「おー?……なんだありゃ、【白銀の麗皇】が暫く見ない間に王子様になってまァ。しかもまあかっこよく女王をお姫様抱っこときたもんだ。憎いねー!似合ってんぞ〜」

「残念ですが彼は【白銀の麗皇】ではありません。話に聞いていたリーグ協会のお偉い方です」

「うそっ!もしかしてあの総監って事!?めちゃくちゃ若いじゃないの!しっかもイケメン!その隣にいる人もイケメンだわ!まさにイケメンパラダイスね〜!」

「…………仮に総監だとしても…わざわざこっちに出向くなんて、普通は考えられません。上はこの事を?」

「アレを壊しましたからね、凶暴走化したポケモンをよこしてくれたので見てくれているとは思いますよ」






凶暴走化したポケモン達が闇夜達を襲いかかっていた間に、アポロは無事倒れていた仲間達を避難させる事に成功していたらしい。悪夢から目覚めた暫くの間はアポロ同様に顔が苦悶に歪められていたが―――マトマの実の効果かは分からないがすぐに調子を取り戻し、三人は雛段の上から好奇な目で新たな侵入者を見下げる

ゼルとガイルの登場も勿論、この広場の惨事にも驚きを隠せない。今まさに広場は灼熱の炎で燃え盛り、凶暴走化したポケモン達がその炎に警戒し、命令が下るまで待機している。遠くに見えるマジックミラーは凄まじい亀裂が生じていた。誰が一体どうやってやったかは分からない

眠っている間に一体何があったのだろうか―――






「――――見た目通り、奴等はロケット団で間違いねぇな。『彼岸花』の連中の姿が見当たらないところを見ると…奴等は別の場所にいるってわけか。高見の見物しやがって」

「ゼル様、」

「あぁ、やれ。ミリ様の前だ、万が一の事がないようにな。あそこの四人には色々と吐いてもらう」

「御意」





「おいおい、マジかよ。あの執事、一人でこっちに来るぞ」

「…ッ女王といい、随分と舐められたものですね…!」

「気を付けなさい。彼はこの炎を繰り出した張本人、一筋縄ではいかない相手ですよ」

「やるわよ!」






ゼルとミリに一礼したガイルは、敵に臆する事なく燃え盛る炎の中に単身で乗り込んでいく。勿論ガイルの動きに反応した四人はすぐさま戦闘態勢に乗り出した

ガイルを見送るゼル達の視界から、瞬く間に燃え盛る炎によってガイルの姿は消えた。次に起こったのは凶暴走化したポケモン達による咆哮と地響き、キラリと見えるのは閃光の輝き―――先程と同様に、凄まじいバトルが繰り広げられているのがよく分かる


ゼルの腕の中にいたミリは聞こえてくる咆哮と地響き、ガイル単身でのバトルに驚きを隠せない様子だったが―――ハッと自分の状況を思い出したらしく、慌てて声を上げた






「あの!ゼルさん、お話が――」

「…ミリ様?(ニッコリ」

「Σうっ………………ッゼル、話を聞いてほしい事があるの」

「勿論、何なりとお申付け下さい」

「えっと……まずは私を降ろして、」

「駄目です」

「Σ駄目なの!?―――ッ後ろの壁の中に私の大切な友人達が閉じ込められているんです!早く助けてあげないと感電されちゃう…!」

「後ろの壁…?」






ここでゼルは初めて後ろの壁の存在に気付く

無機質な広場の壁にしては場違いなマジックミラー。そのマジックミラーには凄まじい亀裂が生じている。よく観察してみるとパチパチッと電気が走る火花が見える

暫くマジックミラーを眺めていたゼルだったが―――全ての真相に辿り着いたらしく、呆れた様に溜め息を吐いた






「…なるほど、そういう事か。だから盗聴機と発信機が使えなかったってわけか。電波も届かないときたら連絡入れるにも入れられねぇ。…ふざけた話だぜ」

「ゼルさん…?」

「闇夜、一旦ミリ様を預かってくれ。あぁ、ミリ様の命令だからって勝手に降ろす事はするなよ」

《あ、あぁ…分かった》

「えー…」






後ろに浮かぶ闇夜に振り返り、ゼルはミリをしっかり持ってもらう様に命令する。勿論釘をさす事は忘れずに。闇夜は一瞬戸惑うもすんなりとミリを預かり、ミリは「私ってまるで荷物みたい…」とブツブツ呟いていた

ゼルはマジックミラーの前に立つ

見えるのは自分の姿。亀裂が生じてしっかりとは反射されていないが、カシミヤブルーの鋭い瞳は映し出される自分を通り抜けて―――壁の向こう側にいる存在に、向けられる






「――――ハッ!つくづく無様だな!お前等はミリ様が危険な目に遭われそうだって時にそこで指を咥えて見ていたって事か!笑える話だぜ、そうやって敵の罠にみすみす捕まるなんざそれでもお前等は俺が組ませた突入チームか!恥を知れ!俺を動かせた事も含めてお前等はそこで反省でもしているんだな!」





ゼルは容赦無く言い放つ

壁の向こう側にいる、無能な人間達に向けて




お前達に任せた自分が馬鹿だった

結局お前達は何も出来ない

やはり自分が行くべきだった

お前達の力など使わず、自分自身の手で―――






「ッ―――待って下さい!ゼルさん!」





いつの間にか闇夜の腕から離れたミリが

ゼルの腕に抱き着いていた


小さな衝撃と柔らかい温もりに小さく驚くゼルはミリを見て、それから咎めの視線を闇夜に向けた






「闇夜、何勝手にミリ様を降ろしているんだ。それにミリ様、何度も言いますが俺の事は―――」

「私の友人達とどの様な関係かは存じませんが、その様な事を言わないで下さい!この私でさえ誘拐された身なのです、彼等だってこういう事態になってしまうのも仕方が無い事です!」

「………」

「…彼等を責めないで下さい、お願いします。責任はこの私にあります。ポケモンマスターなのに敵に誘拐され、彼等を巻き込ませた…私の責任です」






ゼルと壁の間に立ち、ミリは彼等を守る様に―――ゼルに対して、深々と頭を下げた

下を向くミリの表情は、思い詰めたもの。そこに笑顔は無い。今でも状況を把握しきれていない状態での不安からはともかくとして、動かすのはポケモンマスターという自覚。一つの行動全てに責任が伴う立場にいるミリだからこそ、彼等が閉じ込められた事実も自身の責任だと言う

彼等は何も悪くない。悪いのは全て私の責任、だから彼等を責めないで―――




ミリの思わぬ行動に、小さく驚いたゼル。そこまでしてアイツ等を守りたいのか、と言い様の無い嫉妬心を燻らせつつ―――頭を下げるミリの前に膝を着き、湿った長い髪に隠れる頬に優しく触れる

ビクリッ、と。思わぬ行動に身体を強張らせるミリは、小さく驚いて顔を上げる。盲目の瞳は相変わらず光が無い。その瞳に写し出されたゼルの表情は、とても優しいものだった

彼は愛しげに囁いた






「…分かりました。先程の言葉は撤回しましょう。なのでミリ様、頭を上げて下さい。ポケモンマスターたる者、簡単に頭を下げるものでは御座いません」

「……」

「…貴女は何も悪くない。責任も貴女が負うべきものでもありません。…なのでその様な顔はなさらないで下さい。貴女が悲しい顔をされると…俺まで辛い」

「!ゼルさん……」






優しく頬に触れて、顔を上げる様に促しながら、滑らせる様にミリの手を取る

戸惑いながら顔を上げるミリに、ゼルは小さく笑みを浮かべる

優しく手を握り締め、安心させる様にゼルは言う






「まずはこの壁の向こう側にいるミリ様の友人達を助け出しましょう。…そうすれば、貴女に笑顔が戻ってくれるはずですよね?」

「…はい、ありがとう御座います。ゼルさん」









ちなみに、と

ゼルは手を引いてミリの腰を抱き寄せる



またもや予想外な行動をしてきたゼルに呆気に取られるミリを前に、

ゼルはニヒルに笑みを深める






「行動を起こす前に、俺の事はゼルとお呼び下さいと何度言っても敬称敬語で話されたその責任を取ってもらいたいと思いますが、如何でしょう?」

「さっそく皆を早急に助け出そう!今!すぐにでも!!…闇夜!闇夜ちゃーん!皆を助けだそうむしろ私を助けて闇夜ちゃーん!」

「フッ、そう遠慮なさらずに」

「あー!困ります困ります!お客様困りますー!いったんその手をお放しになってー!?そのまま闇夜ちゃんにパスしてくだされー!?」

「ブイブイ(笑」
「ブィィィ!」

《久し振りに見る?―――そうなのか…日常茶飯なのか…主も大変だな……》

「闇夜ちゃーん!!」













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