先程まで全然そんな素振りを見せなかったのに、突然ゼルに対して怯える姿を見せ始めたミリ。コートをギュッと握り締め、表情は恐怖に強張る。一歩ゼルが近付くと、一歩退くミリ。過度に反応を見せたミリに、ゼルは小さく驚いた。自分は"まだ"何もしていないのに、何故突然怯え始める?自分が壁を見ている間に一体何があったんだ

ゼルはミリから視線を逸す。ミリの傍にいた闇夜と白亜と黒恋も、今のミリの様子に驚いていた






「ッ……!…あ、…その……」

「……ミリ様、」

「すみません……なんでも、ないです。お気に障ってしまったら…その………ごめんなさい…」

「………」

《…主、大丈夫か?》

「「ブイブイ!」」






ゼルの視線から逃げる様に縮こまるミリに、闇夜と白亜と黒恋は傍に寄る。闇夜がミリの身体を抱き寄せる事で幾らか身体の強張りが落ち着き、表情もホッとしたものに変わる。しかしゼルに対する恐怖心は拭いきれてはいないらしく、それこそゼルの視線から逃げる様に闇夜の腕に隠れてしまう

ミリは確実に、ゼルに対して"別の原因"があって恐怖心を持ってしまっている。その原因はミリ自身の中に秘められている恐怖―――ミリの口から語られなければ、それこそ原因なんて分からないだろう

その原因が何なのかは置いておくも、だからといってこのまま恐怖心を持たれてしまったら困る。かなり困る。生涯をもってミリに尽くしていくと決めていたゼルにとって、どうしてもこの状況を是が非でも打破したいのが本音




ゼルは手を伸ばして―――闇夜の腕に抱かれるミリの身体に、優しく触れる

更にビクリと身体を強張らすミリ。ゼルは壊れ物を扱う様に、後ろから包み込ませる様にしてミリの華奢な身体を抱き締めた。闇夜を前、そして後ろにゼルと抱き締められた事で完全に逃げ場を失ったミリは、怯えた表情をそのままに、されるがままゼルの腕の中で震える

ゼルは小さく微笑みながら、安心させる様にミリの耳元でゆっくり囁く






「……怯えないで下さい。何を思って俺に怯えたのかは存じませんが…大丈夫です、私は貴女の味方です。貴女を守る、剣<つるぎ>です」

「ッ……」

「大丈夫です、ミリ様。貴女は―――この俺が、守ります」






後ろからミリの手を取って、柔らかく細い手をしっかりと握る。未だ怯えるミリに再度「大丈夫、大丈夫です、」と声を掛け、柔らかい温もりを堪能しつつ瞳を閉じる

―――すると、どうだろう。ミリの手を握るゼルの手から、フワッと淡く白銀色の光が輝き出したではないか

白銀色の光は優しくミリの手を包み込んだ。優しく、安心させる様に、労りながら―――

ミリは小さく驚いていた






「―――この力……貴方は……」

「…………」






力を持つ者同士だからこそ成せる事


言葉を通わさなくても、

この力は全てを伝えてくれる


自分は敵ではなく、味方であり、

貴女を守る為に存在すると―――








離して、と小さな声が聞こえた。ゼルは言葉通り力を止めて、名残惜しい気持ちを感じつつミリから身体を離した。対面する闇夜もミリから身体を離し、ゆっくりと影の中に潜っていく

小さく深呼吸し、ゼルに振り返ったミリ。落ち着きを取り戻したらしく、もうその表情には恐怖の色は無かった






「…ありがとう、少し…落ち着いた」

「それは、良かった」

「…取り乱して…ごめんなさい」

「ミリ様が気にする事では御座いません」

「…………ゼル、」

「はい」

「…今はまだ、貴方が何者かは聞きません。落ち着いたら改めて…貴方がどういう人かを聞かせてもらいます」






そう言って、今度はゼルの手を取りしっかりと握る

不意を突かれて目を張るゼルを余所に―――ミリもまた、その手に暖色系の淡い光を輝かせた

息を飲むゼルに、ミリは言う






「―――貴方の事を、信じます」

「…勿体ない、お言葉です」






貴方が敵ではない事は理解しました

信頼に値するかは別として、貴方の事を信用しましょう

あの力から感じたまっすぐな想い

強い意思と確固たる覚悟、確かに受け取りました





言葉に言わずとも、伝わるミリの答え

その答えにゼルは強い感銘を受けていた。嗚呼、やっと、この瞬間を手に入れたんだ、と。想い焦がれてきた存在に、少しでも認めてもらうこの瞬間を


ゼルは壁に視線を向ける


亀裂が走ったままの壁。この向こうにいるのは捕らわれた馬鹿な奴等。その内の一人こそ、今どんな気持ちでこの光景を見ているのだろう






「―――ミリ様、ご命令を」

「え…?」

「簡単な話です。この俺に、あの壁を壊せと命令すればいいだけの事です。貴女の笑顔が取り戻せる為なら、こんな壁など簡単に壊してみせましょう」






更なる信用を、そして信頼される為にも

ゼルは動く。全てはミリの為だけに



ミリの手から離れ、ゼルは壁に対峙する

奴等をミリに会わせるのは癪だが、全てはミリの信用を勝ち取る為だけに。こんな壁などゼルにとったらただのパフォーマンスに過ぎない





さぁ、ミリ様

この俺に、命令を下さい







「―――ゼル、皆を助けてあげて」

「はい。全てはミリ様の思うままに」






白銀色の強い輝きを放つ一撃が


容赦無く壁に向かって振り降ろされたのだった









(そして彼等は)(対面する)




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