時間はもう辺りが暗く、海の照明が綺麗に光り輝くその夜、私は乗車船付近の海辺にいた

此所から見える景色は夕方見た景色とまた違って綺麗で、海の潮風が心地よく私の髪を撫でる。ポツポツと見える船の光がまた幻想的で、ずっとここで見ていたいと思ってしまう




「…………」




今、レンとポケモン達はベッドに入って眠っている。時刻はもう次の日に回っていた。私は皆が寝ている隙にベッドから起きて、寝間着(ジャージ姿)のまま外に出た。残念ながらレンの寝顔は拝見出来なかったのは勿体なかったなと思っている←

正直、私は眠れなかった

久々の大人数の中だったのもあるけど、やっぱりマチス達から聞かされた話が頭の中をぐるぐる回っていた




「これから、どうしようか…」




少なくとも、話を聞いても事がすぐに起こる訳じゃない。私はこれから変わらず旅をして、変わらずバッチをゲットしていく。新しく出来た又は昔の仲間達と一緒に旅を続けて行く、それが私が今突き進む道。白亜と黒恋の成長もかねて

ナツメから聞いた黒恋の事については正直驚いたけど、だからといって特別残念や悲しみなど思わなかった。黒恋は黒恋のまま、それは変わりはない。イーブィの黒恋でも、進化した黒恋でも私は大好きだ。黒恋はどう思うかは別だけど、それで良かった




「ナズナ、か…」




白亜と黒恋を連れて来た張本人。ロケット団員で、マチスの幹部補佐を勤めていた人

きっと優しいレンの事だから、その人を探しに行くに違いない。でも、何でレンが食い付いてわざわざ自ら調べている理由が分からない。私の為なら、何のメリットもない。人間はメリットがあった時にやっと動く様なもので、もしかしたらレンはまた別の何かを追っているのかもしれない。…ついで、なら全然構わない、けど私の為なら本当に申し分ない気持ちでいっぱいだ

それよりも、私は疑問に思っている事がある

ナズナは土砂降りの中、取り乱した様子で白亜と黒恋を抱えていた、とマチスは言っていた

…一体、何処から連れて来た?

昔の記憶にある中では、白亜と黒恋はまだ卵だったはず。私が死ぬ記憶では、多分あの後蒼華は卵をある場所に持って行ってくれただろう


――あの、聖地の湖に





「…力はまだ使う時期じゃない」




力を使えばすぐに謎は解ける

私の力は創造の力、癒しの力、操る力など様々あって、勿論探る力も備わっている。力を使えば楽だ、しかし私はそれを使わない

その時では、ないからだ











「こんな所にいやがったか…」

「!、レン」

「馬鹿野郎、風邪ひくぞ」




噂をすればなんとやら

息を切らしてレンは私の元へやってきた。息を切らしている姿を見ると、私がいない事に気付いて探してくれたみたいだ。寝間着に使っているジャージの上には薄いパーカーを着ていて、私の隣にくるとそれを脱いで私にかけてくれた

なんて優しい奴だ←




「逆にレンが風邪ひいちゃうよ」

「下は長いジャージだから安心しろ。お前仮にも女だから体労れ。しかもこんな真夜中抜け出しやがって…目が覚めた時いないからびっくりしたぜ。この物騒な中、何かあったらどうするんだ馬鹿」

「う…まさかそこまで言われるとは思わなかったな…。用心するよ」

「ったく…。で?わざわざこんな所で物思いにふけっていたのか?」

「…うん、そんな所」





私はレンから視線を反らし、空を見上げる。私に習い、レンも同じ様に空を見上げた

空は真夜中だけあって、星が綺麗に輝いていた。クチバはあまりビルもなく自然が沢山あるため、此所から見える景色も空も一段と綺麗に見えた





「綺麗だね」

「あぁ。そうだな」

「…ねぇ、レンはこの後どうするの?」

「この後、か…。そうだな、マチス達が言っていたナズナって奴を探してみる。他にも情報を持っている奴等にも足を運んでみるつもりだ」

「レン、あのさ…」

「…お前の言いたい事はなんとなく分かるぜ。メリットもない事を何でわざわざ調べるのか…だろ?」





レンは空を見上げたまま、フッと笑う





「俺はお節介だから…一度気になった事にはトコトン追求する奴でな。…だがな、これは、今回は、自ら調べるちゃんとした理由がある」

「理由?」

「………」





空を見上げたレンの顔が、こちらを見る。レンの瞳のピジョンブラットが、星の光が反射して輝いて見えた

しかし、レンの表情はまるで自嘲的な笑みをしていた。何でそんな笑みで私を見るのかは分からなかった。だが、これだけは分かった


これは、私が思っている以上に、私にとってもレンにとっても、とても深刻な話なのだと






「…今は、理由は聞かない。言いたくないでしょ?顔に書いてあるよ」

「………ミリ」

「ん?」

「俺がこの件を調べる理由…他にも、お前の為に調べている、と言えばお前はどうする?」

「…!」





…やっぱりレンは優しい人だ


私は腕を伸ばし、レンの頬に触れた。レンの頬は潮風に当たって少しひんやりと冷えていた。いきなりだったのでレンの瞳が驚きの色をして私を見る中、私は優しく微笑んだ





「それは勿論、レンだけそんな大変な事はさせないよ。それが私の為なら尚更。…さっきも言ったけど、理由は聞かない。その時まで、私は何も聞かない。…レン、私も貴方のお手伝いをするよ。この件がどれだけ深刻で大変な事だとしても、どんな事でも乗り越えられる




――ほら、そんな顔しないで。レンはそんな顔は似合わないよ。ね、笑って?レンの笑顔は素敵なんだから」

「…あぁ」





破顔した様な、レンの瞳に別の光が宿った

レンの手がゆっくりと持ち上げられ、私が頬に当てていた手の上に被せる様に乗った。レンの手は頬と同じで、冷たかった。自嘲的な笑みがくしゃりと変わり、それからフッといつもの綺麗なレンらしい笑みに変わった





「ミリ…もし、もしだぞ。もしこの話の件でお前が巻き込まれたりしたら俺を呼べ。俺を頼れ。…何かあったら、俺がお前を守る。どんなことがあっても」

「なら私も、何かあったら貴方を守る。どんな事が起きようとも、貴方を信じるよ。だから、レンも私の事を信じてね」

「…あぁ」




レンの手がキュッと握られ、私も答える様に握り返した。握られた手は次第に温かくなっていき、私はその手を重ねて握った





「…寒くなってきたね。センターに帰ろっか、皆を起こさない様に」

「…ミリ…」

「さ、行こう」





私は握った手をそのままに歩き出す

後ろから、小さく聞き取り辛い声量だったが、しっかりと「ありがとう」っていう言葉が聞こえてきた

でも私は聞こえない振りをした






「ねぇ、レン。私は明日からタマムシティに行ってバッチゲットするつもりだけど、レンは?」

「そうだな…なら俺は荷物の調達もかねて同行させてもらうぜ」

「本当に?なんだか楽しい旅になりそうだね」




私達は、笑った








(時よ止まってくれ)(この小さな幸せを)(壊さないで)



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