波動がミリの元へ届いたのは数分も掛からなかった。ポケモン相手でも難しかったのに、それを人間がすぐに気付いた。しかもミリは波動と分かった上に誰が発動させたのかも理解していた。その道の者でしか分からない領域の範囲内、彼女は軽々とそれをこなしてくれた ミリは確実にこちら側に身体を向け、近付いて来ている。ヒールの音を軽快に鳴らし、ゆっくりと、着実に――― これには歓喜の声が上がった 「やったなゲンさん!本当に気付いてくれたぜ!」 「すげー、波動って便利だな」 「まさかミリが気付いてくれるなんて………ゲン、どうしてミリが気付いてくれると思ったんだい?」 「…ミリの手持ちにはルカリオがいたのは覚えているかい?その繋がりだと言ったらそれまでかもしれないが―――元々、私達が出会い共に旅をした理由が"ミリから感じる不思議な力を探る為"だ」 「「「―――!!」」」 「…………不思議な力、ですか?」 「?一体どういう事なの?」 「私が波動使いの様に、彼女も不思議な力を持っているという事だ。結局的にそれが何かは特定出来なかったが…確実に言えるのは彼女は不思議な力があるからこそ、波動といったモノにも気付いてくれる。白亜と黒恋でも難しかった意思疎通が、ミリだからこそ叶った事だという事だ」 波動を発動させていた手を止めたゲンは―――ここで初めて自分達の本当の出会いを、本当の目的を告白した 今までゲンが公言してきたミリとの関係性は"旅仲間"とだけだった。それだけで十分だったし、誰もそれ以上の話を追及する事は無かった。敢えてあったとしても一週間という期間の仲としか言ってこなかったし、追及を避けていた部分もあった 言えるはずがない。言うつもりもない。これは自分達の秘密、不思議な力を持つ者同士だからこそ共有出来る境界線なのだから 元々ミリに不思議な力を持っている事を知っていたレンとゴウキとナズナの三人は、ゲンとの仲にそういう話があった事に小さく驚くも、すんなりと理解する事が出来た。しかし初めて聞いた他の者達は動揺を隠せずにいた 波動使いのゲンが波動という不思議な力が使えるならまだしも まさか、だ。まさか―――ミリにも不思議な力というモノを持っていただなんて。にわかには信じられなかった 『――――闇夜、心夢眼を。シンクロするよ』 『……』 壁の向こう側にいるミリが言った、心夢眼という聞き慣れない言葉 心夢眼とは一体何なんだろうか。シンクロとも言っていたが、それは一体何を意味する? 疑問と動揺に揺れる彼等を余所に―――闇夜の瞳が、ゆっくりと閉じられた 再び開かれたその金色の瞳には、何やら不思議な光が輝いていた そして――― 『――――――ッ!』 ミリの表情が、驚愕の色に染まる 闇夜が辺りを見渡し、足下にいた白亜と黒恋に視線を向けた時だった。ミリの表情は固まり、身体も硬直する。先程ののほほんとした雰囲気なんて影を薄め―――まるで信じられないとばかりに、ナニかに怯える素振りを見せた 『ッ――――……』 『…?ブイ?』 『ブイブイ?』 『……、……?』 『………ううん、何でもない。闇夜、視線をあっちによろしく』 『……』 一体ミリは何に驚いたのか むしろ今のミリには目の前の世界が見えているのだろうか? 『――――……』 『……?』 『『ブーイ?』』 闇夜の視線がこちらに向けられる。否、こちらというよりは見えない壁、マジックミラーの壁側と言うべきか ミリがこちらに歩み寄ってきた。盲目なのにその足取りはしっかりしている。闇夜はゆらりとミリの後に続き、白亜と黒恋もトトトッと着いて行く 目の前に辿り着いた。自分達の眼の先に、彼女は立っている。腕を伸ばせば簡単に触れられる距離にいるというのに―――嗚呼、こんな壁さえ無ければ今すぐにでもミリに触れられるのに 細い腕が伸びてきた。細い腕が、手が、壁に触れられた。控え目にコンコンッ、とノックされる。盲目の、漆黒の瞳はまっすぐにこちらに向いている。久々に真っ正面から見た彼女の瞳は、とてもまっすぐで綺麗だった コテン、とミリは頭を傾げた 『……いやいやいや、これどう見たって不自然でしょ。この壁だけマジックミラーっておかしいって。此処だよ、確実にゲンはこの壁の向こう側に居るって』 「「「「「「「「「―――!!」」」」」」」」」 『……』 『あらあら。まぁ知らなければそう思っちゃうよねー』 『『ブイブイ?』』 やはりミリには目の前の世界が見えている 見えているからこそ、ミリは目の前の壁をマジックミラーだと見抜けた。盲目の人間なら確実に無理な話だ よくよく考えたら彼女には世界が見えている丁で会話を発する事があったのを、六年前を知る者達は思い出す。盲目あるまじき行動もしていた事もあった。それが彼女の七不思議であり、不思議と魅力としてもあった。もし心夢眼というモノが関係していたとしたら、この点にも説明が付くのかもしれない マジックミラーっていうのはね〜、と呑気に説明を始めようとしたミリの言葉が―――不意に止まった 『……あらー?』 『……?』 『やだ私ったら。なんかすっごく変な格好してたんだね。今気付いたよーアッハッハ』 「「「今かよ!!」」」 今更になってミリは自分の大惨事に気付いてくれた様だ 呑気に笑い出すミリに一部の者達からツッコミが入る 『あれー?どうしてこんなにボロボロになっちゃったんだろ。いつも着ていたコートとか脱いだ覚えはないんだけど…あれー?』 「「「「分かったら服を着ろ!」」」」 『……?』 『えー?やーよ変な人達の服を脱がしてまで着る必要はないよ。ロケット団にはなりたくないよ。それにあの服、なんかダサいし』 『……』 「いやそこは引くなよ!」 「推せよ着させろよ無理矢理にでも!」 「…ダサい…(首領が聞いたら泣くしそのダサい服を着ていた俺は一体…」 『んー、まあ、いっか。この服が乾けば問題ないし。心配ないねー』 「「「「「「よくない!!」」」」」」 嗚呼、駄目だ この子は本当に何も分かっていない ケラケラと呑気に笑うミリに流石に全員のツッコミが入が、見えない壁の所為でそのツッコミは届く事はなかった 『―――――さて、と。このマジックミラーの向こう側には一体誰が捕らわれているのかしら。ちょーっと集中するから、お口チャックお願いねー』 『『ブー』』 『……』 ミリが動き出した 人差し指を口に当て、静かにしてもらう様に三匹に促す行動を見せる 彼女は一体、これからどうやって自分達の事を調べるのだろうか 「!よし、なら私も――」 「待て、ゲン」 「!…何だ、レン。何故止める?」 「…お前がわざわざ波動を使わなくても、ミリに任せればいい」 ミリの手が壁に付けられる。盲目の瞳が、ゆっくり閉じられた。一体どういう行動をしようとしているのか、全員が固唾を呑んで注目していく中―――それは、起きた ポウゥゥッ、とミリの手から淡い光が輝き出した。暖色系の淡い光は徐々に徐々に光の強さを上げていく。ゲンが放った波動とはまた違った、とても優しい光だった 【盲目の聖蝶姫】として初めて見せた光景。初めて、内なる力を使う姿。勿論眼前の光景を初めて見た者達は驚きの声が上がった。まさかこんな事が出来るだなんて、にわかに信じられるものではなかったのだから 「―――やはり、彼女の力は善のモノ…気持ちが安らかになる、温かい力だ」 独白に呟く、昔の記憶を脳裏に過ぎらせながらゲンは言う 実際に見たのは初めてだ。七年前に感じた疑問をキッカケに、共に旅をしようと進めた自分を評価したい 自分の読みは間違ってはいなかった ミリには不思議な力を持っていた事を――― 『―――――……』 『……、』 『この壁の向こう側にいる人数は、九人………意外に人がいたんだね。壁は…マジックミラーそのものは薄いね。簡単に壊れそうだからいいとして…皆さん無事みたいだね。あ、でもちょっと怪我してるっぽい。後で手当てしてあげるとして… ………………、あらー?』 『『?』』 ミリの表情が、固まった 『……………ねえ、闇夜ちゃん』 『……?』 『さっき…他の人間達って言っていたよね?』 『……』 『………なーんかすっごく見覚えがある人達がいるのは、私の気のせい?』 のほほんとした姿も、怖い姿も一変した、 ぎこちない様子で、ミリは問う 『ゲンは勿論、さっき別れたばかりのダイゴでしょー、シンオウにいるはずのデンジとオーバーにゴヨウに…シロナちゃんでしょー?』 『……』 『あぁ、って…………マジで?』 『……』 『………ううううううそーーーーーん!!』 仰天した → |