の為もあるんだから、それこそ頑張らないとね





皆がまだ熟睡中な為、心夢眼は使えない。でも物の位置等は当に把握出来ているし、心夢眼以外の能力でどうにでも出来る。まだ眠くて足取りも何処かふらつく事があるけど、皆を起こさない様に慎重に行動しつつ、昨日の夜に用意しておいた服や洗面道具を見つける。立ったりしゃがんだり、そんな諸動作の関係で箪笥に手を掛けていた時にある物が手に触れる

箪笥に掛かってある物は、二つある。一つはシンオウで着ていたオレンジ色のコートと、もう一つは――――チャンピオンマント

手に触れるチャンピオンマントの、柔らかくて軽く、通気性の良い一級品とも言える素材。けれど何処かズッシリと重みも感じさせるようなソレはやはり頂点に立つ者こそ身に着けれる唯一のモノと言うべきか

そんな由緒あるチャンピオンマントを一撫でして―――私は小さく笑ったのだった







(さあ起きよう)(重みを背負って動きだそう)


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