赤い帽子を被った少年が、水辺で楽しそうに遊んでいた。周りには誰もいなく、いるのは少年ただ一人。帽子の唾を後ろに向け、弾ける水しぶきを気持ち良さそうに感じながら、少年は笑っていた







―――あぁ、あれは俺だ




俺は今、不思議な体験をしている


俺の目の前に広がる光景は正直信じられない状態で、これはきっと夢なんかじゃないかと思ってしまう。目の前にあるのはまぎれもない幼い頃の小さな自分。まだポケモンを持っていなかった、あの頃の自分だ。記憶でしか知らなかった自分をこうして第三者の様に見てみると、妙な感覚になってしまう

そして俺はというと、幼いオレ(あえてカタカナ表記で)のすぐ近く、手を伸ばすと届くか届かない程度の距離にいる。自分の体を見てみると、何処か透けて遠くが見えて俺はかなり驚いた。試しにオレに近付いて触ってみたりすれば、案の定カスった。一番衝撃的なのは、今自分は水辺の中にいるはずなのに俺の服は一切濡れてもいなく、俺は少しだけ浮いていた

あれ?そういえば此所…どっかで見覚えがある気が…





少年は一人で水遊びをしていると、何かを見つけたのかどんどん進み始めた。向かう先は浅瀬ではなく、かなり深い場所へと…




…そしてドボーン!と水飛沫を盛大に立たせて少年は消えた







あぁ!そうだ!此所は俺が昔馬鹿しておぼれた場所だ!

気付くのが遅かったが俺をよそに、幼いオレはどんどん深い場所へ沈んでいく


そう、確か昔の俺は泳げなかった…


場面が急に変わり、俺は水の中へ。目の前は青と水色が入り交じった色をして、水の中にいるのに、鮮明に見えていた。しかも息が吸えるし全然冷たい感覚なんてこれっぽっちもなかった。俺が今の現状に驚きながら目を凝らすと、オレがいた。オレは目をぐるぐる回しながらゴボゴボと沈んでいく。…俺あんな感じに溺れていたんだ。あぁ、ここまでいくと何も言えない

その時、俺の視線に鮮やかなオレンジが入った





鮮やかなオレンジ色の服を着た女と思わせしものが、少年の所まで泳いでいく。女の隣りにはニョロモがいて、一人と一匹はまるで会話をしている様にアイコンタクトを取ると、溺れている少年の身体を掴み、引き上げた








…俺は茫然とその光景を見ていた。こんな摩訶不思議な事を頭から忘れる程に、俺は心底驚き、そして歓喜に未知溢れた

だって、あのオレンジ色の服、あの姿、あの髪、つい最近まで見た事ある姿だったから




また場面が変わり、そこはマサラタウン。水辺から少し離れた、でもマサラタウン付近で女と少年とニョロモはいた。びしょ濡れだった互いの体は既に乾いていて、夕焼けの日差しが二人と一匹を包み込む

少年は嬉しそうにニョロモも頭を撫でる。少年の手には大事そうにモンスターボールが握られていて、ニョロモも嬉しそうだ。女はその姿を微笑ましそうに見つめていた。女が口を開けば、少年は嬉しそうに、でも真剣な顔をして女の顔を眩しそうに見る





「もう、そのニョロモは君の手持ちであり、友達でもあり君の大切な仲間になった。愛情を持って接せれば、どんなことがあってもその子は君に答えてくれる。その子、を大切にするんだよ」

「うん!ありがとう綺麗なお姉さん!オレ、ニョロモを大切にするよ!」







そうだ、確か俺は帰り際にお姉さんに言われたんだ。助けてくれたお姉さんは溺れた俺を助けた後、叱って、抱き締めてくれたっけ。それが温かくて、恐怖が後から湧いてきてお姉さんの胸の中で泣いたんだ。泣いている俺の背中を止まるまで撫でてくれた…そうだそうだ、思い出した。思い出したぞ。何で俺は忘れていたんだろう、この事を、あぁ馬鹿だ、はじめっから覚えていたら、もしかしたら再会した時何か変わっていたかも知れないのに


夕焼けに反射する漆黒の髪

より一層引き立つオレンジの服

輝く瞳は優しくて、その唇は瑞々しくふくよかな形



手を伸ばせば届くのに



届かない、届けない

伸ばせない、伸ばさない





「君は良い目をしてるね」






綺麗なお姉さんが


―――ミリが、微笑む





「君はこれからの未来、色々な事が流れていく。それは楽しい時だったり、大変な事だったり、それは人様々。君はもしかしたらその大変な、困難な事態に巻き込まれるかもしれない。…諦めないで。諦めないで進めば、絶対に光は見えてくる。君なら、それが出来る」





目の前にいるオレの頭を優しく撫でるミリを幼いオレは元気良く「うん!」と答えていた。よく分からないくせに、そう思うと何か笑えてきた


幼いオレは元気良く手を振って、駆け出す。もう時間だから帰らなくちゃいけなかったからだ。手を振り返すミリに、それを見る俺。オレの姿が無くなって、ミリは手を振るそれを止めた。俺はゆっくりと歩んでミリの隣りに並んだ。顔を覗けばやっぱりミリの顔で、あの時俺が居なくなるまで微笑んで見てくれた事に、すっごく嬉しく感じた





「どっかで見た事ある子だな…って思ったら、あぁ、やっぱりね」





いきなりミリが呟いた。俺は頭を傾げる。言っている意味が分からなかったからだ。そんな俺を置いて、ミリは満足そうに笑った





「―――レッド」




あぁ、これは

やっぱりミリは知っていたんだ。俺の事を。でも、何で、あんなことを?疑問が生じた。あの時のミリは本当に俺の事を知らなかった。知らなかったからこそ、俺達は仲良くなった。…どうして?




「…もうそろそろ時間だね。さて、私も夢から醒めてタマムシティに行かなくちゃ」





時間?

夢?醒める?

タマムシティに行かなくちゃ?




…ちょっと待ってくれ


その場所は、俺が知っているミリが今まさに向かっている所じゃないか。予測だけど、でも、




でも、それじゃまるで…







「さて、未来に帰りますか」







パチンと何かが弾けた




また目の前が真っ暗になった





* * * * * *








俺はガバッと起き上がった





「…え、俺の部屋?」





俺は自分のベッドで寝ていた。俺がいきなり起き上がった事によって掛け布団はずれ落ちる。服はそのまんまで、俺はベッドから出た

ベッドの近くにある机の上には六つのボール

そのボールの中にいるポケモン達は心配そうな顔をして俺を見ていた。俺はごめん、と言いながら腰に一個ずつ付けていく。それから俺は部屋から出て階段を降りていく




「レッドー?あらあなた起きたの?」

「母さん」





台所からエプロンとお玉常備で顔をひょっこり出した自分の母親。その姿を見ると母さんはご飯を作っていたみたいだ




「聞いたわよ、ハナコからいきなり電話があった時は驚いたわ。あなたのポケモン達に手伝って貰ったから、後でお礼いうのよ………って、コラちょっとレッド。お母さんの話はちゃんと聞きなさい!聞いているの!?」

「ごめん母さん!今回だけは見逃して!」






俺は何か言ってお玉を振り回す母さんを置いて大きな音を出して玄関のドアを開ける

腰から一つのボールを取り出して投げ付ければボールからはプテが現れた。プテは俺の肩を掴むと、空高く飛び上がった






「プテ、ミリがいるタマムシティへ!」






ミリ…



俺は、信じていいのか…?







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