(数分前…) 「ミリ様の御力はこちらから強く感じる。離れていても手にとる様によく分かる…フッ、やはりあのイーブイ達を連れ出したのは正解だったな。サーナイト、よくやった」 「サー」 「ガイル、サーナイト、遅れを取るなよ。アイツ等よりも先にミリ様を救出するんだ。迷っている暇はねーぜ。つーか迷う気がしない。今の俺ならすぐにミリ様の元へ辿り着ける自信があるぜ…!」 「(………普段からこのように方向感覚がしっかりされていたら……)」 ゼル単体→迷う ゼル+ポケモン→迷う ゼル+人→人に任せる=迷わない ミリの元へ行く→迷わない←new!! ――――――― ――――― ――― ― 突如として―――広場を灼熱の炎で覆い尽くし、数多の凶暴走化したポケモン達を飲み込ませ、 炎の道から現れた、一人の男 煌めく白銀の長い髪を靡かせ 鋭くも澄んだカシミヤブルーの瞳を輝かす 彼の名前こそ、ゼルジース・L・S・イルミール レンと同じ顔をしたその表情は、ニヒルで不敵に笑う。カツリカツリと歩む姿は気品があり、黒いコートにあるビルマサファイアの宝石が炎によってキラリと輝く 突然の第三者の登場に、アポロは驚いてゼルを遠くから見返した 「―――これは驚きました。まさかまた侵入者が現れるとは…しかも【白銀の麗皇】と瓜二つ………まさか、とは思いますが…もしやお前はリーグ協会の…?」 「フッ、察しがいいな。そうだ、分かっているなら敢えて俺の口から名乗る必要はねーな」 「…随分とお若いんですね。まさかこの場でお会い出来るとは思いませんでしたので、正直驚きました。…しかし、わざわざお前程の人間が、こちらに?」 「突入チームの奴等があまりにも無能なんでな、この俺自ら出向いてやったってもんだ。有り難く思うんだな」 「……女王といい総監といい、予想外な事ばかりですよ」 アポロはゼルを知っていた。否、ゼルという存在を知っていた 話は聞いていた。総監が動いている、と。行方不明になっていたポケモンマスターが見つかってもまた行方不明になってしまったシンオウリーグの失態に、わざわざ総監が腰を上げた―――と 知っていても総監という存在が、わざわざこの場に参上するとは自分も仲間達も上の者達も誰一人視野に入れていなかったから、彼の登場はアポロに衝撃を与えた。しかも若いから驚いた。【白銀の麗皇】と縁があるとしか聞いていなかったから―――改めてまじまじ見てみると、本当に瓜二つだから驚くしかない 驚いているのはアポロだけではない 「えっと……どういう事、でしょうか…いまいち状況が分からないと言いますか…貴方はどちら様です…?どうして私の名前を…?」 「……!ミリ様、」 「今の人は誰です…?イルミールと名乗りませんでした…?セバスティアーノ、とも聞こえましたが……総監は、リチャさんなのでは…?」 広場を炎で覆い尽くした張本人―――ガイルから後ろに抱えられていたミリは、戸惑った様子で消えそうな声で小さく問う 眼の見えないミリにはゼルの姿は見えない。耳からくる情報が唯一の頼り。そこから聞き取れた情報は、ミリにとって理解しにくい内容でしかない ミリの様子…否、ミリの状況を瞬時に気付いたガイルは眼を張ってミリを見下げる。暫く考え込むと、「……………。ゼル様、どうぞこちらへ」と少し遠くに立つゼルに声を掛け、ミリをゆっくり床に降ろした ゼルもまたガイルの呼び掛けに「あぁ、今行く」と答えて足速にガイルに…否、ミリに歩み寄る。燃え盛る炎も飲み込まれたポケモン達もアポロの存在なんてフル無視、ゼルのカシミヤブルーは今か今かとその眼にミリを捉えたいと駆り立てているのがよく分かった ガイルは一歩引く事で、自分の身で隠れていたミリをゼルに見せる 歩み寄ってきたゼルはミリの姿をその眼で見て、パッと嬉しそうに表情を緩めるが――――ビシィッ!と表情を強張らせた 「――――…………」 一瞬だけゼルの足が止まる しかし次は大股でカツカツと歩み寄り、すぐにミリの前に辿り着く。表情は強張ったままだ。まじまじとミリを注視し―――そして何かに気付いたらしく、息を呑む姿を見せた。対するミリは目の前に人が現れた事に警戒している様子で、逃げ腰姿勢でいる ゼルは小さく溜め息を吐いた。安堵からくるものか、それとも別のものか。おもむろにゼルは着ていた黒いコートを脱いで――― ミリの身体に優しくコートを掛けてあげた 「わふっ、…えっ、え?」 「…こんなにボロボロになってしまわれて…しかし、生きていてくれてこのゼルジース、安心しました」 「??…えっと…ゼルジース、さん…?」 「何があってその様な格好にさせられたかは後々奴等に吐かせるとして。まずはミリ様、お風邪を召されますのでどうぞこちらを着ていて下さい」 「!いえ、そんな…私は大丈夫です!こんな高級なコートを…そんな、大丈夫ですので私の事はお構いなく!」 「駄目です、着て下さい」 「でも、」 「着ないと今すぐにでもそのお口を塞ぎます」 「スミマセン着ていますゴメンナサイ」 最初こそ戸惑っていたミリだったが、コートを掛けられた事に気付き、脱いで返そうとするもゼルの強い力によって遮られ、あまつさえ予想外なトドメの言葉を掛けられてすぐに口を閉じる 顔を赤らめコートの襟で口元を隠すミリの姿に、ゼルの表情に柔らかい笑みが浮かぶ。カシミヤブルーの瞳は愛しげにミリを見下げつつ、その腕はミリがコートを脱がない様にしっかり金具を締めてあげるのを忘れない とりあえず今の言葉は効果アリだな、と一人ほくそ笑むゼルに隣にいたガイルはやれやれと肩を竦めていた 場違いに甘い雰囲気が漂う中、 三つの光が近付いて来た 《―――主、無事か?》 「ブイブイ!」 「ブーイ!」 「うん、こっちは大丈夫。皆は大丈夫?」 《あぁ。この通りだ》 「「ブイブイ!」」 「…よかった、よしよし。…あ、ねえねえ君達。君達のご主人様はこの人達だったりする?」 「「ブイイイイイイ!」」 「ごふっ!?ちょっ、辛辣!」 炎の防壁によって守られていた闇夜と白亜と黒恋。三匹の登場にいそいそとミリはゼルの傍から離れ、三人に歩み寄る よしよしと闇夜の身体を撫でつつ、足下にいる白亜と黒恋にゼルとガイルの事を聞いてみるも、流石に怒った二匹によるたいあたりを食らうハメに 尻餅着いたミリにのしかかってブイブイ騒ぎ出す二匹、あれー?と苦笑するミリの姿を見て―――ゼルの目線は隣に立つ闇夜に向けられる 「…闇夜、状況を説明しろ」 《……すまない、今は…私の口から説明出来ない》 「…大方察しは付いた。ひとまずこの件は保留にしろ」 「…………」 ――――ゼルは気付いていた ミリには、記憶が無い事を 目の前に立つミリは自分の知る【聖燐の舞姫】ではなく、【盲目の聖蝶姫】であり【氷の女王】でもある、ポケモンマスターだという事を 仮に【聖燐の舞姫】の記憶があったなら、確実に自分達の事に気付いてもらえているはずだ なのに、今のミリには全くその徴候を見せてこない。自分達の事を警戒している、戸惑っている――― ブイブイ騒ぐ白亜と黒恋を宥めるミリを、ゼルはカツカツと歩み寄って―――その華奢な身体を、軽々と抱き上げた そう、所謂お姫様抱っこだ 突然身体が抱き上げられた事にぽかんとするミリだったが―――自分が姫抱きされている事に気付くと、他者が見ても分かりやすいくらい顔を真っ赤に染め上げた 「!!?―――あの、ゼルジースさん!?一体何を…!?」 「どうぞ、俺の事はゼルとお呼び下さい」 「!?あああああの、ゼルジ…ゼルさん!私歩けます!歩けますので!おおお降ろして下さいいいぃぃ!」 「ゼル、です。この俺に敬称は要りません。勿論、敬語も。貴女様らしい話し方にして頂けるとこちらも嬉しいです」 「いやいや話聞いてます!?」 顔を赤らめジタバタともがくミリなんてお構いなしに、ゼルはどこか楽しそうにミリを見下げる やはり双子なだけあって、その姿はレンとよく似ている。嗚呼、懐かしい。数ヶ月前には何度もよく見掛けていたものだ。デジャヴとも言いたくなる様な光景に足下にいた白亜はケラケラと笑い、黒恋はゼルの足をビシビシと叩いていた 「一体貴方がどんな方かは存じませんが迷惑を掛けるわけには!お願いだから降ろして下さいいいいい!なによりちょっとこれは恥ずかし、」 「言う事を聞いて下さらないとそのお口を本気で塞ぎます」 「スミマセン黙りますゴメンナサイ」 《…なんだこの光景》 「ゼル様、目が本気です」 「あー…嫌な夢を見たぜ……つーか口がメッチャ痛ェんだけど」 「胸糞悪い夢だったわ…けどアポロ、アンタ他に起こし方は無かったわけ?」 「マトマの実での起こし方って鬼畜ですか貴方…ポケモンじゃないんですから」 「それくらい我慢なさい。ほら、お前達が呑気に昼寝している間にまた侵入者が現れましたよ」 残りの三人が目を覚ました → |