さて、先程の冗談もそこそこに ゼルは改めて壁の前に対峙する 「今更ですがこの壁、かなり深く亀裂が走っている………まさか、とは思いますが…これは、ミリ様が?」 「あはー」 「…………、床に走っているあちらの亀裂も?」 「気のせいだと思うよ」 「……………ミリ様、」 「はい?」 「…貴女には後でお仕置が待っているので覚悟していて下さい」 「お仕置!?」 ドォォンーーー 炎に包み込まれる広場から、重々しい地響きが轟く 「―――ゼル様、片付けました」 燃え盛っていた炎から現れたのは、悠然と立つガイルの姿 激しいバトルをしていたにも関わらず、その身体は傷が無く、軍服にすら汚れを寄せ付けない。グラデーションに色変える長い髪を靡かせて、ガイルは炎の中だというのに、ゼルに向けて気品に一礼をする 炎は今も燃え盛っている。炎の先に辛うじて見えるのは―――凶暴走化されたポケモンが、山の様に積み上げられてはピクリとも動いていなかった。その近くでは多少痛み付けられたらしく、アポロとランスとラムダが床に蹲って苦痛に耐えていた。アテナは完全に怖じ気付いてしまったのか、先程の高飛車な姿とは一変して怯えている姿がそこにあった 「ご苦労。手応えの方はどうだ?」 「特にお答えするレベルではありません」 「フッ、そうか。逃げ出さないように縛り上げておけ」 「御意」 ガイルに振り向かず当然の様に言うゼルに、当然の様に対応するガイル これが本部の力とでもいうのか しかし凶暴走化したポケモンはゾンビの様に立ち上がっては襲いかかってきたというのに、一体ガイルはどんな手段でポケモン達を戦闘不能にさせる事が出来たのだろうか。人間が出来る業ではないのは、確かだ。謎は深まるばかり 再度炎の中に消えて行くガイルの姿を、闇夜は畏怖を込めた目で見返していた 《…少し見ない間に片付けてしまうとは…あの男は一体何者なんだ》 「闇夜、今の内にシンクロするよ。私に、貴方の世界を視せて」 《あぁ、分かった》 「「ブイー?」」 ゼルとガイルがこちらに気が向いていない隙を見て、ミリはこっそり闇夜に言う。闇夜は頷き、金色の瞳を閉じる。そして再び開かれたその瞳に、再度不思議な光が輝き出す 心夢眼を発動した事で新たにミリに世界が写し出される。先程同様に闇夜はグルリと辺りを見渡し、ミリに自分の世界を視せる 最初こそ炎に包まれる広場を視て「こんなに燃えていれば暖かいよね〜」と呑気に笑っていたミリであったが――― 闇夜の眼がゼルを写した時、 ミリの表情が―――恐怖に染まる 「――――さぁ、ミリ様。俺達も貴女の友人達の救出に取り掛かりましょう」 サラリと靡かせる白銀色の髪 強い光を持つ、カシミヤブルーの瞳 ゼルは言う。振り返りながら、ミリに近付く ミリの脳裏を過ぎらすのは、長い間自分を苦しめてきた悪夢の映像 そこに必ず出てきた、白銀色の光 二人の青年、一人は、そう、 夢に出てきた、あのカシミヤブルーの瞳を持つ青年と同じ輝きで――― 「―――――ッ!!」 ゼルがミリに手を差し出した時 ビクッッ!と過度に身体を強張らせ、ミリは怯えて数歩下がってしまった → |