「――――アスラン、そこで何をしているんだ」 「……こんなテーブルどこから…」 「コウダイ、ジン君、君達か。見ての通りだ、珍しく美味しい紅茶を頂いていたところさ」 「………。場違いだと言う事は分かっているな?」 「ハハッ、分かっているとも。先程ゼルジース君と此処で一緒に紅茶を飲んでいたんだよ。その本人は何処かへ行ってしまったが…直に戻って来るはずさ」 「総監が、か?……そうか、分かった。総監が戻って来たら連絡をくれ」 「あぁ、分かった」 「アスランさん、ちなみにその紅茶の茶葉の種類と産地は――」 「何やってんだ行くぞ」 気になるんです ―――――――― ―――――― ――― ― 『ちょーっと待って、待ってね。もうちょっと詳しく調べるね………………あと三人、中に捕らわれているね。……?誰だろう。闇夜、知っている?』 思いもよらない言葉に 該当する三人―――レンとゴウキとナズナは、強い衝撃を受ける事になる 「……ハハッ、おかしい話があったもんだ。今…アイツ、知らない人が三人いるって言いやがった。ありえないだろ、そんな話…………ありえないだろ!!」 「…………ッ、舞姫の気には嘘も偽りも感じられない。本当の事しか言っていない。…流石の俺も冷静に対処出来そうにもない…!」 「まさか、まさか……白亜と黒恋の事だけではなく…………俺達の事まで、忘れてしまったのか?…ッミリさん…!」 ミリは記憶を失っている それは、分かっていた。白亜と黒恋の事を忘れ、ロケット団と『彼岸花』の事を忘れ、数週間前の出来事も忘れた。その代わりに思い出したのは六年前の出来事。詳しく調べなければ分からないレベル、あくまでもショックによる記憶の逆転かと考えていたが―――まさかだ、まさか予想以上に状況は悪い事が発覚してしまう 壁の向こう側にいる闇夜もミリの言葉に驚く様子を見せていた 『……』 『うん、知らない人だね。男性なのは分かるよ』 『……?』 『本当だって。こんな状況で嘘は言わないよ』 『……』 『んー、誰だろう………アルフォンスさんに似ている人が一人いるけど、だからといってアルフォンスさん本人かって聞かれたら違うし……あ、もしかしてこの子達のご主人様かな?』 『『ブイブイ!?』』 三人はこのミリの言葉を聞く前までは、自分達の事を忘れられていたとは微塵も考えていなかった 否、その可能性を無意識に避けていたから。しかし改めてミリの口から言われてしまうと―――強烈なショックに、言葉を失ってしまう ショックを受けたのは三人だけではなかった 「……なんて、事なの……ナズナさんとゴウキ、それに彼氏のレンの事を忘れたなんて…!」 「…予想外だ。まさか…私達の事を思い出してくれた代償に、三人の事を忘れてしまうなんて…」 「……ここまでいくとミリの記憶の状態が心配過ぎる。これは本当に早々にカウンセリングさせた方がいいレベルだ」 「なんか…後味悪過ぎるな。俺達の事を思い出してくれたにしろ、代わりにレン達の事を忘れちまうだなんて…」 「一体どうなっちまったんだよ、ミリの記憶は…!こんな形で記憶取り戻しても、前の記憶も消えちまったら意味ねーじゃねぇか!」 シロナ、ゲン、ダイゴ、オーバ、デンジの五人もまた―――記憶を失っていた事実にショックを隠しきれていなかった 【盲目の聖蝶姫】というミリを求めてその面影を押し付けていた彼等であったが―――数週間【聖燐の舞姫】のミリと生活を共にしただけあって、三人を忘れてしまった事実は信じられない気持ちでしかない 三人と五人が動揺を隠せずいる中、 一人だけ、冷静にいられた人がいた 「…落ち着いてください、三人とも。気持ちは痛いくらいによく分かります。私達もそうでしたから……しかし今は冷静になって下さい。貴方達らしくない。ナズナさん、貴方が取りまとめてくれなければ一向に先には進めません。ゴウキさん、貴方もです。特攻チームリーダーとして前に出てもらわなければ」 「ッ、言われなくても分かっている……!」 「…すまない。取り乱した」 「レンさんも、貴方らしくありません。恋人の立場として動揺を隠せないのは十分に理解しています。しかし、」 「分かっている!………頭では分かっている。だからそれ以上言ってくれるな、ゴヨウ」 「………」 「「「「「………」」」」」 唯一冷静にいれたのは、ゴヨウだった 元々冷静な性格に加え、シロナ達五人と違って【聖燐の舞姫】のミリと共に暮らさずにいたお蔭かは分からない。彼の容赦ない言葉は全員に冷静になるように促した 頭では分かっていても感情が思う様に収まらない。流石の三人も冷静ではいられない。自分達の事を忘れ去られた経験があるシロナ達も、気持ちが分かる為に沈黙する 檻の中は自然と静寂に包まれる 檻の外は、ミリの呑気な声が響く 『ねえ闇夜、闇夜は知っているの?この残りの人達の事を』 『……』 『知り合いなんだ?』 『……』 『そっか。なら尚更助け出してあげないとね!君達のご主人様を助け出そう!おー!』 『『ブィィィ!』』 ミリは笑う 最も残酷な事を言いながら 何も覚えていない白紙の状態のままで、ミリは全員が求めていた綺麗な微笑で呑気に笑う 「…嫌な予感しかない。舞姫…まさかカツラ達やカントーやジョウトの奴等の事も忘れてしまった可能性も、」 「言うなゴウキ。…頼む、今は何も言うな」 「…………」 「…一旦この件は保留にしておこう。まずはこの檻から出るぞ。…ゲン、やってくれ」 「任せてくれ」 苦渋な思いを振り切り、ナズナはゲンに波動を発動させるように促す 頷いたゲンは先程同様に波動を発動させた。青色の光が、ゲンの手から輝きを増していく――― 『…?お、ゲンの波動がきた』 『……』 『そうだね、さっき力を使ったから向こうも私に気付いたのかもね。さてさて、なら早速私の方も力を使って――――』 ゲンの波動を感じたミリが壁から手を離そうとした その時だった バチバチバチッ―――!! 『痛ッ!!』 『……!!』 『『ブイブイ!?』』 「「「「「「「「「!!!」」」」」」」」」 壁の外側、つまりミリ側の壁に 強い電流が流れ、ミリは弾き飛ばされた → |