「むふふふ〜オレンジバッチとゴールドバッチ、ゲットだぜ。これで四つ目〜」

「おーおー、そいつがバッチか」

「…俺は初めて笑顔でぜったいれいどを命令するトレーナーを見たぜ…クレイジー。もうあの顔は遠慮願いたいぜ」

「清々しい笑顔だったけど、アレはちょっと勘弁ね…」




キラキラ輝くバッチをルンルンしながらバッチケースにしまっているミリに、バッチをしげしげと眺めるレン。その後ろではスイクン二匹が優雅に佇んでいる。二人を前にマチスとナツメは冷や汗と苦笑いを零す

二人の脳裏には笑顔の後ろに荒れ狂う氷山のブリザードが吹雪いていたが、あえて言おう。本人は全くもってそんな気はサラサラ無い

ただ言える事は一つ

ミリは容赦なかった




「…何がともあれ、ミリにレン。楽しかったわ。こうなることは予想していたけど。ミリ、次のジム戦、頑張りなさい。アナタならすぐにでもカントー制覇出来るわ」

「ありがとうナツメ。…それはナツメの未来予知?」

「残念、勘よ。でも未来を視なくても自ずとアナタはそこに辿り着く。そう、信じているわ」

「えぇ」




ミリとナツメは互いの手を差し出し、握手を交わす。ミリもナツメも互いの心を探る事なく、笑顔で受け入れていた




「マチスさん。ライチュウには酷い事をしてすみませんでした」

「全くだぜ。ま、ライチュウも分かってくれるだろうよ。また機会でもあったらお前とバトルしたいもんだぜ」

「勿論です。ありがとう御座いました」




マチスも同様に握手を交わす。負けたのに機嫌が良いらしいのか、マチスは笑いながらバシバシとミリの細い背中を叩く。ミリは痛いと思っていても実際には強烈な程までは痛くないと思っている。その為かあまり動じていないが、変わりにレンがマチスの背中を思いっ切り叩くとマチスは痛みのあまり大きく叫んだ




「なにしやがる!痛いだろーが!」

「おー、悪い悪い。つい、な」

「こんの…!」

「…つーか、俺を忘れてないだろうな?」

「!…あぁ」




ニヤリと影のかかる笑みをレンが向ければ、先程の掴み掛かろうとしたマチスの表情が一瞬にして真剣な顔に変わる。ナツメも鋭い目付きに変わり、レンを見る

そこだけがまるで冷たい空気が張り詰めたみたいだった。ミリはその空気をいち早く見抜くと、一歩後ろにゆっくりと下がる。後ろに控えていた蒼華のそばに寄り、ボールを取り出し礼を言いながら蒼華をボールにへと戻した。レンのスイクンに触れながら、会話に耳を立てた





「…で?お前は確か俺に話を聞きたくて来たんだったな。…いや、俺達にが正しいか。まずは理由を聞こうか。そう簡単に情報は渡せられねぇからな」

「単に言うなら、ダチの為の情報集めだ。…大方察しはついているんじゃないか?」

「ダチ、ねぇ…。なるほどな。その為だけにわざわざこの俺様の元に訪れた事は褒めてやるぜ。だがな、そうやすやすと情報は渡せられねぇってんだ。いくらお前が事実上俺達に勝っても、だ。しかし内容によっては、考えてやってもいいぜ」

「それに、私達から情報を聞き出したとしても、…此処で、こんな話をして大丈夫なのかしら?私達は全然構わないけどね」

「お前らの裏の姿を知られても、か?」

「さぁな、どうだか」





彼らが何を話しているか、普通ならあまり理解が出来ないだろう

だが、ミリは理解していた

正確には、理解した

レンが今、何を聞き出そうとしているのか、誰の為に聞き出し、誰の為に助けになろうかを




「君の新たなご主人様は、優しいね」




すり寄ってくるスイクンを撫でながら一言呟くと、スイクンは礼を言っているのか目を細めた

ミリは三人に目を向けた

すっと目を細くして、呟く様に、言った





「私もね、貴方達に聞きたい事があるの。――ロケット団幹部、だった二人に…ね」





三人の目が、同時に振り向いた




「ミリ、お前…」

「私が知らないとでも思っていたの?それだったら大間違い。ちゃんと知っているよ、マチスとナツメがロケット団三幹部の内の二人だって。もう一人はキョウ、っていう伊賀忍者の人だって言う事もね」




フフッ、と笑うミリは先程のあの綺麗な笑顔で笑うミリなのには間違いないのだが、どうしてだろうか。こんなにも、背筋が凍り付く様な寒気を覚えるのは

さっきのバトル?

それとも隣にスイクンがいるからか?






「…まさかキョウの事まで知っているなんてな。嬢ちゃん、誰から聞いた?」

「詮索は無用よ。聞くのは野暮って所ね」

「……」

「レン、ありがとう。きっとレンの事だから、私の為に色々情報を集めていたんだと思う。さっきの会話で気付いたよ。でもね、私も、あの子達も知らなくちゃいけないの」

「…」




ふんわりと柔らかい笑みをレンに向けるミリ。しかしレンの目には、その笑みが偽りにしか見えなく、深い漆黒の瞳が闇に渦巻いている様にも見て取れた

そして同時に思った

――コイツは、一体誰なんだ






「――何で、私の手持ちである白亜と黒恋がロケット団の実験台になったのか、教えてくれるよね?…さっきみたいに蒼華の技を食らいたくなかったら、ね」






ピキィイ、そんな擬音がこの部屋の状況を物語っていた






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