突如壁に電流が走る事でミリの身体に電流が流れ、衝撃と共にミリの華奢な身体は弾き飛ばされ床に叩き付けられる。闇夜と白亜と黒恋は倒れたミリに慌てて駆け寄って身体を支え、怪我が無いかと心配する様子を見せる

ビリビリ痺れる手を擦りながら『ありがとう、大丈夫だよ』とミリは闇夜の手を借りて立ち上がり―――盲目の目はそこを映さずとも、ミリはある場所を振り返った






『―――調子に乗るのも、いい加減にしてして下さい…!』






雛段の下、階段に転がって悪夢に震えていたはずのアポロが決死の思いでその場に立ち上がろうとしていた

よほど嫌な夢を見ていたのか苦悶の表情に疲労の色が浮かんでいる。立ち上がろうにも中々身体に力が入らないらしく、膝が笑っている

壁に手を突きながらも額に流れる脂汗を拭い、虚勢を張りながらアポロは忌々しくミリ達を睨んだ






『流石は【夢魔の影】…この身に体験してこそ、その恐ろしさを実感出来る………ッ、確かにコレを何発も食らってしまったら狂ってしまうのも、無理もない話です…!』

『……初めて食らったにしたら、随分復活が早いのね。精神力が他の人と違って強いのかしら?少し驚きました』

『光栄ですよ、そう言って下さって。お陰様で、目が覚めましたよ…!お前相手に、情けを掛ける必要性はないという事に!』

『…………お馬鹿な人がまた増えちゃったね、闇夜』

『……』

『『ブィィィ…!』』






「アポロの奴…!そのまま目を覚まさず眠っていればよかったものを…!」

「…少しマズくねーか?」

「今のアポロが舞姫達に立ち向かえるほどの戦力は持ち合わせていないはず。闇夜と白亜と黒恋の三匹がいれば舞姫に身の危険はないはずだ」

「ゲン、お前は構わず波動を送り続けろ」

「あぁ、分かっている」






このまま眠り続けていればよかったものを。今の状況で立ち上がったところで、お前に勝ち目など無いに等しいというのに

馬鹿な男だ。そこまでしてロケット団を復興させたいのか―――今のアポロの姿は、ランス同様に端から見たら哀れなモノでしかなかった


ミリが小さく笑う






『貴方が目を覚ましてくれてラッキーですよ。早速ですが教えて下さらない?今、この壁に…何をしたんです?』

『簡単な事ですよ…コレを使って、壁に電流を流したんですよ。強い電流を、ね。安易に触れない方がいいですよ、その格好で触れたら感電死してしまいます』

『この壁の向こう側に私の大切な友人達がいる事は気付いています。…まさか内側にも、電流が?』

『ククッ、流石は女王…察しが宜しくて。そうですよ、全てはコレによって彼等は閉じ込められています』






ニヤリと笑うアポロは自身のポケットからあるモノを取り出して、それをミリ達に見せつける

それは先程メンバー達を電流で囲ませ、マジックミラーを施した―――小型装置機

今のアポロにとって唯一の切り札とも言えるモノ。ゲンは小型装置機を視界に確認するとすぐに波動をミリに送り込んだ





「ッミリ!それの装置を奪ってくれ!そうすれば私達は出られるはずだ!」






キィィィン―――





『…………、闇夜。あの装置を奪って』

『……』





ゲンの波動が明確に届いたかは分からないが

ミリは小さな声で闇夜に命じた。頷いた闇夜は支えるミリの身体から身を離し、猛スピードでアポロに飛び掛かろうとする

しかし闇夜の意図に気付いたアポロは瞬時に手にしていた小型装置機を振り上げて―――





『そう簡単にお前達の思い通りにはなりません…!』





グシャッ!!

―――ガシャン!!






「「「「「!!」」」」」

「まさか!」

「アイツ…装置を壊しやがった!!」






―――アポロは小型装置を床に叩き付け、容赦無く足で踏み潰してしまったではないか

呆気なく無惨な形に成り果てたソレ。飛び掛かろうとした闇夜は宙で急停止し、壊れたソレに対し小さく驚く素振りを見せた。ミリもまたアポロの行動に小さく驚く素振りを見せ、形良い眉を潜めた

アポロは粉々に砕けたソレを足で散らばせながら、流暢に語り出した






『これでお前は彼等を救い出す事は出来ません。もう、彼等は一生あの中に閉じ込められたままです。残念でしたね。それからコレを壊した事で上に私達の状況が危ないと知らせてくれます。采配は私達ではなく、全て上から降ります。そして――――この催眠怪電波装置の起動スイッチも主導権が本拠地に移動され、もう此処でコレを止める事は出来ない!』


「「「―――!!」」」

「おいマジかよ!そうだとしたらナズナ博士でもあの装置を止められないって事じゃねーか!」

「クソッ!ナメた真似を!」

「「「アポロッ!!」」」







ふざけた話があったものではない。こればかりはメンバー達は憤慨するしかない

アポロの話が事実だとしたら、もう自分達があの催眠怪電波装置を止められる事が出来ない。いくらこの場所から脱出出来たとしても壊れてしまった小型装置がある以上、ナズナの技術力があったとしても成すすべは無い

きっともし万が一の事があった時、アポロはこの手を使うつもりでいたのは間違いないだろう。それが今だった、という事―――そしてアポロは今の状況を上へ知らせた。今この屋敷は危険で予想外の事が起きている、あの【氷の女王】が此処にいると―――






『……催眠怪電波装置?』

『ククッ、そうでしたね………お前は何も知らないんですよね。シンオウの、今の状況を』

『……………』

『見えませんよねぇ、あの装置の存在を。盲目は時に便利ですよ。盲目で無ければ私が眠っている間にどうにか出来たはず。仮にダークライやイーブイ達が装置の存在を知っていてもどうする事も出来ない。その事を知らせても盲目のお前がコレをどうにか出来るかと言われたら、勿論出来るわけがありません』







ミリは気付いていない

知らないからこそ、動かなかった

雛段の上に鎮座する聳え立つ存在が―――催眠怪電波装置だという事を

シンオウの、状況を






『現にお前は装置よりも捕らわれた者達の救出を最優先にしている!最優先にしたからこそ、小型装置が壊された。無知と盲目からこその誤算―――それがお前の落ち度なんですよ、【氷の女王】!!』













×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -